第46話


 多分、警察官になった後やそれこそ小学生の低学年以降の俺しか知らない人は、俺の事を『破天荒』とか『自由人』とか『好き勝手にやっている人』と思っているだろう。


 ただ、第一印象がどうしても『大人しそう』と思われがちらしい俺がそんな行動を取っていると、あまり良い印象は受けないらしい。


 でも、俺の小さい頃を知っている人は多分違う印象を持つだろう。


 なぜなら、小さい頃の俺は『家の言う事は絶対』だと思って親の言うとおりに生きていたからである。


 それこそ『家の言う事は神様の言う事に等しい』とすら思っていたほどで、だからこそ『おうちの人の言う事を聞く良い子』と呼ばれていた。


 この時の俺にとってそれが全てだったから、特に「良い子」と周りは言っていても、何も思わなかった。


 その中でも、当時家で一番上にいる両親の祖父母が絶対で、例え周りが「間違っている」とか「あんまり言いなりになってはいけない」とか、何をどうこう言おうが言われようが、当時の俺は全く聞く耳を持たなかった。


 俺の両親の家は、昔から深い繋がりのある家同士だった。だからこそ、こんな風に色々と口出しが出来たのだろう。


 しかし、時間が経てば子供には『自我』というモノが小さからず生まれる。


 俺もその例に漏れる事なく、自分のやりたい事、やってみたい事などが自分の中でどんどん生まれていった。


 後に、その「色々やりたい」という気持ちが『好奇心』と言う名前があるのに知るには時間がかかったが、その気持ちに気が付くのにはさほど時間はかからなかった。


 ――そんな時ふと思った。


『家の……祖父母の言う事は全部が全部正しいのだろうか? 俺は、本当にこのままでいいのだろうか?』


 本当にふと思っただけなのだが、それを考え始めたら、どんどん「それは違うのではないか。俺は俺の人生を家の言いなりになっていて良いのだろうか」という気持ちが日に日に増していた。


 確かに、言うとおりにして良かった……と思った事はある。だが、言うとおりにして『悲しい気持ち』になった事もあった。


 その最たる例が『習い事』だった。


 周りは子供たちはみんな水泳やピアノ。塾など何かしら『習い事』をしていたが、俺は「やりたい」という言葉さえ言わせてもらえず、そういった話をしようとすると、会話はすぐに遮られ、一切させてもらえなかった。


 そもそも、俺にあの家の中で発言権なんて全くなくて、家の中で俺が言葉を発するのは、せいぜい『宿題の音読』くらいだった。


 だからなのか、こんな俺の徐々に変わっていっている心境の変化なんてあの家の人間は知らなかった。


 ――いや、今にしても思うと「知ろうともしなかった」という方が正しい表現かも知れない。


 だから、この頃から俺がたまに反発するようになっていたのは『学校で変な事を吹き込まれたからだ』とか言って、あの人たちは学校に乗り込もうとすらしていた。


 俺はそんな人たちを見ながら、恐怖心とか感じる事もなく、ただただ「哀れだな」と思っていた。


 もちろん、当然反発すればかなりきつい言葉責めから始まり、暴力はないものの、近くにあるモノを俺の顔スレスレを狙って投げられた。


 俺はそんな対応をされながらも『そんな事を続ければ、人の心はどんどん離れていくというに……』なんて思っていた。


 それでも俺は耐えていて、そんな中でそんな横暴な家の人たちを必死に止めていたのが『両親』だった。


「…………」


 両親だけが祖父母たちの目がないところで俺の味方になって、学校で起きた日常の何気ない話とか悩み事など親身に話を聞いてくれた。


 さすがに『習い事』はさせてもらえなかったけど、話はしてくれたらしい……という事を他の人たちがコソコソと内緒話で偶然聞いた。


 でも、俺は「話を聞いてくれた」という事だけでもとてもうれしかった。なぜなら、どんな時でも俺の味方になってくれる人がいる……それが、分かったから。

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