第21話 合流
『ピンポーン』玄関のチャイムの音が鳴って「はーい」と言いながら穂南が玄関へ行った。
こんな朝早くから誰だろ?
と思ったが、聞こえて来た声で俺は超焦った。
「朝早くからすいません。自衛隊の同僚だった
「あ、班長さんですよね? お兄ちゃんのお葬式の時に挨拶をして下さった……」
「はい。お線香を上げに来たのと、少しお話を伺いたくて」
お袋も顔を出して、お茶の用意をしながら、彩ちゃんと何故か一緒にいる咲ちゃんを仏壇の前に案内した。
仏壇に二人が手を合わせた後で本題に入る。
「どんなお話なんですか?」
「生前、北原三尉がお世話をしていた猫がいると思うんですが? 黒い子猫」
「はい、TBの事ですね」
「その子は、まだこの家に居るのでしょうか?」
俺は、しょうが無いなと思い、「ニャーン」と言いながら仏間に入って行った。
「TB久しぶり。やっぱりこの家の子だったんだね」
咲ちゃんに声をかけられた。
「お母様。つかぬ事をお伺いいたしますが、このTBと言う子猫は不自然な部分が無いでしょうか?」
「と、言われますと?」
「えーと……もう事件から二月以上たっていて、生後三か月を過ぎたと思いますが、大きさがどう見ても成長してないですよね?」
「あ、きっとこの子そう言う種類なんですよ」
「聞いた事無いですし……」
お袋、それは無理があると思うぞ?
「あの? TB連れていかれて解剖とかされちゃうんですか?」
穂南がお茶を運んできて、いきなり恐ろしい事を聞いた。
「いきなり解剖とか、そんな事は絶対ないですからご安心ください。ただ、私に預けていただけないかとご相談に伺ったのですけど」
「この子はうちの家族ですから本人が希望したとかじゃ無ければ、お預けする訳には行きません」
そう言いながら俺の方をお袋が見た。
『どうするんだい?』と問いかける様に。
俺はちょっと考えるような素振りをした後で、お袋の膝の上に乗って、「ニャン」と言った。
「どうやらこの子は行きたくないみたいですから、お引き取り下さい」
「それでは今日の所は帰りますが、もし何かありましたら必ず私に連絡をいただけますか?」
そう言いながら、彩ちゃんが名刺を置く。
個人の連絡先の入った、支給品とは違うタイプの名刺だ。
それと同じように、咲ちゃんがペンでメモ紙に連絡アドレスを書き込んで俺の方を見て、「連絡欲しいです」と言いながら置いて行った。
今は穂南もいるし、これ以上の話は困るしな。
彩ちゃんと咲ちゃんの二人が帰って行くと、お袋が「いいのかい?」と聞いて来た。
俺は二人の連絡先を書いた、名刺とメモを口で咥えて、キャットハウスに持って入った。
穂南が「なんであの二人はTBを連れて行きたかったのかな? もしかして進兄ちゃんが付き合ってた人とか?」
「んな訳ねぇだろ!」と言ったが、「ニャニャニャア」としか聞こえなかった……
だけど、咲ちゃんには連絡とりたいと思ってたけど、まさか彩ちゃんと一緒に来るとは参ったな。
自衛隊に捕獲されるのは避けたいんだよな。
どうせ咲ちゃんにはバレてるんだし、ちょっとメールしてみるか。
俺は穂南に見つからない様に外に抜け出して、人目の無い場所でメモを取り出して連絡を入れた。
◇◆◇◆
「あ、彩さん。TBから連絡入りました」
「マジ? やっぱ間違いなさそうだね。あの子、進だよ」
「そんな事ってあるんですか?」
「ダンジョンのある世界で、魔法とか分けわからないスキルとか存在してるんだから、不思議じゃ無いよ」
「そう言われればそうですね。『お袋は知ってるけど、妹には内緒にしてるから、返事が出来なかった』って言ってます」
「て言うか、猫なのにスマホ使えるんだね。車を家のそばまで移動させるからそこに来るように伝えて」
「はい」
TBに斑鳩二尉の車に来るように伝えると、三分ほどで合流する事に成功した。
◇◆◇◆
俺が、彩ちゃんの車に辿り着くと、扉が開き「TB久しぶり元気してた?」と咲ちゃんが抱っこしてくれた。
俺は「ニャン」と言いながら、咲ちゃんのほっぺたを舐めた。
「あんた、進でしょ?」
彩ちゃんがいきなり俺に声をかける。
俺は斜め上を見て、視線をそらした。
「バレバレすぎる誤魔化し方しないの! スマホで会話出来るんだよね。こっちの言ってる言葉は全部わかるでOK?」
俺はコクンと頷いた。
俺はスマホを取り出して、ラインでメッセージを送る。
「ちょっ。あんた今そのスマホ何処から出した? どう見てもいきなり現れたよね?」
『色々、秘密があるんだよ! 少しずつ教えるのは構わないけど、自衛隊に隔離するとかだと一切協力しないよ? 俺はお袋と穂南を守るのが最優先だから』
「あー解ったわ。でも私には協力してくれるでいいの?」
『あー、二尉は自衛隊での行動が主体だし、俺が一緒だと自由が損なわれそうだから基本、咲ちゃんに協力の形が良いかな』
「うーん、でも、この間はありがとう。進がいなかったら、私も今頃二階級特進してたよ」
『クッコロなの? とか心の声が駄々洩れで、結構楽しかったから許すよ二尉』
「進はもう部下じゃないんだし、彩でいいよ」
『それは助かる彩ちゃん。よろしくな』
「進。そう言えばさ、咲ちゃんの下着とかで、いたずらしてるらしいね? この変態」
『げっ、俺子猫だから肌触りのいい物に
「咲ちゃん。もうわかったでしょ? こいつは見た目はこんなだけど中身は私と同じ歳の男だから隙を見せたらダメよ」
「はい……」
『咲ちゃん。そんな事言わないで今まで通り抱っことかしてくれなきゃ、協力しないよ?』
「彩さん。どうしましょう?」
「咲ちゃんが我慢できる範囲でなら許すしかないか」
「で? TBはなんでそんなに色々出来て私達より強いのかな?」
『詳しくは内緒だけど、色々出来る事は多いよ。ねぇ咲ちゃん、他に信用できる仲間もう一人くらい居ない?』
「居ない事は無いけど、どうしたの?」
『ちょっと頼みたい事とかあるから、狩りは俺と咲ちゃんのペアでいいけど、バックアップで一人欲しいんだよね。自衛隊はちょっと組織が大きいから、民間で頼みたいんだ。彩もそこは納得してくれないかな?』
「うーん、出来れば私に協力して欲しいけど、言ってることも解らないではないし、しょうが無いか。咲ちゃんは出来る限り私と情報を共有して貰ってもいい?」
「はい。出来る限りは」
こうして俺は咲と彩との協力体制を作る事になった。
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