第6話 天使アシエル


 「ここはどこだ……グッ身体中が痛い」


 周りを見渡すと、ドーム状に地面がえぐれ、それを囲うように木々が外側へ倒れている。まるで、隕石が落ちたようにも見える。

 そしておかしいのは、この骨が軋むような痛みと、腹部がきりきりして雄叫びを上げている。地下室で感じた痛みとは違う、あれは精神的な痛みだったが、これは肉体そのものが痛みを感じている気がする。


 「君〜大丈夫?服もボロボロだし、何かあったの〜?」


 僕を見下ろすように、1人の女の子が声をかけてきた。太陽が重なり、顔は見えないがまだ子供のようにも見える。


 「すみません。ここは、どこですか?」


 「ここはね〜デピュタの街はずれにある森だよ〜。君のお名前は〜?」


 「な、デピュタですか!?インティウムからはるか西じゃ無いか……なぜこんなとこに」


 「君〜聞いてるの?お名前は〜?」

 

 「あ、ごめんなさい驚いてしまって。僕の名前は、アシエルって言います。もうわかってるかもしれませんが、僕は天使です」


 「ん〜君は人間だよ?羽もないし、さっきからお腹が、ぐ〜ぐ〜いってるもん。長い夢でも見たのかな?」


 「えっ!?」


 「へ!?アハ、君面白いね〜。今からご飯食べるから君もくる〜?」


 「あ……はい!」


 な、なんてことだ。おかしいと思ったが羽もないし、体がすごく重い。身体が重力を受けているとこんなにも重いのか。でもなんで人間なんだ。堕天使となるならわかるが、人間になるなど聞いたことない。もしかして、魂を入れたことが関係するのか……


 「あ、そうだ私の名前は……ってちょっと何しているの!?胸から血が出てるよ!そんなに手で、ぐねぐねしても身体の中に手は入らないよ!」


 「でも、魂を確認するためにはこうするしか……」


 「もう、何いっているの!!とりあえず変なことしずに私についてきて、約束よ!」


 「わかりました……」

  


 少女の名前を聞き逃してしまった。今気づいたが、少女じゃなくて背の小さい女性だ。髪は短い茶色で、少しやんちゃそうな顔をしている。何より気になるのは背中にある弓と、血に染まっている小型のナイフだ。彼女は一体ここで何をしていたんだ……まさか!食人族!?見たことはないが、噂では人を食べる一家がこの世には存在すると聞いたことがある。は!?それではまずいじゃないか!僕は今は人間、しかも彼女からしたら弱っている餌だ!逃げなくては今すぐに。しかし相手は弓を持っている、もし逃げ出せば、バシュっと鳥のように射抜かれてしまう。


 「君〜さっきから、すごい顔しながらぶつぶついってるけど大丈夫?お〜い」


 「ヘァ!?嫌!僕は鳥じゃありません!人間です!美味しくありません!!」


 「アハハ!本当に君は面白いんだね。大丈夫食べたりしないよ、このナイフの血は、この森に住むモンスターの血だよ」


 「モンスター……魔獣のことですか?」

 

 「そう、私たちは、モンスターと呼んでるんだ」


 「でも、魔獣はここ何千年も姿を表していないはずです。天使が煉獄の門を見張っているはずですが」


 「ん〜、君のお話はよくわからないけど。ちょうど100年前ぐらいからまた急激に増加したのよ。そして、人類を守るために作られたのが、クストスと呼ばれるハンター協会。私達は、そこのメンバーでこの森に異変があると聞いて、今日来たんだよ」


 「そんな話、聞いたことない……今は人間歴、何年ですか?」


 「人間歴??西暦なら、ん〜今は2660年だよ」


 なんてことだ、僕が眠りについた時は全歴32667年の人間歴が2000年。もう600年も経ってしまっていたのか。情報が少なすぎて何が起こっているのか、わからない。それにしても、彼女の服は古臭くも感じる、獣の皮服にに鉄でできた肩当て……


 「今までにあったことを教えて欲しい。僕は記憶をなくしているみたいで、何も覚えてないんだ」


 「記憶をなくしているの?だから、よくわからないことを言ってるのか〜。わかったよ、着くまでに教えれることは教えてあげるね!」


  

 彼女が言うには、人間歴2100年頃までは人類は発展し、宇宙に移住する計画があったそうだ。しかしその頃から、モンスターが出現するようになり人類の発展は止まり、戦争状態が続いたそうだ。最初は、モンスターの数も少なく人類が優勢だったが、徐々に増えていき2300年頃には主要都市は破壊され、人類は劣勢に回っていた。そして人類は、絶滅を防ぐために数億人の命を犠牲に、禁忌の呪文を使用した。この星の半分を結界で覆う事により、モンスターを封じ込めたそうだ。そして、100年ほど前からまた、モンスターが増えそれを討伐しているのが彼女たち、クストスのハンター達ってことか……


 「ありがとう、まだ記憶は戻らないけど、この世界のことはわかってきたよ」


 「うん!うん!それわよかったよ。でも、そんな昔の歴史まで知る必要あったのか分かんないけどね!」


 「アハハ、僕は歴史が好きなのかなぁ〜」


 「なんでこんなとこにいるのよ!逃げて!!!」


 「へ?一体どうし……ウッ!」


 彼女は、血相を変えて僕に飛び込んできた。そして僕がいた場所には大きな穴が開いていた。


 「ごめん、先に逃げてくれる?君を守りながらはきついかな」


 「な、何だよあれ……」


 僕の目の前には、5メートルほどの犬の頭が3つ付いている、ケルベロスがいた。こちらを、よだれを垂らしながら見ている。しかも彼女は戦う気だ、こんなのに人間が勝てるわけがない。僕が、立ち上がれず座り込んでいると、ケルベロスは右手を上げ、僕に向けて振り下ろして来た。


 「ちょっと何してるの!!」


 一体何が……周りを見渡すと、目の前にはケルベロスが、そして僕の隣には、背中に大きな引っ掻き傷から血を出している彼女がいた。


 「おい!大丈夫か、一体何があったんだよ!」


 「君が、早く逃げてくれないからだよ〜まぁ君がいなくても勝てないけどね」


 「おい、死んじゃうのか!僕は、どうしたらいいんだ!」


 「私は、大丈夫だから君は逃げて。このまままっすぐ行けば、私の仲間がいるわ。ビエルに、ここに行けと言われたといえば助けてくれるわ。さぁ、早く行って」


 ふざけるなよ……なんで彼女達を守るはずの僕が、命をかけ守られているんだよ。また僕は、何もすることができずに彼女達を死なせてしまうのか……。


 「ごめん、人間になってしまって本来の使命を忘れていたよ」


 「な、何をいっているの!相手は、ケルベロスよ!!早く逃げて!!」


 僕は、彼女の必死な訴えも聞かずに、ケルベロスに向かい合った。人間になったからだろうか、手足が震えている。これがきっと恐怖とゆうものなんだろうか、僕が一度だけ感じた地下室の扉に似ている。今すぐ、ここから逃げ出したくなる……でも、彼女を守るためには戦うしかない。やってやる、僕は下級監視者でも天使だ!!天使アシエルなんだ!!


 「君は、僕が必ず守ってみせる!!天使の怒りエンジェル・フロレム


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