第4話 救援要請

 その後、僕らは保護した天城さん達を引き連れて拠点としている高校まで戻って来ると、そのまま会議用として利用している職員室へとやって来ていた。


「それで、天城さん達は何故このようなところに?」


 現在、打ち合わせ用のテーブルに僕とアヤメ、翔琉さんに美里さんの4人、その向かいに天城さんとその両脇に自衛隊のおじさんが2人の計7人が席に着いていた。


「現在、日本の首都で有る東京が《デスペラード》と名乗るテロリストに占拠されていることを知っているかい?」


 まあ、テロリストと言う表現が正しいのかは疑問だったが、そこを指摘しても仕方の無い事で有るため僕は黙って肯きを返す。


「では、最近そのテロリスト達に新たなメンバーが加わり、急速に勢力を拡大するとその支配圏を大幅に拡大していることは?」


 流石にそれは初耳だったので、僕は首を軽く数回左右に振った後に口を開いた。


「それは、知りませんでした」


「まあ、新たなメンバーと言ってもたった1人では有るんだけど、その新たに加わった『正義ジャスティス』と名乗る男が今までのテロリストとは比では無い程強力な力を持っていてね。正直、このままでは関東だけでは収まりそうに無い勢いでその勢力を伸ばしているんだ」


 他の魔人とは比べ物にならない力と言う事は、おそらくその『正義ジャスティス』と名乗る男は神器所有者なのだろう。

 それどころか、そこまで圧倒的な力を持っているのならば僕達が探す『原罪』の適合者と言う可能性だって有り得る。


「因みに、さっき見たボク達の力とどっちが上?」


 おそらく、アヤメも同じ事を考えていたのかそのような質問をぶつける。


「すまない。私達のような力を持たない者にとっては、君たちの力は余りに強大すぎて比較のしようが無い。でも、感覚から言わせてもらえば君たちと同等程度には強いんじゃ無いかと思う」


 先程の戦闘では大幅に力を押さえていたため、その時の僕らと同じ程度の力が全力なのか手加減してそうなのかで評価が変わってくるところだ。

 しかし、それでも間違い無く相当神器の力を使い熟している人物であることは間違い無い。


「つまり、おじさん達はそいつらか逃げて来た、って事か?」


 そう問う翔琉さんに、天城さんは首を横に振る。


「いいえ。私達はそのテロリスト達を倒しうる戦力を探して、西日本の何処かにあると言う常人と魔人が共に共存する集落を探していました。話しによると、その集落を守護する魔人は神の如き強大な力を持っていると噂されていますし、常人と魔人の共存を実現出来るだけの人物であれば、きっと我々に助力を得られると信じて」


 話しの流れから、それはきっと自分達『原罪』の適合者の事なんだろうなと予想する。

 しかし、やはり噂が広まる中で話しが大きくなりすぎている予感がする。


「そして、先程のそこのお二人の戦闘を見て私は確信しました。こここそがその噂の集落であるのだと! よって、ここの代表であるお二人こそ、噂になっている魔人の方々なのでは無いですか? それに、先程のお二人のように常人にも力を分け与える特別な力をお持ちなのでは無いかと私は考えております」


