第81話 まだピースが欠けているようです

 



 都の南にある町、プローブ。


 都の住民を使い、スリーヴァが作り出した化物の餌食となり、滅びたこの場所に、三人の人間が到着した。


 内訳は、女が二人――破王シャイファ、斬王マヒトと、男が一人――魔王メルディズだ。


 メルディズは二人と目を合わせた瞬間、気まずそうにそっぽを向いた。


 だが視線など関係ない。


 シャイファとマヒトはじりじりとメルディズとの距離を詰める。




「おいメルディズちゃんよォ、こりゃどうなってやがんだ? あぁん?」


「見てくださいメルディズさん、わたくしのドレス。せっかくあと少しで完全な赤になりそうだったんですのよ?」


「そ、そんなことも言われても……困るなぁ……」




 彼は痛む胃をいたわるように、腹を抑えながら二人と言葉をかわす。




「私はァ、気持ちよくあいつらぶち飛ばしてたんだぜェ? わかるか、私は楽しかったんだよォ!」


「う、うん、そうだね……楽しかったね……」


「だったらなぜですか? なぜ彼らは急に倒れて動きを止めてしまうんですか? せっかく、せっかくわたくしが完全な赤に近づいていたというのに!」


「そんなこと……ぼ、僕に言われても……」


「あらあら、口答えしますの?」


「うひぃぃいっ!」




 女二人が詰め寄っているのは――急に化物たちが動きを止め、戦いが半端に終わってしまったからである。


 スリーヴァが倒れた影響なのだが、そんなこと彼らが知る由もなかった。




「メルディズぅ、もっと私に壊させてくれよォ。リーダーなんだろォ? 今どきの旅団は福利厚生も大事だってよく聞くぜェェェ?」


「ええまったくです。絵の具では意味がないのです、生きた血でなければ。鮮血でなければわたくしのドレスは、ドレスは完成しないのですよぉ!?」




 一応フォローしておくと、二人とも普段はここまでぶっ飛んでいない。


 戦いで精神が高揚しきって、テンションが最高潮にまで上り詰めているからこそ、こんな理不尽な詰め寄り方をしているのだ。




「ど、どうにかできないか考えるから……とりあえずその爆弾と刀を収めてくれないかなぁ……」




 しかし理由がどうであれ、メルディズの胃が休まることは無いのだった。




 ◇◇◇




 カレトヴルフに貫かれ墜ちたオルクス。


 だが巨大な体が地面に衝突することはなかった。


 途中で彼女は人間の体に戻ったのである。


 大破したクイーン・ラグネルから降りたラティナとペルレスは、その落下地点付近に急いだ。


 スリーヴァも撃破された以上、仮にオルクスが生きていたとしても、逃げる必要などないのだが――二人はそんな事情など知るはずもない。


 そして彼女たちは、血まみれになって草むらにうつ伏せるオルクスを発見した。


 翼から胴体にかけてを失ったガルーダ同様に、体の右半分をほぼ失った状態だった。




「ぅ……うぅ……」




 ペルレスが近づきしゃがみ込むと、うめき声が聞こえてきた。


 傷の断面もわずかに蠢き、肉体は再生を始めようとしているように見える。




「冗談でしょう、これでもまだ生きてるっていうの?」


「コアが無事だったおかげだと思うです」


「どうするのよ、それで。満身創痍の今ならトドメはさせると思うけど」


「……」


「って、ペルレスに聞くのは残酷だったわね。生きててもらったほうがいいに決まってるもの」


「そうでもないです」




 ペルレスは寂しげにそう言うと、オルクスの青い髪に触れ、指先で軽く撫でた。




「死んだほうが幸せなことだってあるです」


「彼女がそうだと?」


「それを私に決めることはできないですが……」




 そのとき、呻くだけだったオルクスの瞳がわずかに開く。


