第四話 ホレ・タッシ・タッシ
家の中での過ごし方も、もういつもの通りだ。暖炉の前に集まってお喋りをして、料理をする。それから音楽もあった。楽器を弾いたり歌を歌ったり。外の
リョマというのは打楽器で、洗面器くらいの大きさの木でできた枠に革が貼ってある。その革の部分を木のバチで叩く。バチを軽く持って撫でるように振っているだけに見えるのに、ドゥン、と想像よりも低く響く音がする。
なかなか思ったように音が響かないでいたら、やっぱり子供たちが取り囲んであれこれ教えてくれる。俺の手からバチを取り上げて、あれこれ言いながら叩いてみせる。
「
頷いてそう言えば、バチは次の子に。そうやってそれぞれに腕前を披露してくれて「
子供たちの手の動きを真似しながら、コココヤを思い出して手首を動かせば、最初よりは良い音が出た。子供たちにも「
良い音になったり、響かなかったり、音はなかなか安定しないけど、でも繰り返すうちにちゃんとリズムになったし、音楽のようになってきた。俺の頼りない音に、子供たちが手拍子で合いの手を入れる。それだけでももう、音楽になってしまう気がした。
シルの方はジョウシという楽器が気に入っているみたいだった。膝の上に置けるくらいの細長い胴体に、五本の弦がある。弦はそれぞれに音の高低があって、両手の指先で
シルも最初はただ指先で
辿々しくワンフレーズを鳴らして「
確かそれも
その日は確かみんなで
ディラ・ルッタ ディラ・ラッタ ルラ・
それに合わせてみんなで代わる代わるリョマを叩いてジョウシを
女の子──ヴァロという名前の子が、立ち上がってシルの腕を引っ張る。
「
シルはびっくりした顔で俺を見る。俺も、家の中で踊って良いものかわからず、困って向こうのテーブルで
ケヴァさんは「
「踊って、良いみたい」
俺の言葉に、シルは嬉しそうに笑って、立ち上がった。それで、敷物の外でヴァロちゃんと向かい合って手を繋いで、跳ね始めた。
それで一度音楽が止まった。壁の向こうを吹き抜ける風の音と、暖炉で薪が爆ぜる音が響く。
シルが俺の隣に戻ってきて座ると、ヴァロちゃんがシルの手を取って、その手首に巻いていたコココヤをじっと見る。
「コココヤ」
俺の言葉に、ヴァロちゃんはシルの手を握ったまま、俺を見上げた。
「チャイマ・タ・ナチャミ……
俺の言葉に、ヴァロちゃんだけでなく他の子供たちも首を傾ける。俺が買った方のコココヤも見せようと思い付いて、立ち上がった。不安そうに見上げてくるシルに、大丈夫と笑いかける。
「シル、コココヤを持ってくるだけだから、少し待ってて」
それから、子供たちには「
コココヤを持ってきて鳴らしてみせたら、子供たちはみんな面白がってやりたがった。俺も別にうまくはないけど、みんな「
そうやって、コココヤもみんなの手の中を移ってゆく。やっぱりリョマの時の手の動きと似てるところがあるんだと思う。みんなすぐにコツを掴んで良い音を鳴らすようになった。
「シル、踊ったら?」
俺がそう声をかけたら、シルは嬉しそうに頷いてまた立ち上がった。コココヤの音に合わせるのは、チャイマ・タ・ナチャミの踊りだ。
あの時にちょっと踊っただけだったけど、シルはよく覚えていた。シルがくるりと回ると、銀色の髪がふわりと広がって、暖炉の火の色を映して赤く輝く。ヴァロちゃんが「イサ」と歓声を上げた。意味はわからないけど、きっと良い言葉だと思う。
そうやってまた、みんなで代わる代わる楽器を鳴らす。気付けばみんなが知っているこの辺りの曲になって、俺は今度はコココヤでそれに参加する。シルの踊りは、この辺りのものとチャイマ・タ・ナチャミのものとが混ざってしまっていたけど、それでもみんな楽しそうだった。
そうやって何曲も何曲も、歌って踊って──ふと、聞き覚えのある旋律が流れてきて、俺は手を止めてシルを見た。
シルもそれに気付いたらしい。動きを止めて、ぼんやりとした顔で俺を見た。
その曲は、シルが時々歌ってくれる、あの雪の歌だった。
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