第68話 決勝戦に乱入⁉どっきりびっくりロボ!
くそう。なんてこったい、不甲斐ない。
誰一人として、エイジに傷一つつけることなく敗退していく。明らかにトーナメント表に偏りがあるだろ!
いや、エイジを始めとしてイヴァルとかセシリアとかトンデモ連中がこぞって参加している、この地獄トーナメントに名乗りを上げる奴なんか、よほどの馬鹿、もしくは強制されて参加させられた哀れな子羊かの二択しかあるまい。ちなみに、俺は後者である。めぇ~。
いかんいかん。寝不足もあってか、わけのわからん思考が混じる。
そうこうしている間に決勝戦である。
結局、エイジを倒せる奴がいようはずもなく、そして俺のブロックも結局八百長しようがないほど弱っちい奴らしかおらず、結果、決勝戦まで勝ち進んでしまった。やだやだ。
決勝戦前に逃げようとも考えたけど、何処にいようともマーカーでバレるし、そもそも小惑星に飛ばされている段階で逃げ場なんてないのだ。……詰んだ。
眼の前にはエイジの乗るディスケンスがいる。
ものすごい重圧だ。重力10倍だ。まるで戦闘民族が住んでいる惑星のようだ。今なら、戦闘員輸送用一人乗りポッドがこのお値段!
でも、お高いんでしょう?
いえいえ、そんなことはありません。今なら、なんとこの価格!
ええ、こんなに安くていいんですか?
いいんです! なんと、今回はもう一つおつけしています!
だったら、その分半額にしろ……っていかんいかん。やはり寝不足だ。
寝不足に加えて、エイジから放たれるプレッシャーで、俺のか弱い精神が現実逃避しようとして、眠気を誘っているのだそうに違いない。
テキトーに手を抜いていると殺されかねない相手だ。あいつ、俺のこと完全に魔王本人と思っている可能性が高い。もはや殺気といえるレベルの視線が突き刺さってくる。仮面をかぶっているというのに、だ。
むしろ、殺されないように本気を出さねばいけないが……相手はエイジ・ムラマサ。『銀光の勇者シルヴァリオ・エイジ』の主人公サマである。顔にも才能にも恵まれて、更に主人公補正という強運の持ち主相手に、俺は所詮ライバルキャラ。しかも、頭脳キャラというのに、中身はブラック企業で社畜やってた奴である。
どう考えても最悪、どう考えても絶望。どうないすりゃええの?
待て待て待て! 唯桜はこの場にいないのだ。いないのだ……。(泣)
気の遠くなる思いで、俺は試合開始のゴングの声を聞いた。
* * *
魔王……。
お前は誰だ? 銀河帝国に反旗を翻すテロリストか? 銀河帝国を侵略を企む連邦のエージェントか?
ディスケンスのコクピット――。空防の向こう側に佇む魔王のディスケンスを半ばにらみながら、エイジは答えなき問いを投げかけていた。
もはや、エイジは眼前の魔王が――彼が魔王と呼ぶ、稀代のキャバリーライダーであると信じて疑っていなかった。素晴らしい反射神経もさることながら、罠には目もくれない判断力、容易く一流キャバリーライダーを撃墜する腕……。
頭脳と胆力、そしてそれらを支える圧倒的な感性。全てを高い次元で備えている。
天才という枠ですら不足している。神童か、或いは鬼才か。
――それだけの器を持っていながら、何故銀河帝国を陥れようとする⁉
エイジが感じていたのは、帝国の敵とおぼしい存在に対しての怒りではなく、むしろ憤りだった。
魔王ほどの実力があれば、銀河帝国内ですら群を抜いた活躍を見せ、瞬く間に出世の道を駆け上っていただろう。なにせ、帝国の吸血鬼とさえ呼ばれるイヴァル・アルフォンヌ・ピースメーカーと、真っ向勝負で勝利を収める実力者なのだ。
尋常な相手ならばまず相手にならない、一騎当千の――物語の英雄英傑めいた存在。だというのに、その身を正道ではなく邪道にやつして、こうしてエイジと対峙している。
――いや、落ち着け。心を冷静に保てなければ、俺のほうが負ける。
そう、あの冷静沈着な魔王のことだ。律儀なことにルールを破る気はないらしいが、その範疇内で心理的な罠を張っていることも充分考えられる。
足元に蜘蛛の巣が張られているような感触を覚え、エイジは背筋を駆け上る冷たい死神の手を意識した。
――臆するな。この心境さえも奴の掌にあるのかもしれない。冷静に、冷静にだ。
努めて冷静さを旨とするエイジだったが、胸に蟠る不安の
――まずは、一直線の駆け斬りだ。真正面から斬り伏せる!
きっかけとなる一の太刀は決めた。時間をかけた躊躇の心が孕んだ一手など、魔王からは読みやすいだろう。ならば、自分を鼓舞する意味でも、一気呵成に攻め込んだ勢いで圧倒すればいい。小細工を弄する暇など与えない。
地を這うが如き構え。両手に
対する魔王のディスケンスは泰然と仁王立ちのまま。なるほど魔王を名乗るに相応しい威風堂々たる出で立ちだ。エイジにはその姿から、向かってくる勇者を正面からでも捻じ伏せられる自負が感じられた。
――行くぞ!
意を決した瞬間、それは天から墜落する勢いで舞い降りた。
「なに 」
我知らず口に出した戸惑いの声が半ばで途絶える。それを為したのは、雷鎚の如き光の奔流だった。圧倒的なまでの熱量が秘められていると感じさせるそれは、エイジの――そして、きっと魔王の――瞳を感光させた。
「ぅ……?」
呻きながらもゆっくりと戻ってくる視力に、少なくとも死したわけではないと胸をなでおろす。だが、問題は彼らの対決に横槍を入れた存在だ。何者かは知らぬが、魔王との真剣勝負に水を差すなど許しがたい。エイジは、彼自身が心の何処かで魔王との直接対決を望んでいた事実に気づいていなかった。
「なんだ、こいつ?」
最初に眼に入ったのは、光を反射する艶めいた紫紺の装甲。黒と金の装飾が施されたそれは、異なるもののリミテッド・マヌーバー夜水景と似ており、儀礼用と見紛う荘厳さを湛えていた。古来、紫とは皇帝のための色彩だったという。ならばこそか、ちょうど彼らの中心に舞い降りたキャバリーからは高貴な印象を受ける。
こんなキャバリーは視たことが……いや、何処かで視たことがある。一体何処で……?
『ピースメーカー⁉』
既視感に囚われたエイジの心中の疑問に応えたのは、対峙していた魔王だった。
ピースメーカー。それは銀河帝国で特別な意味を持つ名。玉座であり、称号であり、帝冠である。そして、それが意味するものは――。
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