第58話 何かが混じってました!

 竜を倒し下山した俺たちは、歩きで村へと向かっていた。


「とりあえずは、あの感じで天狗の村は大丈夫そうだな」


 俺が言うと、イリアが答える。


「はい! あとで、こちらからも食料を持って行かせます」

「ああ、ありがとう。ゴーレムに運んでもらうとしよう。武器や、その使い方を教える人員も送りたいところだ」

「空から助けてくれれば、こちらも助かりますからね……そういえば、先程の魔石、どうされるつもりでしょうか?」

「天狗たちに使ってもらうのがいいかなと思っている……火炎の威力がどれぐらいかにもよるが、空から攻撃できればそれこそ竜と変わらない力を発揮するだろう」

「なるほど、空から火炎ですか……確かに強そうですね」

「天狗は竜より小さく素早いし、しっかりした防具もあればむしろ竜以上に強いかもしれない。もちろん魔石の威力を確かめてからじゃないと何とも言えないが……お、村が見えてきたな」


 目の前に城門が見えてきた。


 すでに村というには、立派な城壁だ。


 村に到着すると、エクレシアが俺たちを待っていた。


「皆、けがはないようだな?」

「ああ。おかげで、竜も倒せた」

「そうか、よかった……」


 エクレシアはほっとしたような顔をした。


「こちらのほうは特に異常はなしだ。モープの帰りが遅いのが、少し気がかりだが」

「モープが? 北にハイキングに行ったんだよな?」

「ああ、塔から見える範囲にはいるんだがな……なかなか帰ってこなくてな」

「そうか……ちょっと様子を見に行ってくるよ。エントたちには悪いんだが、早速温泉からここまでの水路を掘るよう頼んでくれるか?」

「安全が確保できたのだな。手の空いている者に早速やらせるよ。うん?」


 エクレシアは、何やら北のほうが騒がしいことに気が付く。


「メッメー!」というモープの興奮するような声が聞こえてきた。


 モープたちが村に帰ってきたのだろう。

 だが、なんだか揉めている様子だ。


「なんだろうか。見に行こう」


 俺たちは早速村の北へと向かった。


 すると、そこには困惑する様子のモープたちが。


「メッメー! 大変っす!! こいつ、起きないっす!」

「誰か、助けてほしいっす!」


 どうやら、モープの一体に何かがあったようだ。


「俺が診る! 道を開けてくれ!」


 俺はモープたちを掻き分け、群れの中央に向かう。


 すると、モープのセレスが俺に気が付く。


「あ、ヨシュア様! 大変っす! 仲間が倒れちゃったっす!! 色々、マッサージとか試したんっすが、起きなくて!」

「何か、変なものを食べたんじゃないか? ……え?」


 セレスの前に横たわるのは、毛むくじゃらの何かだった。


 だが、断じてモープではない。

 黒色の毛におおわれているが、もっと小さい。


「こいつはモープなんかじゃない……」

「メッメー!? 本当っすか!? やけに小さいとは思ったっすが!」

 

 モープたちはざわつき始めた。


 だが、今はこいつの正体より、こいつの容態のほうが大事だ。


 俺は近づくと、正体不明の黒い毛玉に回復魔法を掛けた。メルクも杖で手伝ってくれているようだ。


 すると、毛玉がおえっと草を吐き出した。


「メッメー!? な、なんすっか、こいつ!?」


 モープたちは皆、そいつから距離を置いた。


 隣ではイリアが刀を抜き、立っている。


「ヨシュア様、いつでも」

「あ、ああ……でも、ちょっと待て、こいつは……」


 俺は毛を掻き分けて、毛玉の中身を見る。


 すると、毛玉の中からぎろりと目のようなが見えた。


「……生き物か?」


 毛玉はそのままとことこと動くと、セレスの乳に食いついた。


「な、なんすか!? そ、そんなに激しく飲まないでほしいっす! メッメー!!」


 どうやら毛玉はモープの乳を飲んでいるようだ。


「美味しいのう……美味しいのう……」


 毛玉から、そんな高い声が響くのだった。

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