第73話 桜花の決意
あれから数百年。余りにも長い年月が経ちすぎて、途中からは数えていない。魔神の魂を封印したためか、俺の体は不老不死となってしまった。だが、肉体は変わらずとも、精神は擦り減っていく。
人間は物語に出てくるエルフの様に長生きするのには向かない精神構造をしているのだろう。俺の精神は大分病んできていると自分でも思う。
(お前も大概強情だな。そろそろ俺にその体を譲れって)
「だまれ、お前には絶対に渡さん」
こいつとの付き合いも大概長くなってきて、俺の話し相手は今ではこいつしかいない状態だ。老いの無い体になってしまったため、人との生活は絶っている。最初のうちは人の世界に身を置いていたが、親しい人が次々と死んでいく中、自分一人が残るのは辛いものだった。最初の100年で人との交流は絶ってしまった。
「ミャ~」
俺の足元に猫がすり寄ってくる。
「どうしたタマ。お腹が減ったのか?」
これは俺が長い年月を一人で過ごすのが辛かったので錬金術で作った生物だ。知能は人間並みになるように作ったので、後十数年もすれば人語も話せる様になるだろう。俺の今の話し相手は魔神だけ。こいつとの会話はいい加減飽きてしまった。
「タマ、早く大きくなって、俺とお話ししてくれよ」
「ニャ~ン」
ふふ。分かったよって事かな。
さらに数百年。そろそろ俺の精神の限界がきつつある。一番つらいのが、過去の記憶を忘れつつあることだ。人間1000年以上生きると駄目だな。俺は既に自分の死を望んでいる。
(お前も飽きないな。毎日死んだ人間を拝んで意味があるのか? その人間は既に別の者へ転生しているはずだぞ)
「そんなことはどうでもいいんだ。俺はアイシャの墓を参ることで、当時の思い出に浸っているだけだ。そんな事はお前も分かっているだろ」
(まあな。お前とは繋がっているからな。お前の事は自分の事の様に分かっているさ。それはお前だってそうだろ)
確かに、お互いに深くつながっているため、こいつの考えていることも分かるようになっている。
こいつもここ数百年は体を譲れとは言わなくなった。
(すまなかったな。俺が遊びで放った一撃で殺してしまった)
「俺もお前の部下をたくさん殺した。お互い様だ」
もともとのこいつは魔神と呼ばれる様な悪の存在ではなかった。人とは違う種族という事だけで迫害を受け続けた結果、数百年前のようにお互いに引けなくなってしまっていた。
やられてはやり返す。ただその繰り返しの中でこいつの魂はどうしようもなく汚れてしまった。
(もう分かっているのだろう。俺は永遠に続くこの戦いに疲れたんだ。お前と過ごしたこの1000年は穏やかに過ごすことができた。お前が死んで、また破壊と殺戮の世界に戻るのは嫌だ。それならば、お前の手で俺を消してくれないか)
「駄目だ。お前はこの世界の被害者だ。俺はお前を救いたい」
(無理だ。俺の魂はすでに汚れきっている。お前のように澄んだ魂ではない)
「だったら、俺とお前が一緒になればいい。真っ黒のお前と、真っ白な俺。そうすれば灰色の魂だ」
(何を馬鹿な事を言っている。そんな事できるものか。それは、お前自身が消えるということだぞ)
「いいさ。俺はお前のことを理解しているし、お前も俺のことを理解している。だったらどっちがどっちになっても同じだ。お前は俺で、俺はお前なんだ」
(本気なのか)
「お前だったら、分かるだろ」
(……)
「俺ももう生きることに疲れたんだ」
(出来ることなら、一つになるのではなく、一緒の世界で生きてみたかったな)
「そうだな。お前と一緒にいろいろと遊んだりできたら楽しそうだな。次に生まれ変わったらたくさん家族を作りたい」
(それは楽しそうな毎日だな。この俺に家族ができるのか。夢みたいな世界だな)
「ああ、騒がしくて、楽しい毎日になるだろうな」
(もう争いの無い世界だったらいいな)
「そうだな。誰も傷つかない世界だったらいいな」
俺はタマを呼び、事の経緯を説明することにした。一番年上のタマにだけは真実を告げた。
そして他の者には俺が死を望んでいるとしれば悲しむだろうため、魔神に乗っ取られそうだと嘘をつき、死を選ぶことにした。
タマ、ミケ、ハナ、ポチ。長い人生の中で4人の眷属を作った。俺がいなくなった後、この世界を見守ってもらう存在が必要だった。この世界に来て得たかけがえのない家族だ。残していくこいつ等のことも心配だ。
恐らく、俺が転生しても、今の記憶は無くなり、別の個体として生まれることになるだろう。
それでも、こいつ等には俺を見つけて欲しい。そのためこいつ等には俺の魂と深い繋がりを付与した。俺が転生したら見つけてくれるだろう。
皆、転生した俺の事をよろしく頼む。
(桜花、今日まで世話になったな。次の世では幸せになろうな)
「さらばだ魔神レイナード。俺の最後の友よ。次の世では――」
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こんにちは。
今日の会議は目を開けて寝て乗り切った作者です。
遂に会社の人でコロナ患者が出てしまいました。もうすぐ隣まで来てしまいましたね。
はやく収束することを祈りつつ、後書きです。
魔神さんは桜花さんとの長い付き合いの中で、変わっていったみたいですね。二人は納得して一緒になったんですね。
自分の息子にレイナードと名付けたのは偶然ではないのでしょうね。どこかで魂の奥底で覚えていたのでしょうか。
真面目な話は疲れますね。自分にはちょっとふざけている話の方がしっくりきます。
明日からは元の時代に戻ります。
それではまた明日。
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