 とはいえその視界にはぼんやりともやがかかっており、ほぼ見えていない。


 だが視線をさまよわせ、金髪の少女の姿を見つけると、今にも消えそうなか細い声でその名前を呼んだ。




「ペルレス……なの、か……?」


「オルクス、喋れるまで回復したですか」




 ラティナは手のひらをオルクスに向けた。


 いつでも魔術で焼けるように。


 必要な処置だと理解しているからこそ、ペルレスもそれを止めたりはしない。




「あぁ……スリーヴァ、は……死んだ、んだな……」




 オルクスは、小型コアを通して感じる魔力の有無から、スリーヴァが死んだことを感じ取ったようだ。




「ペリアさんたちは強いです。間違いなく勝ってるです」


「そう、か。これで……ハイメン帝国は、もう……動かせる駒、が……」


「はい、ユグドラシルは動けないですから。ひとまず戦いは一区切りです」


「……なら、私も」




 オルクスが望むことはペルレスもわかっている。


 そもそも、彼女はカレトヴルフに撃ち抜かれた瞬間、死んだつもりだったはずだ。


 それが不運にも・・・・生き残ってしまった。




「私はオルクスが望む通りにするです」


「私の……望み……」




 どこまでも広がっているはずの空――その果てを知った。


 一人で飛ぶ空は、こんなにも狭いのかと思い知ってしまった。


 だったらもう、生きてる理由なんて無い。


 だからオルクスはこう答えた。




「生きたい……と言ったら、私は、どうなる?」




 ペルレスとラティナは、表情の変化こそ大きくなかったものの、その意外な答えに驚く。


 てっきり、無気力な死を選ぶと思っていたばかりに。




「捕虜として収容することになるです」


「ちょっと待ちなさいよペルレス、あんなデカい化物になれるやつをどこに収容するっていうのよ。戦う気が無いってのはわかるけど、それだけじゃみんな納得しないわ」


「わかってるです! でもその前に……オルクスが何を考えているのかを聞きたいです」


「別にそれはいいけど……」




 そう言いつつも、ラティナは不満顔だ。


 とはいえ、ひとまずオルクスの話を聞いてくれるようだ。




「死にたい、と。そう思った……」


「は? だったら何で生きたいって言ったのよ」


「死ねば……楽に、なれる。私に……そんな、資格、無いだろう」




 体の再生が進み、少しずつ視界も鮮明になっていく。


 そんな彼女が見たものは、自らが破壊した大地の爪痕。


 ひょっとすると、その向こうには人が暮らす村もあるかもしれない。


 そうでなくとも、ハイメン帝国という存在はこの世界であまりに多くの罪を重ねすぎた。




「巻き込まれた……そうは言っても、私も、元凶側の一人、だ。許される……わけがない」


「あんた……ちょっと自罰的すぎるんじゃないの? 操られてたんでしょう!?」




 ペルレスもラティナと同じことを思っていた。


 しかし、だからといってオルクスを殺したいとは思っていないので、何も言葉が出てこない。




「私が……納得、できない、んだ……」


「はぁ、湿っぽいわねぇ。嘘をついてるって感じでもないし……」


「納得してもらえたです?」


「ひとまず私はね。レスもあの性格だから殺しはしないでしょうけど……え、これって私が了承したら、私もペリアたちの説得に参加する流れなの?」


「そうしてもらえるとありがたいです」


「ペルレス、あんた私に貸し作りすぎじゃない?」


「……忍びないです」


「まったく……まあ、モンスターの研究に使えるとでも言えば何とかなるかしら。苦しむために生きることを選ぶぐらいなんだもの、本人だって実験動物になる覚悟もできてるんでしょう。そうよね?」


