第6話 『アーマゲドン』と『原罪』
リヴィアさんは僕と握手を交した直後、「そろそろ限界か」と、ボソリと呟くと僕から距離を取った。
直後、その体が再び光に包まれたかと思えば、光が収まるころには元のアヤメの姿へと戻っていた。
「一応説明しとくと、シショーの魂が表に出てこれるようにボクの神器『
こちらが尋ねるよりも早くアヤメはそう答えると、軽く息を吐きながら近くの切り株に腰を下ろす。
「おかげで、暫くの間は疲れて十分に動けないし、回復するまでの間にシショーの話しの補足とか今後のことを話そうよ」
アヤメはそう告げると、彼女の目の前、少し離れた位置に倒れている木に腰を掛けるよう手で合図を出してくる。
その指示に従うように僕が彼女と向かい合うように腰を下ろすと、彼女は「さて、何から説明しようかな・・・・・・」と、暫く悩む素振りを見せた後、やがて徐に口を開いた。
「先ず、さっきシショーが話してた『アーマゲドン』ってのが何かを話そうかな。と言っても、ボクもシショーに聞いた話ししか知らないから詳しく知ってるわけじゃ無いんだけどね。まあ、それでも解らない事が有れば直ぐにシショーに聞いてあげるから、どんどん質問してくれて構わないからね」
そうアヤメは胸を張りながら告げると、コホンと軽く咳払いをして説明を始めた。
「先ず、『アーマゲドン』ってのはここやシショーの世界とも異なる世界、第三世界とでも言う場所で誕生したんだって。なんでも、そこの科学者が作り出した『平和な世界を維持するために人類を管理するシステム』ってのに生まれたバグで、『平和のために争いを引き起こす人類を抹消してしまおう』と言う極端な結論に達して暴走を始めたプログラムで、結局『アーマゲドン』と人類の戦いでその世界は滅んだんだってさ」
「滅んだ・・・・・・ってことは、そんなのがリヴィアさんの世界に来てて、今は僕達の世界にいるってことは――」
「あ~、いや、滅んでないよ?」
先程のリヴィアさんの説明では、暁斗お兄ちゃんがその身を犠牲に『アーマゲドン』を封じたところまでしか聞いていなかったので、何故アヤメのお母さんがその『アーマゲドン』の力に蝕まれていたのかや、僕達の世界に来るまでに何が有ったのか全く分からなかったので最悪の想像をしてしまった。
正直に言えば、アヤメのお父さんとお母さん、それにリヴィアさん達が『アーマゲドン』と戦って負け、その影響でお父さんが行方不明、お母さんが意識不明、リヴィアさんが体を失い、そして滅んだ世界からここまでアヤメが飛ばされて来たと言う結末を思い浮かべたのだ。
「だってそもそもボクのママは、『アーマゲドン』が邪魔してくる人類を効率よく排除出来るようにって作り出した命らしいし」
これはいったいどう言う意味なのだろう?
つまり、アヤメのお母さんは『アーマゲドン』側、つまりは人類を滅ぼそうとした敵であったと言うことなのだろうか?
「まあ、あんまり詳しい事はシショーも知らないらしいし、知ってる範囲で言えば、ママはパパに会ったことで恋をして、自分の存在と引き替えに『アーマゲドン』を裏切って『アーマゲドン』を封印しようとしたけど、ママが消えるのを防ぐために先にパパが『全ての神器と繋がる根源の力』を使ってママの魂と『アーマゲドン』を特殊な神器に封じたんだって。それで、『アーマゲドン』を滅ぼすにはボクやシショー、それにキョージが持ってる7つの『原罪』の力が必要だと分かったんだけど、パパ達の世界じゃその適合者を見つけるのが難しいから、可能性が有る世界を求めて元の世界から出てきたんだって」
「ちょ、ちょっと待って! ええと・・・・・・そんな一気に説明されても上手く理解出来ない」
「まあ、ボクも良く分かって無いし良いんじゃ無い? 要するに、『アーマゲドン』って人類の敵を倒すのに、『原罪』って言う特殊な力を持った7人が必要、ってことだけ覚えてれば良いと思うよ」
まあ、深く考えても仕方の無い話しっぽいし、『そんな物なのだろう』と納得することに決めると、僕はアヤメに「分かった」と短く返事を返した。
「だから、ボクにシショー、それとキョージで既に3人だから、これからは残りの4人を見つけていくことになるんだけど、シショーがある程度近くにいれば他の神器の気配を察知出来るらしいから、その気配を頼りに片っ端から探して行ことになると思う。まあ後は、噂とかを頼りに凄い力を持っている人を探せばいつかは――」
そこまで告げたところで、突然アヤメは言葉を切ると、「え? なに?」と言葉を発し、暫く黙り込んでしまう。
おそらく、リヴィアさんが何かしらアヤメに語り掛けているのだろう。
そしてその暫くの沈黙の後、アヤメは渋い顔を浮かべながら「もう一つ問題が有るんだって」と、とても面倒臭そうな口調で言葉を発した。
