第72話 桜花の戦い

 アイシャ、ついにここまで来たよ。君を失ってからも沢山の血が流れたよ。でも今日で全てが終わる。いや、終わらせてみせる。


「魔神よ。お前は僕が命に代えても倒してみせる」

「貴様が今代の勇者か。性懲りもなくまたも俺の前に現れやがって。俺が何をしたというのだ。たかが人間を数十万人程度殺しただけだろう」

「たかがだと……」

「いや、すまんすまん。その中にお前の想い人がいたんだったな。あれは最高に面白かった。今日は次の想い人はいないのか。また殺してやるぞ」

「貴様、絶対に許さん」


 腰に下げているデモンズスレイヤーを抜く。これは貴様を倒すためだけに作られた剣だ。お前を倒すために迷宮奥底に眠るこの剣を見つけて来たんだからな。今日こそお前を殺してやる。

 

「また、その剣か。お前たちはバカの一つ覚えの様にその剣に頼りおって。所詮その剣は俺の肉体を傷つけるだけだぞ。俺の魂までは滅ぼせないのにバカな奴らだ」

 そんな! この剣があればこいつを殺せると思っていたのに……。

「肉体なぞ、数百年あればすぐ元に戻る。お前たちのやっていることは所詮無駄な努力なのだ」

「煩い。それでも数百年はお前を止められるんだ。やってやる」



「いい加減、諦めたらどうだ」

 くそ、あれから既に数時間は戦い続けている。正直言って、デモンズスレイヤーのお蔭でこいつを殺すことは可能だろう。既に片腕はとばしている。後は隙をみて首を刎ねてしまえばいいだけだ。

 だが、それでいいのか。それでは、また数百年後に同じことを繰り返すだけの結果になってしまう。次代の勇者が必ずこいつを倒せるとも限らない。

「ほら、もう俺を倒してくれてもいいんだぞ。そうすればお前は元の世界に帰れるぞ。お前がいなくなった後、再び復活して遊ぶだけだからな」

 くそ。何かこいつを倒す方法は無いのか。倒せないまでも、復活できない様に封印などは出来ないものか。


 封印、封印か。何かにこいつを封じることはできないか。ありがちな所でいうと壺とか剣だな。だが、あいにく封印できそうな物は持っていない。

 あと僕が持っているものと言えば、この体か。だが、この体に封じたとして上手くいかなかったらどうする。もしこの体が乗っ取られてしまったら。


 こうなったら鎌をかけてみるしかないか。

「お前の魂が復活すると言うのなら、魂ごと封印してやろう」

「ふ、封印なんかで俺の、た、魂がどうにかなるわけ、な、無いだろ。もう諦めて俺を殺せよ」

 うーん、明らかに封印という言葉に動揺しているな。封印は有効という事か。ならば、危険な賭けだが、乗っ取られそうになったら封印を解いてしまえばいい。ダメ元で封じてやる。その後、時間をかけて魂ごと消滅させる方法を探してやる。


「ま、まさか。お前。自分自身に俺を封印しようとしているのか。そんな事をしてみろ、お前は元の世界に帰れなくなるぞ」

 僕が封印の為に自分の体に魔法を施しているの見た魔神が慌てている。

 あちらに帰るとかそんなのは、もういい。両親と幼かった妹にはまた会いたかったが、アイシャの守りたかったこの世界を守る方が重要だ。

 魔神の言葉は無視して、準備を進める。封印の魔法は始めて使うが、この世界は想像するだけで魔法が使える世界だ。イメージをしっかり固めてしまえば大丈夫だろう。僕の体から一ミリも出れない様に封印してやる。 


「俺を封印したら、お前の体を乗っ取ってやるぞ。いいのか」

 好きにしろ。俺はお前になど屈しない。

「止めろ。封印だけは止めてくれ。あの世界は嫌なんだ」

 煩い。もう遅い。既に魔法は発動している。僕は覚悟を決めているんだ。


 幸い、初めて使う封印の魔法は上手く発動したみたいだ。僕の中に奴がいることがはっきりと知覚できる。

「後はこいつの魂を削る方法を探さないと……」

(むだだ。俺に死は無い。今度は俺がお前の魂を内側から消し去ってやるわ)

「やってみろ。僕はお前なんかに絶対に負けない」

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