人狼たちの戦場(5)

 サムエルは首都ディルギアの西500km足らずの地点にジーレスとアームドスキン部隊を降下させた。いきなり首都直撃は星間G平和維P持軍Fの理念上不可能。


 降下地点からディルギアの直線上に都市は少ない。そのために西を選んでいた。首都防衛戦力を引きずりだして叩くか、籠城するようなら半包囲するくらいの心持ち。市街地戦をやるなら市民が避難したあと。


(と考えていたんですが、そうは上手くいきませんか)


『交戦状態のようです』

「おや?」


 迂回したハテルカヌ市近郊で複数のアームドスキンを探知したときは敵襲と思ったが、どうやらそうではないらしい。まだ部隊は動かさず情報収集を図る。


「両者ともアゼルナ軍のようです」

「正確にいうと、片方がスレイオス配下の一応は国軍で、もう片方が抵抗する支族軍なのでしょう」

「見分けがつきませんね」

 タデーラは困り眉。


 ベッドから解放されたばかりの彼女にサムエルは休養を命じたが、頑強に同行を志願してきた。彼の補佐がいないという理由で。

 コーネフ副司令は当然艦隊に残る。防衛にアームドスキン六百も残しているのでその指揮もある。必然的にサムエルの負荷が増すので休んでなどいられないと主張された。


「偵察隊を編成します」

「副司令にお願いしますので貴女はデータ収集を」


 アームドスキン隊の運用は変則的になる。戦力は三千機。全機分の通信士ナビオペを同行させるのは無理だ。

 一部主要部隊のナビオペだけを八機のジーレスに分乗させ、大半は艦隊から誘導をさせる。収集された情報とサムエルの指示が超空間フレニオン通信で艦隊に送られて表示される。それに従ってのナビオペの誘導がジーレスを介して担当部隊に送られるのである。なので、部分的にウィーブのサポートも受けられる。


「システム、望遠をメインパネルに」

『望遠映像です。識別信号シグナルの解析がすみましたので着色して投影します』

 戦闘中のアゼルナ機が赤と黄色に薄く染められる。

「これで敵味方を認識しているわけですね。部隊のリンクに反映させられそうです」

「でも、どっちがどっちなのでしょう?」

「見てください。赤いほうにはアストロウォーカーが混じっています。地付きの支族軍なのでしょう。システム、色を反転してください」


 赤と黄色が逆になった。これで国軍側が敵性として認識しやすい赤になる。識別はしやすいだろう。


(介入して意味があるかどうかですけれど、見て見ぬふりは後味が悪いですし)


 サムエルは主敵を国軍に設定して攻撃指示を出した。


   ◇      ◇      ◇


「いいね? 一応は赤が敵性機。黄色は除外だけど攻撃してくる可能性も大だから警戒したままよ」

 メイリーは編隊機へと指示出しする。

「やれやれ、面倒くさい。分けないとダメな奴かなー?」

「ダメに決まってるでしょ、エンリコ。一応は停戦協定が発効してんの。無視してるスレイオス配下の国軍以外は正当防衛を除いて攻撃不可」

「攻撃してくる相手は戦闘不能にするつもりでいい。どうせ市街地戦に近い」

 ブレアリウスは割り切っている。


 都市の内外で戦闘が行われている。対消滅炉エンジンを爆発させるような攻撃は避けなくてはならない。


「地味にしんどい」

「文句言わない。赤だけで三百もいないんだし一瞬でしょ?」

 ユーリンの主張は正しい。

「やる気ないなら好きにすれば? 夜間停泊中は覗きにいこうかと思ったけどジーレスのシートで休むから」

「うぎゃ。頑張ってるぼくちんを応援しに来てよー」

「心がけ次第ね」


(誘導ってより操作されてる)

 メイリーは苦笑する。

(主導権握った女は強いわね。まあ、こいつの場合、わざとそうさせてんでしょうけど。彼女を気分よくさせておくテクニックなのよね)


 付き合いの長い戦友の性質は把握している。彼は控えめで口数少なく、尽くしてくれるような女性は好まない。対等にぽんぽん物を言ってくるタイプを好んで口説く。


「真面目にやるからご褒美ちょうだい」

「考えとく。たぶん考えてる間にレギ・ソードが終わらせちゃうでしょうけど」

 完全にあおられている。

「いやいやいやいや、ブレ君、僕の分も残しといてよ」

「知らん」

「そんな殺生な」


 足下に市民がいるとなれば構っていられない。彼女のよく知る人狼は全力で排除に動くだろう。戦闘に巻き込まれただけの市民に被害が出るのを極端に嫌う。


(命懸けで仕掛けてくる相手には容赦しないけど、そのつもりもない人間が死に直面するのは嫌なのね)

 わけも分からず殺されそうになる相手に自分を重ねて我慢ならないのだろう。


 絡み合って市街へと落下しそうな二機のうち国軍機をレギ・ソードが横から蹴りだす。追いかけるように加速するとブレードを胸の真ん中に突きたてた。パイロットはどうか分からないが制御部は破壊している。


「こらこら」


 もう一機の支族軍機が反射的に照準してくる。メイリーはビームランチャーを振って「撃つな」と合図する。相手は理解したようで、反転して次の標的を求めて飛び去った。


(まあ、速攻で勝負ついちゃうわよね)


 エンリコが頭を撃ち抜いたボルゲンのスラスターを斬り裂いて蹴りとばしたころには戦闘は急速に収まっていく。都市のあちこちから煙が上がって結構被害が出ていそうだ。


(あとは司令官がどう料理するか、かな)


 メイリーは警戒しつつ状況をユーリンへと報告した。

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