第41話 休息

カズ兄が差し入れてくれたケーキを食べながら勉強をしていたんだけど、奏介は私がケーキをフォークで刺すと、強引に手首をつかみ、自分の口元に持っていってしまうばかり。


結局、自分のケーキをほとんど食べられてしまい、かなり不貞腐れていた。


不貞腐れながら教科書を見ていると、奏介が「ほら」と言いながら、フォークに刺さったケーキを口元に運んでくる。


黙ったままそれをじっと見て、食べようかどうしようか迷っていると、奏介は「早く。 落ちる」と急かしてくる。


思い切ってパクっとケーキを口に入れると、奏介は何事もなかったかのように、ケーキを食べ始めていた。



『何考えてんだこいつ…』



そう思いながら教科書を眺めていると、奏介は大きく伸びをした後「ストレッチしようぜ」と切り出してきた。


足を広げて座る奏介の背中を押していたんだけど、奏介は上半身を倒すと同時に、悲痛な叫びを上げ始めていた。


「硬すぎない?」


「だから硬いんだって!」


「毎日、胡坐かいて座ってるだけじゃなくて、足の裏をくっつけて、時々前かがみになったりしたら? それだけでだいぶ違うよ?」


その後も、自分のやっているストレッチ方法を教えていたんだけど、奏介は感心したように「すげー」と声を上げるばかり。


しばらくストレッチの事を話していると、奏介は「良いこと教わった。 サンキュ」と嬉しそうな顔をした後、突然、思い出したように切り出してきた。


「新しいシューズ欲しいんだけど、今度、一緒に見に行かない?」


「父さん、カタログ持ってるよ?」


「実物見たいじゃん? な? 二人で行こうぜ」


そう言いながら笑いかけてくる奏介に、キュンっと胸の奥が締め付けられる。



改めて『二人で』と言われると、変に意識してしまうし、今、自分の部屋で二人っきりでいることを改めて感じさせられてしまい、まともに顔が見れなくなってしまった。


教科書で顔を隠しながら「…忙しいよ?」と言うのが精いっぱい。


けど、奏介はそんなことはお構いなしに「急いでないから、試験休みでも冬休み中でもいいし。 …嫌?」と言いながら教科書をどかし、顔を覗き込んでくる。


思わず目をそらし「別にいいけど…」と小声で言うと、奏介は私の頭をグシャグシャっと撫でながら「約束な」と言い、教科書に視線を落とし始めた。



真剣な表情で、わからないところを聞いてくる奏介を見ていると、どんどん近づきたいような、離れたいような気持ちになり、どうしていいのかわからなくなってくる。



『これが早苗の言ってた好きって感情? んな訳ないじゃん! 何考えてんだよ… 集中しよ』



そう思いながら奏介に勉強を教え、いつでもはっきりと思い出せるように、集中している横顔をずっと眺めていた。



勉強を終えた後、奏介は父さんに言われ、夕食を一緒に食べて帰ることになったんだけど、食べている途中で、コンビニの袋をぶら下げたヨシ兄が帰宅。


試合を終えたばかりのヨシ兄は帰ってくるなり、ボストンバックから金色に輝くベルトを見せつけてきた。


奏介は興奮しながら「マジっすか!? 触っていいっすか??」とヨシ兄に言い、ヨシ兄は「ダメ。 見るだけ」と言い、コンビニ袋からタピオカを出し、飲み始めていた。


目の前に置かれたベルトをマジマジと見ていると、父さんが「お前も欲しくなったんじゃないのか?」と、何かを言いたげな口調で言ってくる。


「いらない」と言いながらマジマジと見ていると、奏介は「俺、絶対に取る!!」と言い始め、父さんとトレーニング内容について語り始めていた。

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