第30話 テスト、ベスト、チェストの件
そしてリュウトたちは、試験当日を迎えた。
試験は二日に渡って行われる。一日目に筆記、二日目に実技試験だ。
今日は一日目の、筆記試験にリュウトたちは挑む。
テスト開始の合図ギリギリまで教科書にかじりついて、テストの時間になると、この二か月で学んだことを解答用紙に全力でぶつけた。
元の世界の学校でのリュウトの成績は悲惨なものだった。得意な科目は一つもない。宿題も提出しなければ、テスト勉強などしたこともなかった。
だけど、この世界に来てからは、自発的に勉強がしたいと思った。
一つは、アリアを守りたいから。守られるだけじゃなく、守る男になりたいと誓った日のことは忘れない。いつか、アリアを守れるようになって、彼女に恩返しをしたい。彼女の力になりたいという想いは、会えなくなった今でも揺らいではいない。
二つ目は、コンディスとフレンの夢を叶えたいから。士官学校に入ってからのはじめての友だち、コンディスとフレン。彼らの立派な志しは学生としてのリュウトの意識を大幅に変えた。リュウトが頑張らねば彼らに迷惑をかけるというプレッシャーもあるが、今はそれ以上に、コンディスとフレンと一緒に竜騎士になる夢を絶対に叶えたいという熱い想いの方が強い。
そして最後に、生きるためだ。この異世界は、リュウトが住んでいた世界とはまるで勝手が違う。何が安全で、何が危険なのか。知識や知恵がなければ、ちょっとしたことで命が無くなるかもしれない。この異世界では死んではいけない。ちゃんと元の世界に帰って、妹を、両親を安心させてやらねばならない。他にも、モイウェール王やソラリス王子や、王城で働く人々、色んな人に世話になった。ただのうのうと生きるのではなく、目的と目標を持って、きちんと生きることで感謝の気持ちを表したかった。以上が、リュウトが自発的に勉強をすることになった理由だ。
筆記試験は終了した。
リュウトの回答用紙は三つの空欄を残して回収された。
「はああ」
それでも、出し切った。おそらく、リュウト史上最高点を取れたテストだった。
リュウトは教室内を見渡し、仲間たちの様子を探った。
コンディスとフレン。そしてシャグラン、ハザック、シェーン。皆一様に会心の出来、といった顔をしている。
「はああ」
リュウトはため息が出た。
優秀な仲間たちを持つと、他人と比較して、できない自分が嫌になってしまうことがときどきある。けれど、他人は他人、自分は自分。頑張れた自分をクローズアップして自分で褒めよう。そして他人の良さを素直に認めよう。負の感情をコントロールできるようになることも、騎士になるのに必要な心持ちだとヴィエイル教官長に教えてもらった。そのことを思い出して、リュウトは深呼吸をして気持ちを切り替えた。
一日が終わり、いつもなら寝るまでコンディスとフレンと他愛もない話を続けているところだが、三人ははやめに寝ることにした。筆記試験の疲れもあるが、それ以上に明日の実技試験の緊張が強かった。ベストを尽くすためにも、万全な体調で挑もうという三人の意志だった。
そして、テスト二日目。実技試験。
午前中に体術と剣術を、午後からは槍術と弓術の試験が行われた。
まずは体術。
三人一組のいつものチームで、攻めと守りを交代して体術の教官と全学生の前で実演する。コンディス、フレン、リュウトの三人はお互いを信頼しあったチームワークなので、目立った失敗はなく終わることができた。裏の格闘大会で戦った経験が、確実にリュウトを強くしていた。
次に剣術。
ランダムで選ばれた相手と、三本勝負の対戦をする。どれだけ多く技を決められるかで点数が入る。ゆえに、シャグランやハザックたちのような強い学生に当たったら、一瞬では試合は終わらず、じわじわとなぶり殺しにされる。リュウトのような小心者たちは、強い相手に当たらないことを願っていた。
リュウトの相手はティミッドという名の、臆病な性格の学生だった。
リュウトには十分勝てる相手だった。
「やあーーーーーーッ!」
シェーンから剣術をみっちり教えこまれたリュウトは、体術同様、いい点が取れたと感じた。
午後からの槍術と弓術の試験は、調子のよかった午前と比べて悲惨だった。
槍術は習った構えをすべて実演するという、一番楽だと言われている試験だったが、リュウトは演目の発表中、槍が手からすべり、落としてしまった。
弓術も同じように途中で弓を落とした上、十本中二本しか的に当てることができなかった。
そうして、二日に渡ったテストは終わった――。
いきいきとした優秀な仲間たちを見るのが、リュウトにはつらかった。
落ち込んだ様子のリュウトの左肩をコンディスが、右肩をフレンが強く叩いた。
「リュートはよくやった。よくやったさ」
「一生懸命取り組む。うまくできることよりも、大事な気持ちだ」
コンディスとフレンは屈託のない笑顔でリュウトを励ました。
この友人たちは、いつだってそうしてくれた。思いやりと共感力の高い、人として立派な友人たちだ。
これは二回目、三回目のテストで死ぬ気で挽回しないとダメそうだ。
コツコツと地道な努力を積み重ねても、うまくいかないときはある。この苦い経験も、きっといつか、役に立つ。
「コンディス、フレン。ありがとう――ありがとう」
その日の三人は、疲れ果てて、死んだように朝まで眠った。
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