第33話


「あ、と。かっ、神無月」


 あまりにも驚きすぎて、境さんの言葉はどことなくたどたどしい。


「一体何をされているのですか、境さん」


 準備されているパソコンと、見覚えのないDVDのディスクを持っている境さんを一瞥して尋ねた。


 ただ状況を見ただけの事を神無月さんは言っているのだが、その目は明らかに「ちゃんと状況を説明してくださいますよね?」と訴えかけている。


「…………」


 いつもであれば「自由人な先輩だから」と多少は大目に見てくれるのだが、この時の神無月さんの目は……怒っていた。


「え、あ。コレは」


 たじろぎながらも、境さんは俺の方に視線を送りながら「助けてくれ」と言わんばかりの雰囲気を醸し出している。


「…………」


 もちろん、神無月さんが怒っているのには理由がある。


 そもそも神無月さんは『ウソや誤魔化しが嫌いな人間』だ。だからこそ、こうして先輩である境さんが自分の知らないところでコソコソと何かしていたという事実が許せなかったのだろう。


 つまり、裏をかえせばコレが自分の全く知らない人であれば、まだ神無月さんはここまで怒る事はない。


 それに、俺としてはは境さんは今回のこのDVD以上にいつももっと自由にやりたい放題やっている印象があった。


 だが、そういえばそういう場合はいつも神無月さんが一緒にいて何かとフォローをしていたから……という事を今更になって気が付いた。


「…………」


 それらを踏まえた上で、もし俺がここで境さんを助けようモノなら、俺も境さんと一緒に怒られてしまうのはほぼ確定だろう。


 そもそも、俺は最初から「神無月さんの後ろにいる女性も一緒の方が良いのではないか」と言っていた。


「はぁ、西条さん」


 何も言わない……いや、何も言えない境さんに対し、呆れら様にため息をつきつつ神無月さんは俺の方を向いた。


「はい」

「これは一体どういう事ですか?」


 しかし、いそいそと準備をしている境さんを見ながら特に注意をしなかった俺にも問題はある。


 だから、一概に『境さんだけが悪い』とは言い切れない。


「僕はともかく、この方には分かりやすい説明を求めます」


 神無月さんはそう言って、すぐ後ろにいる『女性』の方をチラッと視線を送った。要するに「この女性に関するモノですよね?」と言いたいのだろう。


 特に女性に関する事とは言っていないモノの、何となくで分かってしまう辺り「さすが」の一言である。


「……」


 しかし、そんな神無月さんの言葉を受け、俺は「はぁ、逃げ場がない」と心の中でため息をついた。


 ここまバレてしまっているのなら、下手な誤魔化しはかえって良くない。


 神無月さんは表情には見せないモノの完全に怒っているのは分かるし、境さんは「言うな」という視線を向けている。


 この場にいるのが光ならば、のらりくらりと誤魔化す事も容易だったかも知れないが、そもそも俺はウソが苦手で下手だ。


 そうなれば、残る選択肢は一つしかない。


 だから、俺は境さんの視線を受けつつ「分かりました。説明します」とゆっくり呟いた。


「…………」


 境さんはその言葉を聞いた瞬間、何やらうなだれていたように見えた……が、実は「あの時、内心ホッとしていた」と聞かされたのは、大分だいぶあとの境さんの本人からだった。


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