第39話
「そっか。じゃあ、その人が今までしてきた事はすぐに明るみに出るだろうね」
「ああ。多分な」
しかし、この一件については『自殺』という事だけ伝えられ『女性が依頼人にしてきた今までの悪事』がニュース等で表に出てくる事はなかった。
俺はその事を不審に思っていた。
だが、この事は決して表に出る事はなかったものの。どうやら俺たちが見た映像が、あの映像を見た日を境にネット上でアップされた。
どうやら最初からその様に設定がされていたらしい。
ただ、それが『誰の手によってか』という事は分からなかったが、その映像はすぐにホームページ上では見られない様に削除された。
しかし、削除されたはずの動画は、すぐにネット上で拡散してしまい、この映像と一緒にいた女性や依頼人と同級生だった……など知る人たちの証言がネット上で溢れかえった。
だがまぁ『信憑性』という面ではいささか疑問が残るところだが、その証言の『数』があまりにも多く、またそれに賛同する人も多かった。
そのため、最終的に女性は攻め立てられ『警察に逮捕はされなかった』ものの『昔からの友人を自殺にまで追いやった犯人』としてネット上では大騒ぎになっていた……と、光から後日聞かされた。
でも俺としては、依頼人が亡くなってしまった事もあり、収入も特に得られず、この一件は『依頼人死亡』で終わったつもりでいた。
ただ、光からこの話を聞いていた事もあり、ふと気になって神無月さんに聞くと「ああ、あの女性は別件で逮捕されました」とサラッと返された。
俺はその結果に思わず「え」と声を漏らしてしまったが、なんでもあの映像や同級生たちの証言の反響は、俺が思っていた以上に凄まじく、とても仕事をする……どころか日常生活をする事も困難になってしまったほどだったらしい。
そして、神無月さんが言った『別件』というのは『コンビニでの万引き』だった。
盗んだものは『化粧品と食べ物』で、総額は一万円もいかないくらい。ただ、この時女性が持っていた所持金は五百円程度だった事と、万引き自体が一度や二度でなかったがために『逮捕』という形になったらしい。
ちなみに、コレは調べた時に知った話だが、この女性の実家は昔でこそ、そこそこのお金持ちだったらしく、依頼人は片親でなんだかんだで女性の家にお世話になっていた。
だからこそ、昔はああいった映像で言っていたような態度を依頼人にとっていたらしく、今はその『悪い部分』は見る影もない状態だったが、依頼人の前での女性の態度はで昔と変わらないままだった様だ。
しかも、その依頼人の親が体調を崩し、依頼人はずっと女性の横柄な耐えて、親の看病をしていたが、決定的になったのはその親が亡くなった時に彼女が言った「親が親なら子供も子供ね。取るだけ取って」という言葉だったようだ。
「…………」
確かに、依頼人の親は何かと女性の家に頼っていたが、それはあくまで学生の間の話で、その時に借りたものは全て返し終わっていた。
それは、俺が調べたからよく分かっている。
だが、それだけに飽き足らず「利子を付けて返すのが普通」などと言って、さらにお金などを要求してきたのは……女性の方だった。
その結果。今回のような惨事を起こしてしまったのだろう。
依頼人は多分、心休まる事もなくそういった色々な事が要因で疲れ切っていたのだろう。
そして「そんな事を言うのなら、お望み通り――」と思い、今回の事を決行した……という事は容易に想像が出来た。
多分、依頼人が願ったのは『心のこもっていない薄っぺらい謝罪の言葉』でもなく、ましてや『お金』でもない。
俺を頼ったのは俺が探偵という立場だったのもあっただろうが、多分。あの荷物を俺宛に送りあの場所、あの時に自殺をすれば、あの映像がお蔵入りになる事はないと考えていたのだろう。
そして、警察の目が彼女に向き、ネット上でこの映像が公開される事で多くの人の目に止まる事により、今まで女性に嫌な思いをしてきた人たちが声を上げる。
その事で彼女を『社会的に抹殺する事』が出来る。
多分、コレを最初から依頼人は狙っていたのだろう……と、今となって俺はそう思っている。
人によっては「そこまでしなくても」とか「執念深い」とか言うかも知れないが、依頼人にとってはコレが最初で最後の仕返しだったに違いない。
自分の命を使ってでも、彼女を陥れたかった――。
それは確かに『執念』だったのだろうが、俺としてはそれ以上に依頼人の女性に対する積もりに積もった長年の『憎悪』が依頼人をここまでさせたのではないか……と、俺はこの時そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます