第4話 衝撃の事実
その後の戦闘は、即席だったとはいえ割とすんなり決着がついた。
普段の生息域とは違うものの、普通に徘徊しているような魔物だ。1体1体はそう大した強さではない。それに、共闘した少年剣士が思いのほか戦い慣れているようだった。少なくともリーヴェ達よりは。
一通りの周辺警戒を済ませ、敵の追撃や増援がないのを確認してから各々武器を収める。
少年「いやぁ、ホントに助かったよ。ありがとな」
リーヴェ「こっちも間に合ってよかったよ」
笑顔で礼を言う少年と改めて向き合う。
身長はリーヴェ達よりも小柄だ。血色のいい肌にキャラメルブラウンの瞳。癖のある髪は短く、顔立ちも大分幼い印象を受ける。歳は幾つくらいだろう。リジェネと同じか、少し下くらいだろうか。右手に大きめの宝石がはめ込まれたファンガ―レスグローブを着け、少し短めの
他愛もない話をしながら少年の観察をしていると、龍から降りてきたリジェネが駆け寄ってくる。
リジェネ「キミ、本当に凄いですね。あんな数の魔物相手に1人でうまく立ち回っていたのには驚きました」
少年「別に上手かねぇよ。結構危なかったし」
リジェネ「いえ、僕にとっては十分驚きでした。あ、申し遅れました。僕、リジェネ・ディア・アルンセレフィアといいます。この白龍の名前はカナフシルトです」
リーヴェ「私はリーヴェ・ディア・アルンセレフィアだ」
2人が自己紹介したのを聞いて、少年がきちんと背筋を伸ばした。
少年「初めまして、オレはラソン・M・グリフォードといいます。こんな成りだが、歳は18だ」
最後、言い間違えたのか「です」と言い直す。別にさっきまでの口調でいいと伝えたら、恥ずかしそうに「お言葉に甘えさせてもらう」と言った。戦闘直後は、戦闘時のノリで雑な言い方をしてしまって悪かった、とも。
すると、上空からも鳴き声が降ってきた。空に注目が集まる。
ラソン「悪い悪い。リーヴェ、リジェネ、コイツはオレの相棒で
クライス『キキッ』
グローブにとまったクライスに2人は挨拶を返す。
どうやらラソン達は王都のほうから来たようで、近頃の魔物の動向や各地の状況を調べに来たという。2人もここまでの経緯を話した。王族ということは一応伏せたが、天空界から来たとは伝える。
ラソン「なるほどな。道理で童話にしか出てこない筈のドラゴンを連れてるのか」
リーヴェ「こちらにはいないのか?」
ラソン「いない。妖精なら、生まれた時から1人に1体ついてるけどな」
そういってラソンはクライスを優しく撫でた後、指先でコンコンと宝石の端をノックした。それが合図だったのか、クライスは一際高く鳴き、シュッと宝石の吸い込まれていく。宝石の明滅が消えた。
リーヴェ達は一連の様子を見て、目を丸くした。
リジェネ「わぁ、なにこれ。クライス、どうなっちゃったの」
リーヴェ「大丈夫、なのか」
ラソン「心配いらないぜ。今回は割と長期戦だったからな……妖精もこうやって家に帰さないと疲れちまう」
ラソンの話曰く、宝石は「妖精石(フェーガル)」というもので、妖精との契約の証であり、彼らの力を借りる際の媒介で家でもあるそうだ。この中にいると、小さな傷くらいは時間と共に回復されていくらしい。
彼ら地上界の人々は、この石を介して妖精の加護を得ており、戦闘時などに身体能力を底上げしていた。妖精のほうも宝石を介して契約者からマナを受け取って、様々な恩恵を与えてくれている。
ある程度情報交換が終わると、今後どうするかという話にうつる。
話題が切り替わったと同時に口を開いたのはラソンだった。
ラソン「なあ、2人はこの先どうするか決めてるか? もしよかったら一緒に行こうぜ」
リジェネ「そうですね。僕としては頼りになりそうだし、提案自体は有難いですけど」
リーヴェ「確かに。私達はこちらの事情に暗く、土地勘もない」
2人は簡潔に互いの意見を交換し、納得がいったように頷きあう。
リーヴェ「こちらからも、是非同行して欲しい」
ラソン「決まりだな。これからよろしく」
ラソンが正式に仲間に加わった。
彼はそのまま話を続けそうだったので、リーヴェは待ってくれと制した。
リーヴェ「リジェネ、昼に話そうとしていた話。彼の前でもできる内容か?」
