第9話 戦闘
「こ、これは一体ここで何が……」
街を出て森を抜けると、そこには荒れた大地に半壊したビルや、木の一部となっているタイヤのない自動車。目を覆いたくなる景色が、永遠と続いていた。
「君〜、大丈夫?まぁ、僕もこの景色を見るといつも憂鬱な気分になってしまうよ。ここからは気をつけるんだよ、モンスターの住処になっているから」
僕は生唾を飲んだ。僕が知っている世界は、ここにはない。別に特別な感情があるわけじゃない。この世界を憎んでもいたから。ただ、これはあまりにも雑で、中途半端な世界だ。破壊されることもなく、生きていける世界でもない。天使達がこの星を、こんなにも醜い姿に変えてしまったのか……
「さぁ、アシエル殿。そんなとこで立ち尽くしていると、日が暮れてしまいますぞ」
「あ、うん……」
僕たちは、荒れた街を東に抜けて行った。ビルには、人の姿はもちろんなく、動物の姿も見えなかった。ビエルが言うには、モンスターが住むことによって、本来この世界で生きてきた動物は、ほとんど死んでしまったそうだ。僕が今日食べた食事も、モンスターの肉だったことを後で聞き、少し気持ち悪さを感じた。
一時間ほど歩くと、5匹の狼のようなモンスターが、僕たちの前に威嚇をしながら出てきた。
ビエルは、すぐに警戒態勢に入り弓を構えた。
「チッ、ライカンか。アシエル、気を付けろこいつらは人狼になって襲いかかってくるぞ」
「な、ライカンスロープですか!?夜に出る魔獣ですよね?」
「言い伝えはそうらしいけど、実際は昼夜問わず出てくるよ。ランクはEだけど、群れを作るから厄介なんだよ。君は少し離れて見ていてくれ」
「ネウスいくよ!
火矢ーーサジタ・イグニス 火で矢を作る魔法で、ランクは1だ。一回に作れる矢の数は、人にもよるが1本から10本らしい。
僕が離れると、ビエルはまだ変身していない1匹のライカンにむけ、5本の火の矢を放った。ライカンも、すぐに逃げようとするが3本の矢が当たり、右足が一瞬で炭のように燃え尽きていた。
恐ろしい、その一言だ。これで低ランク魔法、しかもまだ助力を残してだ。つくづく僕が天使だと、バレなくて良かったと安堵するばかりだ。
「ごめん、外した!ネウスお願い!」
「少し焦りすぎではないですか、ビエルよ。
水牢ーーウォーターカルチアム 水の牢を作る魔法で、ランクは2だ。一度入ってしまえば、出ることはかなり難しい。しかし、この魔法は対象が動けない状態でないと、発動することができない。
ネウスが、右足を負傷し動けなくなっているライカンに、魔法を唱えた。すると、ライカンの足元から大量の水が溢れ出てきた。その水は徐々に、ライカンを包み込んでいく。ライカンは、必死に逃げようとするも、水牢から出ることができずに、すぐに溺死した。
恐ろしい。1匹のライカンが、3分も掛からず殺されてしまった。他のライカンもかなり警戒して、こちらの様子を伺っている。
「す、すごいですね。これがハンターですか」
「えへ。君〜、そんな目で見られると恥ずかしいじゃないか。ならとっておきを見せてあげるよ」
「全く、あなたは本当に……
水壁ーー ウォータームールス 厚さ10cmほどの水の壁を作る魔法で、ランクは1だ。主に火を防ぐ魔法だが、あまり強度はなく、火の魔法ですら直撃すると消し飛んでしまう。
ビエルは、何やら集中して弓を構えている。ネウスも、何をするのか分かったのか、僕たちとライカンの間に水の壁を作った。ライカン達は、さっきの攻撃を警戒しているのか、こちらに前屈みになり威嚇している。
「さぁいくぞ!ワンコロめ!!
火の鳥ーーアベム・イグニス 火の矢を鳥に変化させる魔法で、ランクは3だ。この魔法を使うためには、使用者の強さにもよるが発動するまでに時間がかかってしまう。
ビエルが、弓を上に向け1本の矢を放つと、上空で爆発したように燃えた。そして、燃え尽きた矢が地上に向け落ちてくると、その矢に上空の炎がまとわりついていきた。その炎は、徐々に大きくなり、まるで鳥が獲物を取るかのように、鋭くライカン達目掛けて落ちてきた。
「ふぅ〜。どうだ君〜、びっくりしたでしょ〜。これが私の十八番だよ!」
満面の笑みで、こちらを向くビエルの後ろは、消炭しか残っていなかった。綺麗さっぱり、跡形も無いとはこのことだ。ネウスの、魔法がなかったらきっと僕たちまで消炭になっていたと思う。
「全く、ライカン相手に使わなくてもいいじゃ無いですか。アシエル殿の見本には、全くならなかったですよ」
「ちょっと、嬉しくてな!まぁ、いいじゃ無いか〜。まだまだモンスター達は、でてくるんだからさ!」
「僕は、まだいいですよ〜見て、勉強します!」
「君〜違うよ?次は、君が戦うんだ。そのために、君をゴテゴテにしたんだからさ」
「え……」
こうして、ビエルのスパルタが始まった。
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