反骨の行方(6)

『惑星アゼルナより複数のアームドスキンの接近を探知。総数五十機を確認しました』

 システムナビの報告にウィーブ・コーネフは眉を顰める。

「アゼルナ軍機だな。電波状態は?」

『良好です』

「通信を試みよ」


 戦闘状態ではないのでターナミストは放出していない。残留分子量からして、或る程度の距離であれば交信が可能なはず。


『回線を開きます』

 コンタクトに応じるならば敵性意志はないと思える。

「現在、仮停戦中である。接近の理由を明確にされよ」

「緊急時につき、攻撃は控えられたし」

「何事か説明を請う」

「停戦に関わる情報がどこからかもれた模様。一部支族が騒動を起こしている。議長よりの公式説明があるまで警護の必要が生じたもの。よろしいか?」


 真っ当な理由とも思える。積極的に迎撃の必要を感じるほどの危険性を覚えない。


「護衛部隊には部隊の接近を告げるともに迎撃不要と命じろ」

「了解」

 通信士ナビオペたちの応答が響く。

「閣下よりは内部的には正式合意の連絡があったばかりだが。ナビ、一応連絡を」

『回線が遮断されております』

「まだなにか密議の最中か。定期連絡の機会を待つしかあるまい。……そうだな。首都ディルギアの様子を調べろ。鎮圧が必要になるような事態か?」


 システムの応答を確認したあとは待つしかないとウィーブは考えた。


   ◇      ◇      ◇


「やれやれ、迎撃不要だってさ。気色わるいけど」

 エンリコがユーリンからの指示に不平をもらす。

「コーネフ副司令がそう判断したんだから従いなさい」

「顔、怖いしねー」

「それは関係ない」

「うわ、ブレ君につっこまれた!」


 大仰に驚く優男をよそに、ブレアリウスはシシルに映像解析を頼んでいた。その結果が球形モニターに表示される。


「警戒を頼む。先頭にオポンジオがいる」

 灰色の頑強なアームドスキンが確認できた。

「っと、そいつは物騒だね。エンリコ、締めときなさい」

「りょーかい。こっちでも見えた。ん? やっこさん、なにか担いでない?」

「背中になにか。ブースターか?」

 正面からだとはっきり見えない。

『ブレアリウス、接近を阻止しなさい』

「どうしてだ、シシル?」

『あれは危険なものです』

 即座に反応する。

「メイリー、俺は行く」

「ちょおっ! 待って! 確認するから!」

「命令違反はヤバいって、ブレ君!」


 レギ・ソードを加速させる。しかし、距離を鑑みれば遅きに失した感はある。狼は焦りを感じていた。


(皆の優しさに甘えていたな。ヒゲを眠らせてしまった)

 危険を報せてくれなかった。


「策略なんですって! 迎撃しますよ、副司令!」

「マズいマズい! ブレ君に追いつけなくなるよ、リーダー!」


 二人は攻撃許可を試みているようだが、それでは到底間に合わない。彼が急速接近すると部隊が武装する。


(やはりか)

 ブレアリウスもトリプルランチャーを構えた。


「武装を放棄せよ。さもなくば攻撃する」

 一応は警告を与える。

「繰り返す。武装を……!」


 一斉に発砲してきた。予想していたので力場盾リフレクタで直撃だけを防ぐ。一瞬にして包囲されてしまう。


(ベハルタム!)


 背筋に氷を押しつけられたような殺気だけを残してオポンジオは抜けていく。その背部には全長15mの巨大な鋭い円錐がラッチされていた。


(あれは?)


 その錐にブレアリウスは嫌な予感を覚える。


   ◇      ◇      ◇


 テネルメアの先導で、機甲隊員に左右を固めさせたサムエルとタデーラは通路を行く。間に隊員を置かないのは、停戦成立で軟化した態度を明示した形。


「この先ですか」

 皆でシシル本体を確認しにいくところ。

「そうじゃ。搬出には艦底のハッチを使用してもらわんといかんの」

「では、確認がすんだらジーレスをこちらに着けさせてもらいますね」

「うむ、それがよかろう」


 老狼は宇宙服アストロジャケットも着けていない。なので合わせてサムエルたちもヘルメットを装着していないまま。


「彼女は空気エアを必要とするのですか?」

「技術者がいうには、バイオチップの維持に必要な酸素はケーシング内に一定量確保しているらしいの。二週間程度はそれで維持できると言うておったわ。じゃからアームドスキンでの移送も可能じゃぞ?」

 誠意が譲歩を導きだすという外交の基本が押さえられている。

「もしかしたらレギ・ソードに任せたほうがいいかもしれませんね?」

「訊いてみますか? エントラルデン、ブレアリウス操機長との回線を。エントラルデン? ……司令、回線が遮断されている模様です」

「遮断? 議長殿、もしや?」


 緊迫した空気に機甲隊員が割って入ろうとするのを彼は制した。最低限の礼は残しておかねばならない。


「そんなことは命じておらん」

「ですが」

「待っておれ。艦橋ブリッジ、GPF艦との接続を……」


 その瞬間に衝撃が走った。重力設定が低めの底部で身体が浮きかける。エアロック構造の隔壁操作パネルで『空気無し』の表示が出た。


「何事じゃ!」

 テネルメアは護衛に尋ねる。

「分かりません。ブリッジとも連絡が……」

「はっ! 隔壁、開きます!」

「なんじゃと!?」


 空気が急激に抜けはじめる。サムエルたちは慌ててