第12話 実験実証

 父が帰ってきた。丁度夕食の時間にぴったりだ。


 夕食を食べた後、父に実験結果を伝える。


 レベル2の効果が出たことに驚いたようだ。


「一部再生の魔鉱石か。どうしようかな」

 父は考えこんでしまった。


「母さんと冒険者ギルドに行った時に、腕がない人と、足がない人がいたよ。その二人に使えないかな?」

 父が所属しているマリームギルドにいた二人だ。


「ギュラルとアイントか?良いけど理由が必要だな。」


 まさか息子の天職のスキルで治せるから使ってくれとは、いくら信用している仲間でもできないそうだ。


「なら父さんがダンジョンで、たまたま取れた事にしたらどうかな?」


 キーホルダーにして、渡して使ってもらえばいいだろう。


「そうだな。明日は一緒に行ってみるか。」


 明日は父と一緒に、ギルドに行くことになった。楽しみだな。



 翌朝。


 僕は一部再生レベル2の魔鉱石が付いた、キーホルダーを4つ持ってマリームギルドへ向かう。針金に灰色の魔鉱石が付いた簡単な作りだが、ちゃんと効果があるのは、腕力強化で試している。


「おはよう!」

 父は元気良くギルドの扉を開ける。


 中にいた人達が一斉に見て挨拶をしてくる。僕も頭を下げて挨拶をする。


 中にギュラルさんとアイントさんもいた。

 ギュラルさんは右腕が肘から先がない、鉄の鎧を着た大柄の30代男性だ。大剣を片手で振り回す程の力があるみたいだ。右腕はモンスターにやられてしまったらしい。


 アイントさんは、左足が膝から先がない、細身の20歳男性だ。速さに自慢の冒険者だったが、左足をモンスターにやられたため、事務員としてギルドで働いている。今は杖を使って移動している。


 まずギュラルさんに父は、声をかけている。


「ギュラル調子は、どうだ?」


「カイルか。久しぶりだな。坊主は息子か?」

 僕も自己紹介をする。


「それより、ギュラルいい話があるんだがこいつを手に握って、見てくれないか?」

 父は灰色の魔鉱石の付いたキーホルダーをわたす。効果は一部再生Lv2だ。


「なんだ?この石を握ればいいのか?」

 ギュラルは、疑う様子もなくキーホルダーを握る。


「いいことが起こるぞ。魔力を込めるつもりで軽く握ってくれ。」


「ほう?そりゃよっぽどの事だろうな?」

 ギュラルは、笑いながら左手で握る。


 魔力を込めるつもりが起動の合図となり、キーホルダーは効果を発揮した。


「おっ、おい!右手が変だぞ!」


「大丈夫、大丈夫。ちょっとまて。」


 20秒経過した。


 キーホルダー

 品質 低

 効果 一部再生Lv2

 効果時間 0秒


 魔鉱石の効果はきれた。


「おいっ!嘘だろ!」

 ギュラルは大声で叫ぶ。右手をみて唖然としている。


 父は笑ってみている。僕は実験成功だ!と心の中で喜ぶ。


 ギュラルは、再生した右手を何度も握っている。左手と比べると、筋肉の付きかたは、弱いが再生しただけで充分だろう。5秒では完全に再生できなかったから、レベル2で良かった良かった。


「おいっ!これはどう言う事だ!」

 ギュラルは、我にかえった様に、父に詰め寄る。


「説明は後だ。アイントを呼んでこよう。」


 ギュラルは、理解したのか受付に入り、アイントを右手で引っ張ってくる。近くの椅子に無理矢理座らせる。


「ちょっとギュラルさん、引っ張らないでくださいよ。」

 アイントは、迷惑そうに話す。

 冒険者の頃はもっと楽しそうに生活していたが、事務員になってからは、淡々と仕事だけをこなして、つまらなそうに生きている青年だ。


「悪い悪い。それより気付いたか?」

 ギュラルは何度も右手で、アイントの肩を激しく叩く。


「痛い痛い。何ですか。ギュラルさんが面倒くさいってことですか?」


「ちげーよバカ。」

 ギュラルは、アイントの頭を右手で叩く。


「痛!」


 うん。よっぽど右手があることが嬉しいんだな。右手しか使ってないし。


「ほら見てみろ!」

 ギュラルは右手を見せる。


「ん?ただの手じゃな、あっ!右手!あれ?【再生師】に治してもらったんですか!」


「いや違うんだ。こいつだ。」

 ギュラルは自慢気にキーホルダーを見せる。父はもう一つ、キーホルダーを見せる。アイントに手渡した。


「何ですか?この石は?」


「そんなのいいから握って魔力を込めろ!早く!」

 ギュラルが興奮しながら急かす。


「分かりましたよ。それより何でいき、あれ?足が生えてきてる?」

 アイントは、ズボンをまくり眺めている。


 20秒経過した。


「な!スゲーだろ!」

 なぜかギュラルが自慢気だ。


 確かにスゲーと思うよ。僕の能力は。


「これヤバくね?え?普通2億エーン以上かかる再生の魔鉱石を俺に使ったのか!おいっ!カイルさん!」

 アイントは、よろめきながら立ち上がり、父にしがみつく。目元は濡れている。


「詳しい話をしたい。個室は用意できるかな?アイント事務員?」

 父は笑いながらアイントに伝える。


「待っててください!勝手に部屋の鍵持ってきますので、ついて来て下さい。」

 アイントは、ゆっくり歩きだし、個室へ向かう。杖は床に転がしたままなので、僕が拾っておく。


 個室は、テーブルと椅子があるだけの簡易な部屋だ。僕と父が隣に、正面にギュラルさんとアイントさんが座っている。


「で、これはなんだ?」

 二人はテーブルにキーホルダーを置く。


 さて、父はどんな説明をするのかな?





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