彼女の魅力は異能ですか？

第21話 説教

　蓮夜の真剣な顔に美里が不思議そうな顔で首を傾げていると、蓮夜はソファーの横の絨毯を指さした。

「そこに正座」

「……え？」

　突然の蓮夜の言葉に美里は意味が分からずに素っ頓狂な声を出した。

　しかし、蓮夜は美里のことを気にせずに続けた。

「説教するからそこに正座しろ」

「え、え？は、はい」

　美里は表情を変えずにずっと同じ場所を指さし続ける蓮夜に気圧されて指示に従い蓮夜が指さすところに移動して正座した。

「まず、お前は姉に振り回されて来たことは理解したが、くだらない」

「……くだらないって言われても……私はずっと悩んで来たのに……」

「分かってるさ。美里みたいに悩むのが普通だってことくらい、あいつもそうだったしな」

「……あいつ？」

「なんでもない」

　蓮夜は少しの間美里から視線を逸らして暗い顔をするが、すぐに真剣な顔に戻って続けた。

「けどな、そんなことはくだらない。誰だって隣の芝生は青く見えるものだ」

「そうだけど……」

「俺、お前に初めて会った時言ったよな。やりたいことやればいい、他人と競争して悩むくらいなら自分の好きなことを楽しめ、人生に意味なんてないんだから出来る限り楽しむべきだって」

「……だから、今日までやりたいようにやって来たし、出来る限り楽しんできた」

　蓮夜の言葉に美里は視線を落として暗い顔をして続けた。

「それでも、蓮夜まで私を見てくれなくなると思うと怖くなって……」

「なら、俺にぶつければいいだろ。恐怖も悦楽も悲哀も羞恥もその他の感情もお前が美里である証なんだから、怖いなら泣き叫べ、嬉しいなら笑え、感情を押し殺すな」

「でも、蓮夜に迷惑がかかるし……」

　蓮夜の言葉に美里は俯いたまま申し訳なさそうな声で答えると、蓮夜は鼻で笑って続けた。

「そんなのいつもお前に連れまわされてるのと大差ないさ。俺を呪ったあいつに比べれば、お前の迷惑なんて可愛いものだ」

「……」

「小さいことは気にするな、他人に流されるな、同じ人間でも全員違う生き物だ。他人を真似してもそいつにはなれないし、他人もお前にはなれないんだ。誰もお前を見ないなら迷惑でも押し付ければいい。それで離れていくならもともと縁が無かったそれだけだ」

「それは流石に……」

　蓮夜の言い分に顔を上げた美里が呆れた顔で蓮夜を見て呟くと、蓮夜は構わずに続けた。

「お前は自分に興味がない相手とも仲良くしたいのか？そんなんだからくだらないことで悩むんだよ」

「どういうこと？」

「人間関係なんて狭く深くで良いんだよ。自分のために怒り泣き笑ってくれる親しい友人が数人いれば、他の人とのつながりなんてうわべだけの利用しあう間からで十分だろ」

「言いたいことは分かったけど、その他の扱い雑じゃない？」

　美里は蓮夜の言っていることは理解したが、その他の人に対する雑さに呆れて苦笑した。

「そんなことはどうでもいいんだ。俺が言いたいことは自分を見て欲しいなら迷惑かどうかなんて考えてないで押し付ければいいんだ。普段は生意気なくせに意外と遠慮気味で相手を気遣いすぎなんだよ」

「……遠慮しなくてもいいってこと？」

「そういうことだ」

　美里の確認するような視線に蓮夜は頷きながら返した。

　蓮夜の返事を聞いて美里は俯いて考え始めた。

「俺の言いたいことは以上だ」

　考え始めた美里に背を向けてソファーに座ろうとした蓮夜に美里が声をかけた。

「じゃあ、これまで以上に蓮夜に我が儘言ってもいいってことよね」

「……え？」

「そういうことよね」

　美里は四つん這いになって蓮夜に迫り、蓮夜は美里の行動に驚いてソファーに倒れると美里は蓮夜に覆いかぶさるようにしてもう一度確認するように同じことを言った。

「そういうことよね！」

「ああ、そういうことだが、流石に全部の我が儘を聞く気はないぞ……」

「聞ける範囲なら聞いてくれるってことよね」

「ああ、だから少し落ち着こうか」

「ん、分かった」

　美里は蓮夜の上に覆いかぶさるように寝転び、蓮夜の胸に顔をうずめて息を整えるように大きく吸い始めた。

　蓮夜に抱き着き匂いをかいでいるように見える美里の姿に蓮夜はため息をついて美里の両肩を掴んで引き離した。

「俺は落ち着けと言ったんだが」

「だから、落ち着こうとしてたんだけど」

　悪びれも無く言われた通りにしただけだという美里に蓮夜はもう一度大きなため息をついて机の上に置かれた飲みかけのココアが入ったコップを指さした。

「もういい、ココア飲んでさっさと風呂に入って来い」

「はーい」

　説教したばかりのため異常に積極的なのもあるだろが、多少遠慮気味の方が可愛げがあるかもと思いながら蓮夜は大きくなため息をついた。