第103話
「フンッ!!」
「ハッ!!」
鷹藤家の康義は刀を振り下ろし、魔族のカルミネは伸ばした右の爪で突きを放つ。
“ガキンッ!!”
「ぐうう……!!」
「ヌウウ……!!」
両者の武器がぶつかり合うと、刀と爪の切っ先が触れたまま動かない。
どうやら威力が互角だったようだ。
両者とも力を込めた押し合いになるが、カタカタと武器同士が当たる音が小さく鳴るだけで、膠着状態が続く。
「フンッ!!」
「シッ!!」
これ以上の押し合いは無意味と判断したのか、両者とも武器を引いてバックステップする。
「ハッ!!」
「っ!!」
距離を取った瞬間、カルミネは左手で魔術を放つ。
風の刃が康義へと襲い掛かる。
「フッ!!」
「おぉっ!!」
迫り来る風の刃を、康義は刀を振って迎撃する。
それによって風の刃が斬り裂かれ、魔力が霧散した。
それを見たカルミネは、軽く驚いたように声を上げた。
「へ~、さすがこの国一番の魔闘師だな」
「フンッ! 魔族なんぞに褒められても、嬉しくなどないわ!」
「つれないね……」
どうやら、カルミネは先程の魔術が得意なようだ。
それを簡単そうに防いだため、感心したように褒めてきたが、康義は全く嬉しそうにしない。
そんな態度に、カルミネは残念そうに軽口を呟いた。
「ハッ!!」
「っと!」
カルミネの軽口の相手をせず、康義はまたも接近する。
そして、距離を詰めると右薙ぎに斬りかかる。
その攻撃を、カルミネは左手の爪で弾いて軌道をずらす。
「ハッ!!」
康義と違い、カルミネは両手が武器になっている。
攻撃を弾かれたことで体制が崩れている康義の隙を見逃さず、カルミネは右手の爪で攻撃へとかかる。
「くっ!! シッ!!」
カルミネの攻撃を、康義はしゃがみ込むことで回避する。
そして、そのままカルミネの脚を刈るように蹴りを放つ。
「っ!!」
康義の下蹴りを、カルミネはバック転をする事で回避する。
「ハッ!!」
「グッ!!」
蹴りを躱されて終わりではない。
バック転をして着地した瞬間を狙って、康義は左斬り上げ放つ。
その攻撃を、カルミネは右手の爪で受け止める。
「近付いて良いのか?」
「っ!!」
刀を止めたカルミネは、康義へと問いかける。
左手はいつの間にか爪が隠されている。
それを見て、康義は問いの意味を理解した。
カルミネが左手の爪を縮めたのは、魔術を放つのに邪魔になるからだ。
「「ハッ!!」」
康義とカルミネの声が重なる。
カルミネが康義へ魔術を放つのに合わせるように、康義も魔術を放った。
康義が放った魔術は、攻撃をするためではない。
カルミネの風の刃の魔術を躱すためのものだ。
「フゥ……」
「面白い躱し方だ」
一息つく康義。
そして、カルミネは魔術を躱した方法に笑みを浮かべた。
先程、カルミネが至近距離から風の刃の魔術を放つのに合わせ、康義は土魔術を放った。
地面を隆起させて、その勢いを利用して上空へ跳び合ったのだ。
隆起させる地面は僅かな高さ、面積は小さく、そして高速でおこなうことで、普通にジャンプするより速く跳び上がることができたのだ。
規模が小さいため、使う魔力も少なくて済む。
あの一瞬で躱さなくてはならなかったいうのに、魔力を最小限に抑えた反応は流石といったところだ。
「……すごい。互角に渡り合っている」
カルミネを相手に、康義は五分に渡り合っているように見える。
離れた場所から戦いを見ている康則は、改めて父の強さに驚嘆していた。
鷹藤家の長男として生まれ、康則は跡継ぎとなるべく懸命に訓練を重ねてきた。
同年代で敵う者無しのまま年を重ねたが、才に溺れることなくいられたのは、偏に父の存在があったからだ。
年を重ねて強くなるにつれ、どんどん父との強さの距離が分かってきた。
近付くどころか、離される一方に感じていた。
他の有名一族の当主たちと遜色ない実力を自分が有しているといっても、やはり父の実力に届いていないことを再認識していた。
「う~ん、ティベリオもすぐに来ちゃうだろうから、あまり時間をかけたくないんだがな……」
康義が本気を出したことで、自分と互角の戦いを繰り広げるようになった。
これは楽しいのだが、時間をかけて柊を殺したティベリオが戻ってきたら、どれだけ文句を言われるか分かったものではない。
「それはこちらも同じだ」
柊家の当主とは言っても、俊夫があのティベリオという魔族相手に勝つのは極めて難しい。
俊夫を殺し、ティベリオが戻ってきてカルミネと共闘されては、自分も勝てるとは思えない。
そうならないためにも、なるべく早くカルミネを倒したい。
「だから、全力で行く!」
「何っ!?」
言葉を言い終わると共に、康義は身に纏う魔力が上げる。
そして、その魔力によって身体強化した康義は、カルミネに向かって地を蹴る。
これまで以上に加速した康義に、カルミネは驚きの声を上げた。
「っ!!」
「連撃!!」
「くっ! フッ! うっ!」
右へ左へ動き回り、康義はあっという間にカルミネの懐に入る。
そしてそれと同時に、康義は上下左右へ刀を振った。
カルミネはこれまでの表情とは違い、攻撃を懸命に躱す。
迫り来る攻撃をギリギリのところで躱すカルミネだが、全てを完全に躱せたわけではなく、数か所を浅く斬り裂かれた。
「チッ!」
「フッ!」
このまま回避ばかりではそのうち深手を負う。
それを阻止するために、舌打ちをしたカルミネは両手の爪により、康義の連撃に対抗する。
しかし、それでも康義は余裕の笑みを浮かべる。
「くっ!」
康義の笑みの理由。
それは、自分の連撃にカルミネが追い付けないということだ。
その考え通り、康義はジワジワとカルミネを押していった。
「ハッ!!」
「グッ!!」
とうとう康義の攻撃に対応できず、カルミネは腹を浅く斬られた。
その痛みに顔を顰め、カルミネはその場から後退して距離を取った。
「参ったな。それがお前の全力か……?」
「その通り!」
距離を開けて回復する時間を取らせるわけにはいかないため、康義はカルミネを追いかける。
「じゃあ、俺も本気を出そう!」
「っ!!」
距離を詰めてくる康義に対しそう呟くと、カルミネは両手に魔力を集める。
そして、その魔力を使い、康義を迎撃した。
カルミネの行動に危険を感じた康義は、すぐに方向転換してカルミネから離れる。
その判断によって、カルミネを中心として四方へ飛び散る風の刃を受けることなく済んだ。
「貴様……、まさか……」
とんでもない数の風の刃。
その攻撃を見て、康義はあることに気付く。
「その通り! 俺は近接戦より魔術の方が得意なんだよ」
驚く康義の顔を眺めつつ、カルミネは康義の言いたいことを先取りして言い放った。
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