リジェネ「それは……ラソンさん次第、だと思います。僕の憶測の話なりますが、内容的に聞いてもらったほうがいい気がします」
ラソン「オレなら構わないぜ」
リーヴェ「では、どこかで腰を落ちけて聞こう」
リジェネ「わかりました」
ラソン「だったら、まず野営の準備をしようぜ。じきに日が暮れる時間だしよ」
といっても、相変わらず外は暗いままである。時刻計がなければ感覚が狂いそうだ。
3人は手分けをして野営の準備に取り掛かることにした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【タルシス辞典 ステータスについて】
この世界の生物にはステータスが存在している。
ステータスの種類はHP=体力、MP=マナ、攻撃力、防御力、知識力、精神力、俊敏力、技巧力がある。
クラスごとに成長しやすいステータスやその逆が異なる。攻撃力は技、知識力は魔法の強さを示し、防御力は物理、精神力は魔法にどれだけ耐えられるかを示す。クラスの中には技巧力を攻撃力としているものもあるが基本は命中率を示していて、俊敏力は回避や移動速度となっているぞ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
食事と片づけを済ませると、リジェネが居住まいを正して話し始める。
リジェネ「はじめに確認しておきたいんですが、『神樹』については知っていますか」
リーヴェ「私は……覚えてないな。引っかかりはするんだが」
ラソン「俺は知ってるぜ。実物は見たことねぇけど、世界の中心にあるバカでっかいマナの木だよな」
ラソンの言う通り、『神樹』とは世界の中心そびえたつ巨木である。本来ならばどの国にいても遠目に見えるものだが、20年前に消えてしまったため、ラソン世代は実物を見たことがなかった。
リーヴェ「その樹がどうかしたのか」
リジェネ「実は、天空人には幼い頃から教えられてきたことがあるんです。‐神樹は大地を守りし主柱にして
ラソン「えっと、それってつまりどういうことだ?」
呪文っぽい言い回しのせいか、ラソンはすでについていけないといった様子だ。
リーヴェも聞いたことがある気はするが、思い出せそうで思い出せないもどかしさを感じた。
リジェネ「要約するとですね。神樹は大地を支える命の柱で、これが消えると世界そのものが滅びてしまう、的な意味だったと思います」
だからこそ天空界と天空人はこの伝承のもと、代々神樹を守る役割を担ってきたという。ということは―。
リーヴェ「このまま何もしなければ世界が滅ぶ……」
ラソン「ヤベーじゃねーか」
リジェネ「もちろん憶測の話なので確実とは言い難いですが、ご先祖様がなんの意味もなくこんな言葉を残すとは思えなくて」
リーヴェ「真偽を確かめ、真実なら何らかの手を打つ必要があるな」
その場にいる全員が無言で頷いた。
とにかく情報を集める重要性が増した。リーヴェは当初の予定通り王都方面を目指すことを含め、ラソンにこの国のとこをいろいろと聞く。
ラソンは思い出したように荷物の中から地図を取り出して教えてくれた。
<i476483|33352>
現在地のプリムーラ丘陵から王都まで行くには、少々大回りして「鉱石の街 ピエス」を経由していくのが最も安全だという。
山越えをすれば王都まで一直線に向かうことが出来るが、ここ最近はとくに魔物の異常活性が高まり、相当な危険が伴うためオススメできないらしい。先ほど戦ったガラーウルフはこの辺りの山に生息している個体で、それが移動してきている理由と現在の装備面を考慮すれば危険度はより増す。
そうなれば、今の状況での選択肢はほぼ決まりだった。
リーヴェ「予定通り、ピエス経由で王都へ向かうぞ」
2人「異議なし」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【サブエピソード03 仲間のクラス】
焚火を囲むリーヴェ達。少し離れた所には食事を終えてから、すっかりリラックス状態のカナフシルトとクライスが各々好きな事をしている。
ラソン「休む前に、今後の戦闘に備えて戦力確認しとこうぜ」
リーヴェ「そうだな。まず私は戦乙女、というクラスらしい。得意分野は剣による近接戦と、魔法による支援だ」