「それで、私が役に立てるのなら……」




 半ば冗談のつもりで聞いたラティナだったが、オルクスがあっさり受け入れたので、逆に罪悪感が湧いてくる。


 彼女は「本当に湿っぽいわぁ」とうんざりした様子で頭を掻き、ペルレスは話がまとまりほっとしたのか、わずかに笑みを浮かべる。


 ちょうどそのとき、ラティナはカレトヴルフの発射を成功させたレスが、遠くからへろへろと駆け寄ってくるのを見つけた。


 合流したあと、三人はオルクスがある程度回復するのを待ち、ペリアたちのいる場所へ向けて出発した。




 ◇◇◇




 内部から爆破されたフルーグは、跡形も残らず消し飛んだ。


 至近距離で爆風を浴びたゴーレム、ブレイドオーガ、ガーディアンの三体は装甲がどろどろに溶け、まともに動けないほど破壊されていた。


 四肢を交換できるゴーレムは、ひとまず応急処置的に修復できたが、故障部位が多く歩くと動きがぎこちない。


 それでも移動はできそうだったので、フィーネとエリスはペリアのいる操縦席に乗り込むことにした。




「三人で一緒に乗るの、久しぶりな気がする」


「そんなに時間は経ってねえはずなのにな」


「恋人になったあとに、三人で狭い密室にいると……どきどきするねっ」


「しねえだろ」


「する。めちゃくちゃする」


「二人からすげえ湿っぽい視線が向けられてるんだが……猛獣に追い詰められた小動物の気分なんだが……」




 フィーネに逃げ場はなかった。




「いやそんなことしてる場合じゃねえだろ! スリーヴァの死体を回収するっつったろ」


「あ、そういえばそうだったね」


「残念」




 本気で肩を落とすエリス。


 フィーネはそれを見て『あとで埋め合わせしねえとな……』と思ったが、すぐに『いやあたしが埋め合わせるのはおかしくね?』とセルフツッコミを入れた。


 彼女の脳内はいつだって忙しい。




「うぅーん、関節がギシギシ言ってる。早く修理してあげたいなぁ」




 動き出したゴーレムは、彼女の言う通り歩くたびに大きく軋む。




「あんだけの戦いの後に動けるだけでも立派なもんだ」


「とんでもない強敵だった」


「三人がかりでやっとだもんな、化物だぜ」


「倒せたんだからそれでいいよ。故郷のみんなに『いいニュースだよ』って胸を張って報告できそう」


「これで戦いが一段落したなら、そろそろ帰りたい」


「だな。人形の修理が終わったら行ってみるか……」


「付き合い始めたという報告もしないといけない」


「……驚きすぎてみんなの心臓が止まらなきゃいいがな」


「あはは、そこまで驚くかなぁ?」




 確かに三人は昔から仲良しだった。


 が、『三人で交際を始めた』と言われれば誰だって驚くに決まっている。


 たとえ幽霊であろうと心臓が危うくなるほどに。




「よし、とーちゃーく」




 話しているうちに、あっという間にスリーヴァの亡骸の前までやってきた。




「それにしても、すごい数の反応だねぇ。降りるのがちょっと怖いかも」




 近くには、ちょうど山に隠れるように、大量のモンスターが棒立ちで待機している。


 スリーヴァが“素材”として使おうとしていたものだ。


 主がいなくなったことで、隠れることも、動くこともできずそこに放置されていた。




「スリーヴァのことだから、罠を仕掛けている可能性もある……でも、それなら自分が死ぬ前に使ったと思う」


「あたしも殺気は感じねえ。とりあえず触らなけりゃ何も起きねえだろ」


「そだね、とりあえずスリーヴァのほうを調べよっか」




 ゴーレムは膝をつくと、操縦席のハッチを開いた。


 そこから飛び降りた三人は、真っ二つに割れたスリーヴァの前に立つ。




「こうして見ると、改めてでっかいよねえ」


「太いところだと、骨の太さだけで私たちの身長ぐらいある」


「50メートル級だからな。とりあえず再生の兆しはねえ、完全に死んだと判断していいだろ」




 “将”を名乗る彼らには、通常のコアと、小型コアの二つが埋め込まれている。


