第24話
「ふん、ふふん♪」
「どうした。光、なんだか今日は機嫌がいいな」
いつも以上に機嫌が良い光に、俺は思わずその理由を尋ねた。
「あっ、うん。実は、今日の検査の結果が良くてさ」
「へぇ、良かったな。この間は悪くてへこんでいたもんな」
「うっ、その節は……」
「いや、別に世話はしてないぞ」
この「その節は」と言われれば、大抵この後に続くのは「お世話になりました」と続く、だから俺はすぐさま先手を打った。
「えっ。いやだって、せっかくもらった茶葉もくれたし」
「あれは俺が持っていても、とても飲みきれそうになかったからだ。なんだかんだでコーヒーの方がよく飲むからな」
そう言って俺は目の前にある飲みかけのお茶を一口飲んだ。
「それは……そうかも知れないだけど。でも、やっぱり悪いよ」
「そう思うなら、今回の結果で調子に乗らないで、ちゃんとしていてくれな?」
「わっ、分かった」
「それに、そうすれば退院するのも早くなるだろうからな」
しかし、わざわざ俺が『あまり調子に乗らない様に』と言わなくても、光はちゃんとするだろう。
前回結果が悪かったのは……なんだかんだ言って、光の元に行く時に俺が手土産をよく持ってきていたのも原因の一つだったのだろう。
光は「もったいないから」と律儀に俺の前で毎回食べていたし、現に俺は前回の検査の後、光の担当医師のからちょっとしたお叱りを受けた。
でも、光も少しは反省したらしく、ほぼ毎日の様にカフェオレを飲んで、ストックまでしていたという負い目からなのか、ここ最近はそのお気に入りのカフェオレも一週間に一回だけにしているようだ。
「それにしても、どうしたかしたの?」
「ん? 何がだ?」
「え、あ。いや、兄さんがここ最近あまり来ていなかったなぁって、思ってさ」
「あっ、ああ。それか」
そう言って光がチラッと視線を送った先には、使われたタオルなどなどが置かれている。
「ちょっと、色々あってな」
着替えや補充品などなど。いつもであれば、一週間に一回はここに来ていたのだが、ここ最近は『とある事情』があり、来られていなかった。
「それって、仕事?」
「まぁな」
「ふーん、そっか。忙しいのなら仕方ないね」
「ああ。それで申し訳ないんだが、しばらく頻繁には来られそうにない」
俺がそう言うと、光は『仕方ない』という気持ちを押さえつつも、言葉では「分かった」と言って、苦しそうでありながら笑顔を見せた。
「……悪いな」
「仕方ないよ、仕事だしね。でも体調には気をつけないとね」
「ああ、ありがとう」
そうお礼を言うと、光は「うん」と言ってまた笑った。しかし、この時見せた笑顔は、いつもと変わらない可愛らしいモノだった。
「それにしても、どうしてそんなに忙しいの? たくさん仕事が入った?」
「いや、仕事の量が『増えた』ってワケじゃなくてだな」
「ん?」
「今回の仕事の内容がまぁ、言ってみれば『ストーカー犯を探す』みたいな仕事でな」
「なるほど。そういう事か」
「ああ、だからあまり依頼人から離れるのも良くないだろうと思って……だな」
「そっか。でも、それなら」
「ああ、光が思った事は俺も依頼人に言った。だが、どうやら依頼人は『警察に頼んでも聞いてもらえなかった』らしくてな」
そこで俺は『いつも受けている仕事の内容とは全然違うという事』に困惑している光に対し、依頼人が来たところから説明をする事にした。
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