第19話


「言われて見れば、確かに『月曜日』が多かった……いえ、むしろ『月曜日しかなかった』かのように感じます」

「――そうか。もしかしてとは思っていたが」


「それがどうかしたのですか?」

「いや、ただ単純に今回見つかったのが『月曜日』だったというのが一番の理由なんだが。でも、そうか」


「?」

「いや、この『月曜日が多い』という事が分かった事によって、ある程度は犯人が絞れるんじゃないかと思ってな」


「――と言いますと?」

「例えばの話なんだが、接客業などの職業は基本的に『休み』は不定期が多いだろ? それはもちろん。アルバイトやパートも含まれるが」


「ええ、僕もアルバイトの経験上。土曜日や日曜日に休みを取ろうと思うと自分で申請しないと、なかなか休みが取れませんね」

「そこら辺の経験が俺はないから、よく分からないんだが、そうらしいな」


「ええ。ですが、製造業などは平日と……後は土曜日に二、三回仕事という形が多いらしいですね」

「ああ」


 なんだかんだで俺も色々な人から話しを聞く機会がある。だから、経験はなくとも何となくではあるが、分かる。


「まぁ、俺たちが何気なく日常生活で使っているモノでも『毒』になるモノはあるけどな」


 むしろ俺たちにとっては『当たり前』過ぎて、それが『毒物』とすら思っていないモノもかなりある。


「それは……洗濯用の洗剤やシャンプーなどでしょうか?」

「そうだな。それに、普段食べているものも一度に大量に摂取すれば『毒になる』というモノもある。代表としてあげるなら『トマト』とかだな」


「しかし、そうなると。かなり厄介ですね。先ほどの話の流れでいくと、この犯行は学生の可能性も否定出来ません」

「ああ。だが、俺はあの写真を見た限り、使われた毒物は『青酸せいさんソーダ』じゃないかと考えている」


「青酸ソーダ……ですか」

「ああ。正確には『シアン化ナトリウム』っていう名前だったか」


「しかし、毒物と言ったら『青酸カリ』では?」

「そうかもな」


 ミステリー系のドラマなどでよく『毒物』としての名前で上がるのは『青酸カリ』の方だろう。


「でもまぁ、そのどちらも普通に生活している分にはなじみが薄いモノだ。そもそも『化学薬品』だしな」


 そう、今あげた二つはどちらも『毒物及び劇物取締法』で毒物に指定されているモノである。だから、結局のところはどちらも『毒』なのである。


「ただ『青酸カリ』よりこちらの方が利用量が多いらしく、工場などにありふれているらしいとは聞いた事があるが」

「工場……ですか」


「ああ、それならさっきの話も合わせて考えると、大分絞れるのではないかと思うんだがな」

「……そうですね。動物の不審な死骸が出ている範囲も考えると……大分犯人の行動が絞れるかも知れません」


「周辺の防犯カメラとか調べたのか?」

「ええ。ですが、全身真っ黒な格好な上に、黒いマスクとサングラスといった明らかに不審な人物が映ってはいましたが」


 今のご時世、何かと物騒だと言われている中、よくそこまで完璧に『隠しきっていて通報されなかった』という事の方が驚きだ。


「まぁ、そんな見るからに怪しい格好だったからこそ、酔っぱらいがいる公園に入れなかっただろうけどな」

「それと、車などを使っている形跡はありませんでしたから。多分、この公園の周辺に住んでいると考えるのが妥当でしょう」


「そうだな。ただ、問題はここまで分かっていても、一般人の俺にはこの先どうする事も出来ないな。一般人の俺に逮捕権なんてないからな」

「そこは僕たち警察に任せてください。今のところ『ペットがいなくなったという話』と『被害に遭ったペットの数』が合致していませんが、次の犠牲が出る前に終わらせます。いえ、終わらせてみせます」


 いつになくやる気に満ちている神無月さんに、俺は「じゃあ、後は任せるとするか」という気持ちになった。


「それじゃあ……と、そうだ」

「はい?」


「犯人が分かり次第、俺に一言入れてくれると助かるんだが」

「分かっていますよ。彼女は被害者ですが、水無月さんの大事な依頼人でもあります。それに、彼女には『知る権利』がありますから」


 そう言う神無月さんは先ほどの鋭い目つきからうってかわり、穏やかな笑顔で「それでは飲み物。ごちそうさまでした」と言い、律儀にお辞儀をして公園を出て行った。

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