 肉体が人間サイズに戻る仕組みや、人間体のときに通常のコアがどう収納されているのかなど、まだまだ謎は多い。




「それにしても、首から下は本当にただの骨しかない」


「ハリボテって感じだね。本体は頭の中に詰まってるのかな」


「コアが収まるスペースはそこぐらいしかねえな」




 骨にぺたぺたと触れながら、頭部目指して歩く三人。




「ここが頭か。中身は空洞なんだな」


「コアも落ちてるねえ。あれが体外に排出されたから活動停止したのかな、と思うんだけど……」


「それにしては吹き飛んでいない」




 そう、コアはまるで頭の中からこぼれ落ちたように、近くに落ちていた。


 フィーネの斬撃で弾き飛ばされたとは思えない。




「肉体が強烈な衝撃を受けたときも、活動を停止することがあるのかも」


「分身より強力な結界を張ってることを装置して、全力でぶっ放したからな」


「フルーグはなかなか倒れなかった」


「個人差がありそうだねぇ」




 生前の鍛え方によるのか、はたまた素体となったモンスターの強さによるのか。


 倒すべき相手は皇帝ガルザぐらいしか残っていないのだから、今後それが明かされることはないのかもしれない。


 その後もしばらくスリーヴァの亡骸を探り、あるはずの小型コアを探っていたペリアたち。




「え……エ、エリスちゃんっ、フィーネちゃんっ、こっち来て!」




 するとペリアは何かを発見し、慌てて二人を呼び出した。


「どうした?」と小走りで駆け寄るフィーネとエリス。


 そこで見たものは、切り取られた人間の胸から上だった。




「な、なんだよこれ」


「スリーヴァの中身?」




 目を閉じて地面に倒れている、桃色の髪をした女性。


 心臓は無いためとっくに死んでいるはずだが、それにしては血色が良い。


 三人は無言で視線を重ねうなずき合うと、協力してその体をひっくり返した。




「……若いな」




 顔を見たフィーネの第一印象は、それだった。


 女性は二十代後半から三十代前半ほどの見た目である。




「スリーヴァの声の印象とはずいぶん違う」


「ランスロー様も老婆って言ってたはずだけど」


「まさか、あたしらが戦ったのはスリーヴァじゃなかったってことか?」


「でもフルーグはスリーヴァが死んだことを感じ取ったような雰囲気だった。気に食わないやつだったけど、嘘をつくタイプじゃないと思う」


「スリーヴァじゃない人間が、スリーヴァに化けてたとか」


「つまり本物のスリーヴァはとっくに死んで……だー、わけわかんねえ!」


「私たちだけで話し合っても情報が足りないかも。ひとまず連れて帰ろうよっ」


「うん、私もそうするべきだと思う」




 ひとまず話がまとまり、女性の死体を三人で抱えあげようとしたとき――




「あ……リュ、ム……」




 その女性は口を開いた。


 ペリアたちの動きがぴたりと止まる。




「ど、こ……私の……むす、め……」




 彼女は虚ろな目をさまよわせながら、何かを探す。




「今、この人……リュムと言った」


「しかも娘っつったよな」


「戯将の母親なの?」


「リュ、ム……どこ……どこ……」




 か弱い声で娘を呼び続ける女。


 すると、フィーネは何かを決意した様子で彼女に顔を近づけた。




「おいあんた、リュムを探してんのか」


「そう……娘……私の、娘……」


「あいつならあたしらが殺した。リュムは、戦いに負けて死んだんだ」


「死ん、だ……」




 女の目が開かれ、じっとフィーネを見つめる。


 きっと次の瞬間には怒りと憎しみに満ちた、怨嗟の声を浴びせられるのだろう――フィーネはそれを待ち構えていた。


 だが、女が発したのは思っていたのと違う言葉だった。




「そう……よかった。あの子、ちゃんと、死ねて……」




 安らかに、笑みすら浮かべながら娘の死を喜び――そして女性は目を閉じる。


 体からぐったりと力が抜けると、それきり動かなくなった。


 さっぱり状況がつかめないペリアたちは、死体を囲んで見下ろしたまま、しばし黙り込む。




「……娘が死んで喜ぶんだ」


