第14話 アピールステージ

 入札者全員が出終わった所で音楽が鳴り止み観客達のガヤだけが残る。

 

「えっと凄い迫力でしたね。お次のコーナーは三人の女帝達によるアピールステージとなります。中央のゆきひとさんは、ちょーっと端にずれてもらいます」

 

 ゆきひととヴィーナはステージ端まで足を運ぶ。そしてゆきひとは中央脇のメインステージから、三人の女性の玉座を見上げた。この三人との結婚生活が想像できていない。完全に流されている状況で黙って棒立ちするしかなかった。


「まず最初に……アラブの女帝タンナーズさんお願いします!」

 

 女帝の玉座も昇降機となっており、タンナーズはメインステージに降りたった。中央まで側転とバク天を決めて位置に着く。ゆきひとが見せた物と同じ技だ。ダイナミックなボディは空気を震わせステージを穿つ。タンナーズはゆきひとに魅惑の視線を送ったが、あまりの迫力にゆきひとは思わず視線を逸らした。

 スカイパージに乗ったパステルは、タンナーズにマイクを投げる。回転して飛ぶマイクをアラブの女帝は当たり前のようにキャッチした。


「わらわのアピールはアラブの舞じゃ」

 

 ゆきひとはヴィーナの方を向く。


『わらわなんて一人称の人、初めて見たんですけど……』


『ゆきひとさんのナノマシンが相手の性格に合わせて自動翻訳しているので……』

 

 ヴィーナは思わず苦笑い。

 タンナーズは燃え盛る炎の演出の中でゆっくりと足を運ばせて舞い踊った。所々ボディビルのポージングを見せてアレンジ。観客達を沸かせる。

 舞いが終わってタンナーズが玉座に戻ると、萌香のいる玉座の昇降機が降りた。

 萌香は中央まで物静かに歩を進める。世紀末の大奥でも決して怯まない皇女を演じていた。


「わたくしの名前は和宮萌香と言います。ゆきひとさん……是非わたくしの名前を憶えて下さいね」

 

 萌香はチラリとゆきひとの方を見る。

 清楚なその雰囲気にゆきひとは視線を外せなかった。


「わたくしは……ゆきひとさんがいた時代のJ-popを披露します。今回は予定を変更して桜ソングに致しました。聞いて下さい」

 

 萌香の透き通る声は会場の女性達を魅了した。さくら、サクラ、SAKURAのフレーズを連呼し、観客達も桜色のサイリウムを左右に振ってそれに応える。歌が終わると桜色の拍手が舞い上がった。

 萌香はマイクをその場に置いて元いた場所に戻っていく。

 

 そしてラスト。西側の昇降機が降りた。キョロキョロと辺りを見ながらオネットは中央まで歩いて行く。マイクを取ると安心したのか笑顔を見せた。


「皆さーん! こんばんはー!」


 会場から「こんばんはー!」と返ってくる。


「自分の名前はオネット・シュバリィーと言います。皆さん何かに困ったらオネット・シュバリィーで検索検索っ!」

 

 笑いが巻き起こる。会場の観客は一万五千人。ネット視聴は十万人を超える。敏腕弁護士はここぞとばかりにこのイベントを自身の宣伝に利用していた。

 オネットは観客席に向かって手を振り続ける。ゆきひとには目もくれなかった。中々アピールタイムを始めようとしないオネットに、パステルは悶々とした。


「あのーオネットさん? アピールタイムをする前にゆきひとさんに何か言っておきたいことはないですか?」

 

 パステルの言葉を聞いて、オネットはゆきひとの方を見た。


「ゆきひと君。その素晴らしい筋肉に自分は感動した!」

 

 オネットの行動に戸惑うゆきひとだったが筋肉を褒めらて内心喜んでいた。


「私の特技は日本のアニメ、ジャパニメーションのアフレコ。物真似です!」


 大型スクリーンに二〇十〇年代アニメの女子高校生達が映った。ガールズバンドを題材にした作品だ。キャラクターに合わせてオネットはアフレコを披露。似ているか似ていないかは本人にも観客達にも判別が難しかったが、オネットは会場をコミカルな空気で包み込んで大きく沸かせた。

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