リジェネ「僕のクラスは竜騎士です。見ての通り槍を使った戦法が得意で、龍に騎乗しての空中戦も得意です」
ラソン「最後はオレだな。クラスは
それぞれのレベルは、リーヴェとリジェネがLv5、ラソンがLv7だ。
この惑星では、生まれ育った世界ごとにクラスの特徴や一般的な種類に違いがあった。
例えばリジェネの竜騎士は、天空界では騎士の一般的な兵装だが地上界では騎乗して戦う習慣がなく、地上界では必ず1体は妖精を連れている事が普通でクラス名にも「妖精」がつく。
だが、妖精は他の世界にはいないし、リーヴェの戦乙女に至っては彼女だけの専用クラスだ。ついでに言ってしまえば、聖天魔法もリーヴェ専用の魔法である。
こうして確認してみると、大分いい具合に得意分野が分かれているようだった。
ラソンは見た目のイメージに反して防御型のようだし、リジェネは鎧をガッツリ着ている割にラソンほど受け身の取り方が上手くない感じだった。
リーヴェは比較的バランスがいいようだが、魔法寄りの傾向が強くて武器による攻撃は二人には及ばないし打たれ強くもないとわかった。
続いてラソンが少し離れた所にいるカナフシルトに目を向ける。
ラソン「そういえば、カナフシルトは炎とか吐けねーの?」
言われてみれば、今までの戦闘でそれらしい攻撃をしているところを見なかった。
リジェネ「ブレス、の事ですよね。一応は出来ますけど、アレを使うとしばらく使えなくなるんです。それにある程度近づかないとだから、狭いところだとやり辛いみたいで。元々このカナフの種類はブレス自体があまり得意じゃなくて」
カナフシルトは晶鱗飛龍(クリスタル・レピ・ドラゴン)という飛行能力に特化した小型種であり、ブレスも空中での近接戦を想定したもので地上では使い辛いそうだ。ブレスの飛距離が他の龍種より短い事も影響している。
飛行速度を生かして至近距離からブレスを当てていくように進化した結果である。しかし小型と言っても龍なのでそれなりに大きく、障害物の多い地上やその付近は戦い辛いのだ。
実質、ブレスよりも腕と一体化している両翼から放たれる攻撃のほうが強い。カナフシルト自体が風系に強い適性があるおかげでもあるが。
リーヴェ「なら、クライスはどうだ」
ラソン「言っとくが、クライスに攻撃能力は期待しないほうがいいぜ。アイツは支援が得意だからな」
リジェネ「へぇ、意外。あんなに勇猛そうなのに」
ラソン「へへ、アイツは雛んときから美形で勇ましい顔立ちだったからな!!」
クライス『キィ―』
いつの間にかクラシスがラソンの肩にとまっていた。カナフシルトのほうは気持ちよさそうに寝ている。クライスは毛づくろいをしたり、じゃれたりしている。
ラソンが手際よく、クライスを腕に移動させた。翼などが傷ついたりしなかったかも確認している。
この後もしばらく雑談をしていたが、見張りの順番を決めてラソンが一足早く休息をとるために中座したのでリジェネと2人きりになる。しばし無言が続いて……。
リーヴェ「今日はいろいろ大変だったな」
リジェネ「そうですね。ラソンさん達、良い人そうでよかったです……少し気がかりはありますが」
リーヴェ「……?」
リジェネ「いえ、別に悪い意味ではなので気にしないで下さい」
それよりも、とリジェネはリーヴェの記憶について進展があったかを訪ねてくる。かなり気になる様子の彼に、リーヴェは特に思い出せた事はないと素直に答えた。
リジェネはがっくりと肩を落とした。焚火がパチッと音を立てる。
リジェネ「さあ、姉さん。もう夜も遅いですし先に休んでください」
リーヴェ「本当に最初の見張りを頼んでいいのか」
リジェネ「もちろん。僕はカナフのおかげで姉さん達ほど疲れてないですから、大丈夫です」
リーヴェ「では、お言葉に甘えさせて貰うよ。お休み」
リジェネ「お休みなさい」
テントに入っていくリーヴェを見送り、リジェネは星1つない夜空を見上げる。
リーヴェ達の険しくて長い旅が、今、始まろうとしていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
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