「リュムってあたしらと戦ったとき、スリーヴァに騙されたって言ってたはずだよな」


「その中身が母親だった」


「でも娘が死んだことは知らなかったみたいだよ?」


「よし、わからん! マニングに帰って考えるぞ!」




 超速で気持ちを切り替えるフィーネ。


 ペリアとエリスも首を縦に振り同意した。


 考えてもわからないものはわからないのである。


 死体は肉体の大半が失われていたためかなり軽く、結局はフィーネが一人で担ぐことになった。


 それをゴーレムの手のひらに乗せ、三人が再び操縦席に乗り込んだところで、ふとエリスが口を開く。




「何か大事なことを忘れている気がする」


「何か?」


「うん、まだやることがあったような」


「スリーヴァとフルーグとオルクスを倒した、これでハイメン帝国は全滅だろ?」


「あ……」


「どうしたペリア」


「メトラだよ、メトラ! まだ出てきてない!」




 忘れていた――というよりは、“戦う相手として認識していなかった”というほうが正しい。


 ハイメン帝国という最大の戦力を失った今、メトラにはもはや打つ手などないのだから。




「でもあいつ、普通の人間だろ? まさか一人でコアを使って出てくるってのか?」


「今のところそういう様子はない」


「だからといって、王族の人を放置するわけにはいかないよねぇ」


「じゃあとりあえず都に行ってみるか……」


「ラティナ様たちを迎えに行ってからにしよっか」


「貴族がいたほうが、あのクソみたいな街だと話が早い」




 三人がそう結論を出すと、ゴーレムはオルクスが撃墜された地点に向かって歩きだす。




 ◇◇◇




 一方その頃、都は静まり返っていた。


 多く住民が実験体にされることに怯え、屋敷に閉じこもっているのだ。


 加えて、ペリアたちとハイメン帝国の戦いの音は、距離が離れているとはいえ都まで届いている。


 一体何が起きているのか。


 ついに世界は終わってしまうのではないか。


 貴族たちはそんな恐れに体を震わせていた。


 そんな中――追い打ちをかけるように、地鳴りが響き、足元が揺れる。


 その原因は、王城のすぐ近くにある王立魔術研究所にあった。


 施設の地下深くには、一部の宮廷魔術師しか入ることのできない、秘密の区画がある。


 メトラ王が作らせていた“玉座”はそこにあった。


 その様は、“黄金の騎士”と称するしかない。


 贅沢の限りを尽くし、装甲は全て黄金で作られており、各部には宝石による装飾も施されている。


 胸部に設置された操縦席も、本物の玉座同様の絢爛さだ。


 メトラがそこに腰掛けると、ハッチが閉じる。




「これが僕の玉座……」




 顔に薄ら笑いを貼り付けながら、肘置きを撫でるメトラ。


 研究所に残っていた宮廷魔術師――主に上級魔術師たちを総動員して作らせた、彼専用の大型人形。


 それがこのエクス・カテドラルだった。




「はぁ……ようやく終わる。僕の戦いが」




 しみじみと、何も無い空中に向かって話しかける。


 通信装置は付いていないため、誰もその声を聞くことはない。


 孤独。


 まさに僕の人生を指しているようだ――メトラはそう自嘲し笑う。


 すると外部から魔力が注がれ、エクス・カテドラルの操縦席内が少し明るくなった。


 外の映像が映し出されたのだ。


 そして、地下施設に天井から光が差し込むことで、さらに明るくなる。




「空は眩しいな。あんなに遠い場所ですら檻の中だとは、夢も希望も無い」




 都全体を揺らす地響きの原因は、真っ二つに割れる王立魔術研究所だ。


 地下からエクス・カテドラルを出撃させるためだけに作られた機構である。




「停滞する人間は、未来へ向かう人間には勝てないということか。ならば僕は、やはり生まれたときから――」




 天井が完全に開くと、台座がせり上がり、人形は地上に現れる。


 黄金の装甲は、陽の光を反射し荘厳に輝いた。



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