反骨の行方(10)

「和睦の使者を攻撃するなんて絶対に許せないこと!」

 デードリッテは興奮に頬を紅潮させ、高らかに訴えている。


(人の精神活動は感情による部分が大きいけれど、感情が高まったときこそ能力を最大限に発揮するタイプの人間が一定数存在しますのよね)

 シシルはそれを強く感じる。


 実際にこの理系少女の手元はすさまじい速度で活動をはじめた。彼女が与えた情報を分析してレギュームを攻略しようとしている。


『サポートいたしますわ』

「お願い。助けて」

 素直に応じる。


 変なプライドに捉われず目標に向けて一直線に突き進む姿。非常に好ましく感じられてサポートするのも心地よく思う。


「ほんとだ。たしかにオポンジオとレギュームを結ぶ延長線上にケーブルワイヤーを置かないよう制御されてる」

 シシルのレクチャーをすぐに飲みこんでいる。

「この制御は?」

『機動制御ソフトウェアが走っておりますわ。パイロットにそこまで依存はできませんもの』

「じゃ、あの白い狼の意図した場所に演算結果を反映させて機動してるんだね。ランダム? パターン?」

 推測を深めている。

『即応性を重視してパターンですけど、移動先をパイロットが指定する以上、経路の予測はできないのでパターンも判明いたしません』

「だよね。簡単にパターンを予測できるんじゃ使いものにならないもん。それなら艦載規模のシステムでも対処パターンが作れちゃう」

『ええ、その通りですわ』


(兵器設計思想まで瞬時に理解できるのですわね)

 デードリッテがその『銀河の至宝』という二つ名をほしいままにしているのも当然と思える。


「たしかに移動先が分からなければケーブル位置も予測不可能」

 それゆえに有用な兵器として保持していた。

「でも、パイロットは別。使い方に必ず癖が出る」

『パイロットの癖?』

「見てて。必ず傾向が見えてくるから」


 戦闘データからレギュームの移動先を抽出。レギ・ソードとオポンジオの相対位置とレギュームの機動先を数値化していく。数点の演算で傾向が見えてきた。


(なんて閃き。あの小さな頭蓋骨の中に収められている脳髄はどれだけの可能性を秘めているのかしら)

 新たな驚きを覚える。


『わたくしが演算を続けますわ。あなたは対策を』

「うん、任せて」


 変数の統計に傾向となる山が表れてくる。それがパイロットの癖というものだとシシルにも理解できた。


「できた。追従型バーストショットパターン」

 デードリッテが手を止める。

『機動パターン値をはめこみます。これで完成』

「トリプルランチャーに反映して」


 意識をコクピット内のアバターに切り替える。それと同時に完成した新パターンをダウンロードしてセット。


『ブレアリウス、デードリッテと作った追従照準をパターン9にセットしましたの。今からレギュームをターゲッティングして射撃してみなさい』

「ディディーが? 分かった」


 レギ・ソードがレギュームを照準してビームを放つ。ところがすぐには反応はない。あくまでパターンであって、その辺りにケーブルがあるはずという予想に過ぎないのだ。しかし、四射目にして手応えを得る。


「なにをした!?」

「切れたな、ケーブル」


 停止したレギュームに接近した狼はブレードで斬り裂く。ビームチャンバーが誘爆して爆散した。


「もう一基」

「くっ」


 理系少女の呼び掛けを受けて意識を切り替える。まだ分析を進めていたようだ。


「移動先だけじゃなくって位置取りの癖も見えてきたの。自動照準パターンを作ったから持ってって」

『自動照準。そこまでですの?』


(本当に底知れない)


 レギ・ソードに戻って自動照準をダウンロード。すぐには反映させない。


『デードリッテが自動照準を編みだしたのでパターン10に入れましたの。セットすると左腕が意思に反して駆動しますわ。リスクもありますが使うつもりがあるかしら?』

「パターン10をセット」

 一瞬の躊躇いもなかった。信頼の証だ。


 オポンジオとの位置を目まぐるしく変えながらレギ・ソードも機動している。その中で左腕はブレアリウスのフィットバー操作とは関係なくランチャーを背後へと向けた。発射されたバーストショットはもう一基のレギュームを捉えて貫く。


「なに!」

「これで片手のお前に勝ち目はない。シシルを渡せ。それでこの場は収める」

「勝手を言うな!」

 跳ねるような機動で突進を仕掛けてくる。

「やめろ、ベハルタム。それは渡せない。そのまま降下しろ」

「スレイオス、しかし!」

「命令だ。増援が上がってきたから代われ」

「ぐ」


 牽制の連射を入れてオポンジオがアゼルナに向かう。入れ替わるように三百機以上のアームドスキンが大気圏を抜けて上昇してきた。


「逃げるな!」

「決着は持ち越しだ。戦艦オルクコの制圧も済んだ。後退する」

「スレイオス・スルド、貴様かぁー! 貴様がアゼルナンの未来を阻む者なんだなー!」


(そう。フェルドナンが不安視していたのは彼のことだったのね)


 増援部隊との戦闘が激化する前に撤退命令が出る。レギ・ソードも相当消耗していて戦闘継続には厳しい状況だった。


『諦めなさい、ブレアリウス』

「シシル、すまない。あなたの身体を取りもどせなかった」


 悔いる彼をシシルは慰めながら帰投を促した。

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