第23話 旅立ち前のあれこれ

「師匠、この方が何故部屋に居られるのですか?」

 俺とレッドが話をしているとライカ達が部屋へ入ってきた。

 普通にノックもせずに入ってきた。やはり礼儀というものを教えて置くべきだった。

 丁度いいのでレッドを紹介をする。


「――と言うことで、今日からはレッドも一緒に過ごすことになる。だからお前たちは自分の部屋で寝――」

「なりません! この者が味方がどうかなど分からないのに師匠と同じ部屋で過ごすなど認めません」

 セツナとミリアもうんうんと頷いている。

 確かに信用は出来ない奴なのだが、俺を殺しにきたりはしないはずだ。こいつは何か別の目的があって俺に接触してきているはずだ。

「アル様、私に構わずどうぞいちゃついてください。私は隣のベッドからこっそりと覗かせて頂きますから。心配しないでください。気配はしっかりと消しますので」

「やっぱりお前も出ていけ」

 

「それでは師匠、お風呂へ参りましょう。昨日はお背中を流せませんでしたので、今日は逃しませんよ」

「いや、今朝ワイズと入ったから」

「ダメです。私がきれいに洗って差し上げますから」

 俺の腕をとってグイグイと引っ張っていく。セツナとミリアも付いてきた。ついでにレッドもいる。宿の風呂場は狭い。大人3人では入れないくらいの大きさだ。

「何でついてくる?」

「お風呂はいつもライカの担当だから何してるのかなと思いまして」とセツナ。

「右に同じ」とミリア。

「一人は寂しくて」とレッド。


「何もやましい事はしていない。背中を流してもらうだけだ」

「この間は全身くまなく洗わせていただきました」

「「ライカ、ずるい」」

「ダメです。お風呂は私の担当です。譲りませんよ」


「おら、喧嘩するな。今日からはレッドと一緒に入るから、お前らはいらん」

 ライカがショックを受けて青ざめている。

「私は嫌ですよ。何が悲しくてアル様と風呂なんかに入らないといけないんですか」

「そ、そうですよ。師匠の背を流すのは私の仕事です。師匠に拒否権はありません」

 何だか無茶苦茶な理屈をこねてきたが、もう何年も続けているやり取りだ。すでに面倒になっている。

「おい、ライカ、さっさと行くぞ。他の奴らは部屋に戻ってろ」 


 風呂場に移動し、服を脱ぐ。これも一人では難しいのでライカが手伝ってくれる。一人でできないこともないが、時間がかかる。


「師匠、また傷が増えてしまいましたね」

 ライカが胸の傷に触れる。

「お前たちを守れたんだ。名誉の傷だ」

「これも、この傷もそう。これまでもたくさん助けて貰ってます」 

「そうだな。たくさん旅をして来たからな」

「私はやっと師匠をお守りできるくらい強くなれたと思ってました。でも結局守られてばかり……。そして師匠は傷ついていく」

「弟子を守るのが師匠の仕事だ。気にするな。お前はよくやってくれている。もう俺の事は気にするな。お前は成人したんだ。自分の道を行っていいんだ」

「ならば、これからもお傍においてください。私は師匠に拾われたときに貴方に生涯仕えると決めているのです。そしてできることなら――――ごにょごにょ」

 あの時の約束をまだ覚えていたのか。ガキの戯言と流していたのだが、思ったよりも本気だった様だ。

 俺は俺自身をライカに仕えてもらえるような立派な人物じゃなくて、鬼物?ではない。だから出ていって貰いたいと考えていた。

 でもそれは師匠として余りにも情けない考え方なのではないか。俺がこいつ等を連れていても恥ずかしくない程の者になれば、別に一緒にいてもいいのではないか。

 俺の邪魔さえしないのであれば。


 それもこの旅の中で結論がでるだろうか?

 旅は人を成長させる。ライカ達はまだまだ成長できるだろう。そして俺も。

 

「出て行きたくなったら、いつでも出て行っていいからな」

「絶対にありえません」

 これも定番のやり取りだな。


「師匠、これ、すごく大きくなってますね」

 ライカが目線を下の方へ向けて言ってくる。一応隠していたのだが無駄だった様だ。触ろうとしてくる手を叩く。

「師匠、いつお情けをいただけるのでしょうか?」

「一生無いわ。さっさと背中を流せ」

 耳と尻尾をしょぼんとさせて背中を流し始めた。


 無いよ。多分。無いよな。


 風呂で汗を流して部屋へ戻るとレッドだけが残っていた。セツナとミリアは自分たちの部屋へ戻ったそうだ。


「レッド、明後日の朝から獣人たちの国へ向かう訳だが、明日一日かけていろいろと調べたいんだが、何処かいい所を知らないか?」

「アル様、私は御者ですよ。知るわけないじゃないですか。ですが、こう言ったものならば持っております」

 レッドから手渡されたのは一冊の本。そのタイトルは「これ一冊で全てわかる獣人の国」

 なんて都合のいい本。

「おい、レッド」

「はい。何でしょうか」

「これ、著者がアルフレッドって書いているぞ」

「そうですね」

「これ、お前だろ」

「私はパン屋の倅ですよ。本なんて書けませんよ。他人です。他人」

 まあいい。こいつが獣人の国に詳しい事はわかった。何かあればこいつを頼ればいいだろう。

 こいつはいったい何者なんだ。


「それじゃ寝るか」

「はい。では私は気配を消しておきますね。存分にお楽しみください」

 何もしないから。ただ寝るだけだから。


 そしてライカが既にスタンバっているベットに普通に入る俺がいる。感覚がマヒしてきたのか、気がついたら普通に一緒に寝ていた。


 やばい、こいつ等に徐々にドクされてきている。

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