★★★ Excellent!!!
この街では、人が獣に変わる。 流川夕
物語は静謐の世界と共にはじまる。
しとやかな夜の雨が濡らす風景、集う若者、忍び寄る牙――
この街では、人が獣に変わる。
野生の動物が凶暴化して世間を騒がせ、
人の歯が鋭利な牙に変わる不可思議な事件が起こる世界を舞台に、
交錯する二つの運命が導く珠玉の幻想忌憚。
ひとつめの運命は、日常に潜む影。
平凡な毎日を送る高校生の半井輪人は、突然の悲劇に見舞われた。
蠢く悪意に翻弄されるなかで、彼は自らの内に眠るもう一つの人格と、
秘められた秘密――聖獣と呼ばれる特殊な存在であることを知る。
ふたつめの運命は、現場の最前線。
人が獣に変わる獣化事件を担当する刑事の七瀬歩は、
ケモノと呼ばれる警察組織の一員として奮闘していた。
捜査中の彼は事件の裏に暗躍する存在を追うなかで、
犯人と思しき男に接触した半井輪人に出会う。
輪人と七瀬と称された第一章から舞台の幕は上がり、
立場の異なる二人が一人の男を追う過程で、
徐々に一本の線となっていく軌跡は、
他では味わえない興奮を約束する。
そして本格的に物語が躍動する、九十九編。
公安の対獣化事件組織である九十九に配属された七瀬と、
自らの足で門戸を開いた輪人がとうとう共に動き出す。
獣に紐付く様々な能力や設定が、
光と影すら浮き立たせるような筆致と共に描き出される本作。
淡々とした前半の情景には鳥肌が立つほど魅せられ、
加速する展開と共に熱…
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