第113話 シャイ

週末。


約束の時間に約束の場所へ行くと、奏介と陸人、千夏ちゃんが待っていた。


慌てて駆け寄ろうと思ったけど、膝が痛むと迷惑をかけてしまうから、ゆっくりと歩み寄っていた。


少し話した後、映画を見に行くことにしたんだけど、千夏ちゃんは私の横にぴったりと寄り添い、奏介と千夏ちゃんに挟まれる始末。


「千夏ちゃん?」と言うと、千夏ちゃんは顔を真っ赤にし「…恥ずかしいんです」と囁くように言ってくる。


「何が?」


「…私服姿の陸人君、カッコよすぎます」


千夏ちゃんは消えてしまいそうなほどの小さな声で、俯きながら呟くように言ってくる。


『どこが? つーか、自分から告ったんだよね?』


なんてことは言えないまま、奏介を見ると、奏介は悟ったように陸人を見て、千夏ちゃんの隣に行くよう目で合図する。


陸人が千夏ちゃんの隣に行ったんだけど、千夏ちゃんはどんどん私の方に近づいてくる。


奏介は呆れたように「倒れたら大変だからちゃんと歩け」と注意し、千夏ちゃんはやや私に寄り添うように歩いていた。



映画館の前に行き、どの映画を見るか選んでいると、奏介がホラー映画を指定。


座席も奏介が決めたんだけど、時間まで少しあるから、ファストフード店で待つことに。


飲み物だけを注文し、4人でテーブルに着いたんだけど、千夏ちゃんと陸人は顔を赤くし、横に並んで俯いてるだけ。


思わず奏介と目を見合わせた後、陸人にジムのことを切り出したんだけど、千夏ちゃんは聞き耳を立てるだけで会話に入ろうとはしない。


『本当に告ったの?』と聞きたくなるような態度なんだけど、陸人も同じような行動をしているから、付き合ってることは付き合っているんだと思うんだけど…


千夏ちゃんが会話に入ってくることもなく、映画の時間を迎えていた。



奏介は一番後ろの席に私と並んで座り、その前には陸人と千夏ちゃん。


上映終了間際と言うこともあるのか、他のお客さんがまばらで、ほとんど貸し切り状態だった。



映画が始まり、少しすると、奏介が急に私の手に手を乗せてきた。


ふと見ると、陸人は後ろを見ていて、小さく深呼吸をした後、千夏ちゃんは急に片手を上げる。


『真似しようとして失敗した?』


そう思っていると、奏介が陸人の椅子を軽く蹴り、陸人が振り返ったと思ったら、大きく伸びをした後、私の肩を抱いてくる。


陸人は小さく息をした後、大きく伸びをし、千夏ちゃんの肩に腕を伸ばしたんだけど、あと20センチほどの距離で腕がピタッと止まってしまい、小刻みにプルプル震え始め、諦めたように元に戻していた。


こうなってくると、映画よりも陸人の行動が気になって仕方ない。


奏介が椅子を蹴るたびに、陸人は振り返り、奏介は私のすぐ横にある肘掛けに肘を着いたり、私の肩に頭を乗せたりし、陸人は奏介の真似をしようとしていたんだけど、すべて未遂に終わる始末。


『どうしたもんかねぇ…』と思っていたら、爆音とともに画面いっぱいにアップされたゾンビの顔が映り、千夏ちゃんは悲鳴を上げ、陸人の腕にしがみつく。


すかさず奏介が、陸人の椅子を蹴り、私を包むように抱きしめてきたんだけど、陸人は千夏ちゃんの頭に手を置くだけで、抱きしめようとはしない。


『あ、なんか可愛い…』


館内に叫び声が響く中、頭をなでる陸人と、うずくまって頭をなでられている千夏ちゃんを見て、不思議なくらいほのぼのとしていた。


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