 天城さんはそう言うと、翔琉さんと美里さんの二人に視線を向ける。

 無理は無い。

 魔人化した物は紅い瞳に額に大小の差は有れど角が生える。

 つまり、一目見ただけで魔人と分る見た目になるのだ。

 よって、僕とアヤメのように金色という珍しい瞳の色をした者でも角が無ければ魔人化していない普通の人間だと判断したのだろう。

 それに、僕とアヤメに比べて年上の二人の方がそれっぽく見えると言うのも有るかも知れない。


「すみません。確かに私達はここの代表のような立場を任されていますが、間違い無く天城議員がお探しの人物では無いと思います」


 そう頭を下げる美里さんに、天城さんは明らかにショックを受けた表情を浮かべる。

 だが、次に翔琉さんが「だけど、その探し人が何処にいるかはわかるぞ」と言ったことで再び明るい表情へと変わった。


「本当ですか!? その方は何処に?」


 そう尋ねられた翔琉さんと美里さんの視線が僕らに向く。

 そして、それと同時に天城さん達の視線も僕らの方へと移る。


「俺達はこの西日本で、と言うより日本中でこの二人とその仲間達より強いやつの話なんて聞いたこと無いぞ」


「まあ、確かに二人は私達のように角は生えてませんが、それでも私達とは比べ物にならない程強大な力を持ってますからね」


 その言葉を聞いて、天城さんは驚きの表情を浮かべたまま固まってしまう。

 おそらく、その噂の『神の如き強大な力を持った魔人』が、魔人でも無ければ僕らのような子供だとは思っていなかったのだろう。


 だが、このままでは話しが先に進まないので、僕は簡単に魔力の事や魔人化の事、それに僕らの力の源である神器や『原罪』についてを説明する事にした。


「・・・・・・なるほど。実感の湧かない話しでは有りますが、既にこのような世界になってしまった以上、その話しを信じる以外に道は無いのでしょうね」


 そう告げた後、暫くの間を置いたところで天城さんは表情を引き締め、改めて僕とアヤメを真っ直ぐに見据えながら言葉を紡ぐ。


「改めてお願いします。どうか、東京を占拠するテロリストの討伐にお力をお貸し頂けませんか?」


 そう言いながら、左右に控えて一切口を開かなかった自衛隊のおじさん2人と合わせて3人は頭を下げた。


 だが――


「嫌だ」


 速攻でアヤメは拒絶の言葉を口にする。


「アヤメ!?」


「国会議員、ってのは、国の偉い人なんでしょ? だったら、愛知で会った同じような人に薬を盛られた上に力尽くで捕縛しようと特殊部隊を送り込まれたのを忘れたわけじゃ無いよね? それに、その時にもう国の偉い人には関わらないようにするって決めたよね?」


 まさしく、それがあったので僕も答えには悩んでいた。

 過去、愛知で魔物の群れを退けた際、僕らにお礼がしたいと言ってきた知事や各地の市長、自衛隊の幹部の人達の厚意を断り切れずに祝賀会に参加したことがある。

 その結果、アヤメを人質に取り僕を自分達を守るための駒として使おうと考えた彼らによって薬を盛られたのだ。

 勿論、僕には『アイギス』の守りが有り、アヤメはそもそも『聖杯カリス』でどんな薬や毒も打ち消せるため、僕らを捕縛に来た部隊を難無く振り切る事が出来たのだが、それ以来僕らは権力者には不信感しか抱いていないので関わらない方針を決めていたのだ。


(でも、東京を占拠している《デスペラード》の良くない噂は色々と耳にするし、どうにか力にはなりたいんだよな。それに、その新たに加わったメンバーの『正義ジャスティス』って男の存在も気になるし)


 僕自身の考えと、先程のアヤメの言葉に悩んでいると、不意に天城さんの方が口を開いた。


「確かに、そのような経験をされているお二人にこのようなお願いをするのはおこがましい事だと重々承知しています。ですが現在、噂によれば《デスペラード》と名乗るテロリストにより、多くの東京都民が不当な労働に従事させられ、その心身をまるで奴隷か家畜のように弄ばれていると言われています」


 そう語る天城さんの手からは、あまりにも強く力を入れて握り締められた影響か血が滴り落ちていた。


「だからこそ、一刻も早くテロリストを排除し、再び平穏な東京を取り戻さなければならないのです!」


 その瞳に一切の嘘偽りは無く、本心からの言葉で語られたものだと僕は感じた。


「ねえ、アヤメ」


 僕がそう声を上げた瞬間、アヤメは大きなため息をつくと口を開く。


「まあ、こんな話しを聞いちゃったらキョージならそうなるよね。分ったよ。ボクもこれ以上は反対しないし、きちんと手も貸すから」


「ありがとう」


「まったく、これだけ色々あってもそのお人好しな性格だけは変わんないよね」


 呆れたような笑みを浮かべてそう告げるアヤメに、僕は「まあ、元々そう言う性分なんだよ」と返した後に天城さん達に視線を向ける。


「では!?」


 僕らの遣り取りを聞いて、希望に瞳を輝かせながら尋ねてくる天城さんに僕は力強く肯きを返す。


「その作戦、僕らも力を貸させて頂きます」


 こうして、これから5日後、2043年1月28日の水曜日に決行される東京奪還作戦に僕らが参加する事が決定したのだった。

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