第10話:男爵領開発

 リアナと俺は四つの男爵領開発に飛び回っていた。

 表向きは馬車で移動しているように見せかけていたが、実際の宿泊時には居住性を優先して、転移魔法で王都屋敷に戻っていた。

 リアナと俺を表敬訪問をする貴族がいた場合だけ、影武者に移動させているという言い訳を家臣達にさせていた。

 その理由が、辺境に跳梁跋扈する山賊を討伐する勅命を受けたというモノだ。

 これも原石の献上と軍資金献上に対する見返りだった。


「兄上様、山賊を討伐を行う将兵に負担をかけているのではないでしょうか。

 兄上様と私が一緒にいれば、負傷者の治療ができるのではありませんか」


 リアナには、影武者を護るために派遣されている将兵を心配する優しさがある。

 確かに俺が新規で召し抱えた騎士や徒士や兵士は、傭兵や冒険者上がりの指揮官に、貧民や流民を配下に付けただけの弱軍だ。

 だが貴族の領軍などは元々この程度のモノだ。

 生れた時から文武を学んだ者だけで編制された騎士団や徒士団など、大領を支配している有力貴族しか持っていない。


「確かにその通りだけれど、彼らは四つの男爵家の領軍になる予定の者達だ。

 男爵家程度だと、治癒魔法の使い手などいない事の方が多い。

 今からその心算で戦っておかないと、いざという時に困るのだよ」


「それは、近々戦いがあるという事ですか。

 兄上は四つの男爵家が戦いに巻き込まれると思っておられるのですか」


 リアナがなかなか鋭い指摘をしてくる。

 ゲームの時のようは愚かな判断をしていない。

 それからも分かるように、ゲーム時のリアナは判断力を失っていたのだ。

 これが単にゲームとこの世界の違いだけならしかたがない。

 だが、ゲーム内の誰かの仕業なら、これから何か策謀を仕掛けてくるだろう。

 リアナを助けるためには、それを排除しなければいけないのだ。


「そうだね、男爵領は未開発の王領地から分与されたけれど、近くには他の貴族の領地もあるから、利権がらみで何かとちょっかいをかけてくるだろうね。

 特に開発が進んで豊かになれば、盗賊を偽装して襲ってくる領主もいるかもしれないし、そうでなくても飢えた他領の民が生きるために襲いかかってくるかもしれないから、実戦訓練は絶対に必要なのだよ」


「そんな、他領の民はそんなに飢えに苦しんでいるのですか」


 リアナは凄くショックを受けているようだけど、ラゼル公爵家の民も、俺が農業指導をしていなければ、同じように飢えていたのだ。

 俺が同時に不正を行って私利私欲を貪る家臣を処断していなければ、その豊かになった領地も元の貧しい村に戻っていた。

 その辺の事をもリアナに教えておいた方がいいな。

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