第54話 嫉妬

家に入った後、奏介と二人で食事をとり、交代でシャワーを浴びた後、部屋でストレッチをしていると、ドアがノックされ、奏介が部屋の中へ。


奏介は私を見るなり、すぐ隣でストレッチを開始。


普段、一人でストレッチをしているのに、奏介がすぐそこにいる事に違和感ばかりを感じてしまう。


ストレッチを終えた後、水を飲んでいると、奏介が突然「千歳って、好きな男いるの?」と切り出し、思わず「は? 何聞いてんの?」と聞き返してしまった。


「いや、いるのかなぁって思ってさ」


真剣な表情で見つめられ、『奏介』と言ってしまいそうになったんだけど、グッと我慢し、言葉を飲み込んでいた。


「で、いるの?」


「そんなの… わかんない! つーかそっちはどうなの?」


「いつも言ってるじゃん。 千歳が好きだって。 付き合いたいって思ってるよ」


この状況下で聞いてしまったことに、少し後悔しつつも、「…付き合うって何するの?」と、小さく呟くように聞くと、奏介は考えながら答えてくれた。


「ずっと一緒にいたり、二人で出かけたり、困ったときに守ってあげたりかな?」


「…それって友達と変わんなくない?」


「キスは付き合ってるやつとしかしないだろ? それ以上のことも」


「友達同士でそういう事をする人もいるよね?」


「そりゃそうだけど… 俺は付き合ってるやつとしかしないし、千歳以外の女としたいとも思わない」


はっきりと見つめながら言い切られ、胸の奥がギュッと締め付けられたんだけど、ふと春香の顔が頭を過る。


「…付き合ってるやつとしかしないって、春香とそういう事したの?」


奏介はハッとした表情の後「いや、あの… だって千歳だって思ってたから!」と、慌てたように言葉を並べていた。


否定をしないことが無性に苛立ち、「出てけ」と言うと、奏介は「過去のことに妬くなって」と慌てたように切り出してきた。


「は? 誰が妬くか」


「思いっきり妬いてんだろ?」


「妬いてない! 寝るから出てけ!!」


奏介を追い出そうと、ドアを開けようとすると、奏介は慌てて腕をつかもうとしたんだけど、反射的にボディに右手が食い込み、奏介はおなかを抱えながら蹲る。



『妬くなって、無理に決まってんじゃん… 奏介が春香を嫌ってることも、迷惑をしてるのもわかってるし、私を好きだって言ってることもわかってるのに… なんなんだよもう…』



自分が何をしたいのかわからず、大きなため息が口から零れ落ちる。


ため息をつきながら壁にもたれかかると、奏介は咳込んだ後、呆れたように切り出してきた。


「あいつと同じことをしたら、妬くのやめる?」


「は? やりたいからって理由つけてんの?」


「違うよ。 本音を言うと今すぐしたいよ。 けど、それだと千歳を傷つけるだろ? ちゃんと付き合って、千歳がOKするまで我慢しようって思ったけど、それが原因でキレてるならそうするしかねぇだろ?」


「…やっぱりしたいんじゃん」


「好きな女とやりたいって思うのは普通だろ? なんか問題あんの?」


真剣なまなざしでまっすぐに見つめながら言われ、言葉に詰まってしまう。



奏介の言ってることは何の問題もない、ごくごく普通のこと。 


私の部屋で勉強をしたとき、何らかの行動があってもおかしくなかったけど、何もしてこなかった。


今まで襲い掛かるスキは十分すぎるくらいにあったのに、話しただけ済んでいたんだから、誠意は見えすぎるくらいに見えていた。


けど、ほんの些細なことに苛立って、ムカついて、口論になって、殴って…


『最悪だ… もう自分が何をしたいのか、自分でわかんなくなってきた…』


黙ったまま俯いていると、奏介はゆっくりと立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。

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