「なんでも、見つけるだけじゃ意味が無いんだって。ねえ、キョージは自分の中に有る『憤怒』について、どの程度認識出来る?」
「ええと・・・・・・そもそもその『憤怒』って何? 『アイギス』と何が違うの?」
僕の問い掛けに、アヤメは深いため息をつく。
そして、じっと僕の瞳を覗き込んできたかと思うと再び大きなため息をつきながら「そういやキョージの瞳は金色じゃ無いもんね」とよく分からない事を口にした。
「ええと、それってどう言う意味?」
「元々、この『原罪』の力は『アーマゲドン』の力が変質したものらしいんだけど、その力を完全に取り込むと眼が魔眼化する影響で眼の色が金に変色するみたいなんだよね。だから、ボクもシショーも同じ金の瞳をしてるでしょ?」
その言葉に、確かに2人とも今まで出会った事の無い金色という珍しい瞳の色だったな、と納得する。
「そして、キョージの瞳は琥珀色。つまり、『原罪』の適合者特有の変質が起こってないから、シショーが言うには先ずは僕達のように『原罪』に完全に適合してもらうところから始めないとダメなんだって」
なるほど、そうなのかと納得しながらも、未だ『原罪』とは何かよく分からない僕は微妙な表情を浮かべることしか出来なかった。
そして、そんな僕を見つめながらアヤメは唐突に「とりあえず、今『アイギス』を呼び出せる?」と問い掛けてくる。
「たぶん大丈夫だと思う」
「それじゃあ出してみて」
いきなりの要求にどんな意味があるかも分からなかったが、とりあえず言われた通りに僕は『アイギス』を呼び出す。
すると、『アイギス』が出現した途端、アヤメの体の周りに青白い靄のようなものが漂っていることに気付く。
「きちんと魔眼が発動してるみたいだし、ボクの魔力も問題無く見えてるよね?」
「魔力って、その青白い靄みたいなの?」
「そう。因みに――」
そう言いながら、彼女から漂う靄が少し濃くなったと感じた瞬間、僕の目の前に空気中から水滴が集まり、やがてそれが僕の顔を映し出す鏡となる。
「なっ!? 瞳の色が紅くなってる!」
そして、そこに写る僕の瞳は、何時もの琥珀色では無く、血のような紅に染まっていた。
「まあ、原理はボクも良く理解してないから説明出来ないけど、とりあえずは神器を使えば魔力を可視化出来る魔眼に変わる、って覚えといて。そして、ボク達『原罪』の適合者は、常にそれと同じような力を持つ金色の魔眼を手に入れるはずなんだよ。さて、その状態でよく見ててね」
そう告げると、アヤメは切り株から腰を上げ、「来い、『
瞬間、彼女の目の前に金色に輝く杯が姿を現し、同時にその体を金色の輝きが包む。
「今、ボクの魔力の色が変わったでしょ?」
「うん。青白い靄から金色の光に変わったよ」
「それじゃあ、次は『色欲』の魔力を解放するね」
そう告げた途端、金色に輝く杯が姿を消すと同時にアヤメの体を覆う光が金色の輝きから、赤黒い禍々しいオーラへと変じる。
そしてそれと同時に、僕はまるで体に重りを括り付けられたかのような気怠さを覚えていた。
「この状態のボクは、通常の数十倍、下手すれば数百倍の力が出せるんだ。それに――」
そう言いながらアヤメが手をかざすと、目の前に先程飛龍3匹と木々を一瞬で消し飛ばした漆黒の悪魔が姿を現す。
「そいつは!?」
先程の圧倒的な力を見ているので、僕は思わず身構える。
「ああ、そんなに身構えなくて大丈夫。これは力の一部を開放してるだけで固有術式を展開してるわけじゃ無いからそんなに強くないし。まあ、言いたかったのは神器とは別に、その『原罪』ごとに更なる特別な力を得ることが出来る、ってこと」
アヤメはそう告げながらも出現させた悪魔を消すと、そのまま赤黒い禍々しいオーラを引っ込め、元の青白い靄が出ている状態まで戻す。
そして、僕に「キョージももう神器を引っ込めて良いよ」と告げると、再び切り株へと腰を下ろした。
「とりあえず、言葉で説明するのは難しいから見てもらったけど、一先ず今は、これからキョージはさっきの赤黒い魔力を扱えるようになる必要が有る、ってだけ覚えといてくれれば良いから」
「いったい、どうやって――」
不安げに呟いた僕の言葉をアヤメは片手を上げて制すると、「今日はもう疲れたしそろそろお腹も減ったから、これ以上はまた明日ね。それに、さっさと今日の食料と寝床を確保しなきゃ行けないし」と、何やら集中するように瞳を閉じる。
そして、暫くの沈黙の後に瞳を開くと、「よしっ!」と言う掛け声と共に再び切り株から立ち上がる。
「一先ず、この先に
そう告げると、僕の返事も待たずにさっさと歩き出してしまったのだった。
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