第85話 二機のピースメーカー!なんで、どうして?俺にもわかんない

「ハハハハハ、大義であったぞ、イベグチ!」

「はいっ!」


 記憶から薄れてはいるのだが、やはり前世で刷り込まれた名前だけあって、呼ばれた瞬間にビクッとなってしまう。魂的なものに刻まれているのだろうか。


「それにしても、父たる皇帝陛下の後継者か……。手段を選ばぬ皇帝らしい」


 おお、イヴァルが思慮深げな表情を見せているぞ。ようやくヒトらしくなったのか? そうだ、大体選考要素が全然わからないし、どうせ決闘的なことで決めるに違いないのだ。アニメ的な派手さを考えれば間違いない。


 だが、ここでイヴァルが別の手段を考えてくれたら、俺の身も多少は安全が確保される。俺は嬉しい。多分、エレアもこんなこと望んでいないぞ。


「なかなか面白い趣向だな」


 俺の気のせいだった。やはり、こいつもバーバリアン。皇族って頭のネジ緩んでいるどころか、数本が宇宙まですっ飛んでいってる奴らしかいない。すくなくとも、俺にはそう思える。



 * * *



「お疲れ様でした、リベル様」


 屋敷に帰ると、唯桜が出迎えてくれた。ハチャメチャ機械人形メイドではあるが、イヴァルや皇族バーバリアンの皆さんに比べると、見慣れているだけに安心はする。


「……しかし、皇帝の後継者、ですか。皇帝はそろそろ退位するつもりでしょうか」

「わかんない。ただ、元気いっぱいなのはわかる。じゃなかったら、自分の娘と決闘なんかしないでしょ」


 加えて、勝ち誇っていたのだ。なんだよ、あの強さこそパワー的な考え。この帝国、未だに滅んでいないのは皇族がやたらと力押しでイケイケすぎて、却って功を奏しているのかも……。いや、ないな。運がいいだけだ。


「皇帝がどう考えているのかはわかりませんが、我々にとってはやりやすい状況となりましたね」

「え、なにが?」


 唯桜えもんがなんかトチ狂ったことを仰っている……。何がどうやりやすいのか。


「いえ、皇帝は手段によらず、自身の地位を脅かせると判断した者を後継者とする。継承権の順位は関係ない。なら、リベル様が素顔を出して皇帝の座を簒奪できるということではないですか」

「ああ、なるほど……って、なるか! なんで俺があのおっそろしい皇帝に反旗を翻すことになるの? 俺は心から小市民だし、小市民でありたいし、小市民がいいんだよ! 皇帝とか帝国とか銀河とかは他の奴に任せたらいいじゃないか~」


 唯桜は俺の言葉を聴いているのかいないのか、紅茶を一口飲んだ。そういえば、今更ながらこいつ、機械人形なんだよな。古代文明の技術がどうなっているのか知らんが、飲食も可能な機械人形って殆ど生き物の域じゃないか。


「リベル様。あなたのお身体には、たしかに銀河帝国ピースメーカー王朝の血が流れているのです。そして、あなたは銀河を手中に収める運命に生まれたのです」

「いやいやまさかまさか。俺は平々凡々な元皇族。俺がのこのこ出ていったら消されちゃうよ。間違いない」


 宮殿は伏魔殿ですぞ! 歩いている通路でさえ安全かわからないときたもんだ。


「リベル様、あなたは魔王なのですよ? つまり、魔王活動で銀河皇帝の座を脅かして、機が来た瞬間に正体を明かしては?」


 うわ~。このメイド、何を言っているのかわかんない。


 革命なんか起こしたところで、皇族だと明かしたら帝国のマッチポンプ感しかないじゃないか。あの魔王が素顔を晒していなかったのも、それを懸念していたからじゃないか。いや、知らんけど。


「大丈夫です。信頼してください」

「魔王関係以外はね!」



 * * *



 二機のピースメーカー――。


 皇帝が所有するピースメーカー。そして、仮面武闘祭に現れたピースメーカー・バントラインスペシャル。


 本来ならば、両機は同時に存在しないはずだ。何故なら……。


「魔王リベル、心安らかに眠るがいい。お前が我をあとひと押し追い詰められたなら、或いは皇帝の座をくれてやったかもしれん。その名誉を胸にして逝け」


 玉座の間には、皇帝と次期皇帝の座を勝ち取ったヴァルドルフ。そして、絶体絶命の魔王がいた。


 銀河皇帝の構えた拳銃の先にいるのは、魔王。そう、この場面は『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』のセカンドシーズンの二〇話。エイジに一旦敗北した魔王が、銀河皇帝の前に引きずり出された回だ。


「私は、私は……皇帝、お前を否定する!」


 突如、天蓋が破壊される。魔王を救いに、革命軍リライズスが宮殿に攻め込んでいたのだ。指導者カリスマの救出作戦は電撃的であり、エイジがこの場にいなかったのも、彼らと戦っていたからだ。


『魔王ッ!』


 セシリア・サノール――リライズスのエースの声が、空に晒された玉座の間に響く。


「今だ!」


 魔王は玉座へと走る。突然の出来事に銃口は外れているものの、皇帝の手には変わらず拳銃があり、またヴァルドルフも懐から銃を取り出そうとしている。この条件では魔王は彼らへと到達する前に撃ち殺される。


『セシリア! いい加減に眼を覚ませ!』


 だが、魔王にとって思わぬ救世主が現れた。シルヴァリオンがセシリアのキャバリーと衝突、玉座の間に二機のキャバリーが転がり込む。一〇メートル規模とはいえ、ヒトに比べれば巨大な質量が床面を揺らす。辛うじて梁にしがみついていた天蓋の一部が剥がれ、皇帝へと落ちる。


「ぐ……ぐぅ……」


 皇帝は生きていたが、脚を挟まれ。その手の拳銃も何処かへと消えてしまっていた。


 ヴァルドルフはというと、幸運にもその身には受けなかったものの、眼前に瓦礫が降り注いで視界を奪われている。


 この絶好の機会を魔王が見逃すはずもない。一気に玉座の奥へと駆け上がり、そこに坐したるキャバリーのコクピットへと入り込む。


『セシリア! よくやってくれた! 撤退するぞ』


 そのキャバリーこそピースメーカー。後にバントラインスペシャルとしてカスタマイズされる、魔王専用機である。

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