第23話 家出の翌日

 美里が家出した次の日、蓮夜と美里は学校を休み。

 蓮夜から学校を休むと連絡を貰った悠斗は美咲達に蓮夜のことを話さずに事情を話した。


「一週間したら帰るはずだから心配しなくていいそうだ」

「美里は本当に大丈夫なの?」

「ああ、友達の家にいるから大丈夫だ。その友達にも連絡を取ったから間違いない」

「そう……心配だけど分かったわ」


 美咲は心配そうな顔をするが納得したように頷いた。

 愛奈は悠斗の話を聞いて美里を見つけ保護している友達が蓮夜であることに思い至り苦笑しながら話を聞いていた。

 重国は美咲の妹が無事に保護されたことに安堵し、今日学校に来ていない蓮夜の席を見ながら悠斗に問いかけた。


「それで、蓮夜はどうしたんだ?」

「あいつはただのサボりだ」

「そうか」


 悠斗は重国の問いに疲れた顔でため息をついて返した。

 それに対して重国はかなり振り回されて大変そうだなと思い、同情の視線を悠斗に向けた。


「まあ、無事なら安心じゃない。帰って来てから注意すればいいでしょ」

「そうね。帰ってきたらしっかりと注意しないとね」


 愛奈に言われて美咲は美里が帰ってきたら多くの人に心配をかけた分しっかりと注意しようと心に決めて、重国の方を向いて頭を下げた。


「重国、美里のこと知らないのに探すの手伝ってくれてありがとうございます」

「気にしないでくれ、困った時はお互い様さ」


 重国は美咲に頭を上げるように言いながら微笑み、少し申し訳なさそうな顔に悔しそうな顔をして続けた。


「それに、蓮夜なら三十分もかからずに見つけられただろうし……」

「流石に、それはないんじゃ……」

「……」


 重国の言葉に美咲は微笑みながら否定するが、その場にいる美咲以外の三人が否定しないことに戸惑っていた。

 愛奈は蓮夜ならあり得るなと思いながら苦笑し、悠斗は実際に三十分もかけずに見つけたことを知っているため呆れた顔で視線を外した。


「もしかして、本当に見つけられるの?」

「いや、正確には分からないが、昔のあいつなら出来たかもしれない。けど、流石に三十分は言い過ぎたかな」

「まあ、蓮夜なら出来るかもね」

「ああ、そうだな……」


 美咲の問いに重国と愛奈は笑いながら返すが、悠斗だけは苦笑して誤魔化すように返した。

 悠斗の様子が少しおかしいなと美咲は思ったが、気のせいだろうと流して重国に話しかけた。


「重国は蓮夜のことをすごいって言うけど、重国も負けないくらいすごいと思うんだけど」

「確かに、重国もなんだかんだ言って天才よね」


 美咲の言葉に便乗するように愛奈も重国をほめるが、重国は首を横に振って返した。


「蓮夜と比べたらただの一般人だよ。それに美咲も十分に天才だと思うけど」

「そうかな……」


 重国の言葉に美咲はいつものように肯定も否定もせずに流した。


「美咲は文武両道の完璧美少女だからね。なんでもそつなくこなせるのよ」

「そんなことないよ」

「まあ、そういうことだよ。美咲さんが自分を天才だと思わないように、自分のことを天才だなんて思う奴の方が少ない」

「確かにそうだが、謙遜のし過ぎも良くないだろ」


 重国の言葉を聞いて悠斗が自分の意見を美咲と重国に言うと、美咲は少し考えるように黙り、重国は苦笑して頷いた。


「分かってるさ。俺が天才なのは自覚してる。蓮夜に会う前は天才だと周りからもてはやされて浮かれてたからな」

「蓮夜に会って叩きのめされたってこと?」

「ああ、完膚なきまでに叩きのめされたさ。俺が天才でも俺より上はいるってことを思い知らされた」

「……上には上がいる……ね」


 重国の言葉に愛奈が確認するように問いかけると、重国は清々しい顔で返した。

 愛奈に返した重国の言葉に美咲が小さな声の呟きは誰にも聞こえなかった。


「まあ、自分が特別だと思わずに努力し続けてる奴が一番すごいって話だ」

「ん?蓮夜は自分が天才だって自覚してないのか?」


 重国の言葉に悠斗が気になったことを問いかけると、重国は呆れたように苦笑して返した。


「他人に興味がないあいつの基準は蓮夜自身だぞ。目標を達成するために何が足りないかを正確に把握して足りないもの埋めるために努力し続けた天才。目標しか見てないから自分の周りの評価を理解してない」

「なるほどな」


 重国の言葉に悠斗は蓮夜の化け物染みた能力に納得がいき、呆れて苦笑した。

 天才と言われるほどの人間が周りのことなど見ずに目標に向かってひたすらに努力を続けた結果が蓮夜なのだろう。


「聞いた話だと普通の大人より優秀なんでしょう?何を目標にしたらそんな能力が身に着くんでしょう?」

「昔の蓮夜と仲良かったわけじゃないから、流石に目標が何かまでは知らない」

「そう……」


 美咲の問いに対して重国は申し訳なさそうに首を横に振って返した。

 重国の答えに美咲は少し残念そうな顔をするが、知らないならしょうがないと諦めて重国に微笑み話を変えた。


「そうだ。美里探し手伝ってくれた御礼に今度お菓子か何か作って来るね」

「え?いや、そこまでしてもらわなくても」

「私が御礼したいから受け取ってくれると嬉しいかな」

「……」


 重国は断ろうとしたが、可愛らしく首を傾げて微笑みながら言う美咲に何も言えなくなった。

 悠斗は重国の肩に手を乗せて重国と視線が合うとため息をついて首を横に振って諦めろと伝えた。

 悠斗の態度と美咲の微笑みに重国は少し考えたものの諦めて御礼を受け取ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る