第13話 ロイグ、金がなくなる!
ロイグは、自宅の大広間で五十人のほどの貴族の前で頭を下げる。
「それでは皆様、本日もお楽しみください」
今日も大陸中の貴族を招き、ロイグは自宅でパーティーを行っていた。
宴席には豚の丸焼き、東西南北の珍しい果物など、贅を尽くした料理が所せましと置かれていた。
大広間の壁には各国の著名な画家の絵、廊下には高価な壺や像が並んでいる。
ロイグはそんな中、貴族の中の一人の女性に目を留める。
「ヴィリアン。あの女性は誰だ」
「我がベルソス王国、ウィレイア男爵家の令嬢ベルナでございます」
「なかなかの女だ」
「ふふ。ウィレイア男爵家は、我がエルンテン伯爵家とも親しい仲でございます。私も共に参りましょう」
「それは助かるぞ、ヴィリアン。お前が側近で本当に良かった」
「有難きお言葉。これからもお役に立たせていただきます」
ロイグはコートの襟を綺麗に正し、髪を手鏡で確認すると、ベルナのもとに向かった。
「失礼。ウィレイア男爵家のベルナ殿とお見受けする」
「これはロイグ様。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
ベルナがスカートの裾をつかみお辞儀すると、ヴィリアンが言った。
「実は、我が団長はいたくあなたを気に入られましてな。私室にて、一緒にお話ししたいそうです」
「ロイグ様が私を!? それはとても光栄です!」
ベルナは目を輝かせ、ロイグに頭を下げた。
それを見て、ロイグはにっと笑う。
今日はこいつで楽しませてもらうか……ああ、毎日毎日、上玉ばかりが来て本当に飽きない。どうせお前も俺との結婚や金が目当てなんだろうと、ロイグはベルナを内心では見下す。
たかが男爵家の娘。強引に好き放題やってやるとしよう……くくっ。
そんな時だった。
突如、大広間の扉がばたんと開いた。
そこにはシュバルブルクの商人や行商、シュバルブルクに支店を置く銀行家たちが、怒り心頭の顔で立っている。
ロイグは突然の来客に困惑する。
「な、なんだ、お前らは?」
「なんだも何もあるか! 食材の代金はいつ払ってくれるんだ!」
「建材の金もだ! あと、大工を派遣したお金はどうなってる!?」
「あんたところの騎士は、騎士団が払うと言って武具を持ち去ったが、一か月経っても何も払いがないぞ!」
商人は口々に、ロイグに不平を訴えた。
「な、なんの話をしてる!?」
すると銀行家の一人が言った。
「ロイグ殿……これはどういうことなのでしょう? 私共は、彼らにお金を貸しています。彼らにお金を支払わないとなれば、皆、本国の本店にこのことを伝えることに……」
「ま、待て! わ、私は本当に知らない! ヴィリアン、これはどういうことだ!?」
ロイグの声に、ヴィリアンはあたふたと答える。
「わ、私も……あ、いや、経理部がこのままでは赤字になるとは申してましたが……こんなに早く金が尽きるなんて、有り得ません」
「そ、そうだ。金庫には有り余るほどお金があったはずだ! 皆様、落ち着いて! 経理部が我が騎士団の金を横領している可能性がある! 一度お調べするので、今日のところはお引き取りを!」
商人たちは「本当だろうな?」と不満そうに言うも、この日は渋々帰った。
同時に、パーティーに参加していた貴族たちもひそひそと何かを話しながら、ロイグの屋敷を次々に出ていく。
先程までロイグに目を輝かせていたベルナも、汚物を見るような目でロイグを見て、出ていった。
どこからかは、「元は下級騎士のせがれ。やはり成り上がりは駄目だな」という声も上がった。
やがて貴族たちが全て去ると、ロイグは声を荒げた。
「……くっそぉおおおお! なんだ、なんなんだ!!」
ロイグは叫びながら、卓上の食材や食器を床に投げつけていく。
「くそ! くそおおおお!!」
終いには、使用人にそれらを投げつけるまで暴れた。
ヴィリアンや他の側近は、そんなロイグを何とか抑えようとする。
「だ、団長、落ち着いてください! ともかく、金庫を調べましょう!」
「そうだ! 経理部の奴ら、絶対許さん! 全員、首を刎ねてやる!!」
ロイグは馬に乗り、城まで駆けた。
通行人には、邪魔だ、どけと暴言を吐きながら。
そして城の金庫につくと、そこに経理部はいなかった。
傍らには収支の帳簿が綺麗に置かれている。
それらに不正は何もなかった。
騎士団が必要なものを購入したもの、ロイグが私的に使ったお金が事細かに記されていたのだ。
そして最後に、『本日団長にお目通りを願う。しかし、ヴィリアン殿に断られる。すでに金がないことを伝えるも、ヴィリアン殿はなんとかしろと言うだけ』
最後には経理部一同、辞職するとあった。
この事態はヴィリアンも予想外だった。
ヴィリアンや側近は騎士団から金をせしめるつもりでいたが、予想をはるかに超える速度で、騎士団の金は”溶けて”いったのだ。
しかし尚も、ヴィリアンはこう言った。
「こ、こいつら、私に責任を押し付けようなどと!」
だがロイグはそれに頷きも答えもしない。
金庫に金はない。そればかりか購入したものの代金が払えてない。
それに騎士たちの給料も払うことができなくなる。
賊討伐の遠征に出している騎士たちも、これでは任務を継続できなくなる。
金がなければ騎士団は消える。自分も運命を共にするだろう。
ロイグの頭は、一刻も早くお金を稼ぐことでいっぱいだった。
「ないものは仕方がない……ヴィリアン、手あたり次第、銀行家をあたれ……それと」
ロイグは悔しそうな顔で続ける。
「ヨシュアを探せ! 俺はその間、例の話、自分で進めてくる!」
「は、ははあ!」
かくしてロイグの華やかな生活は終わりを迎えてしまった。
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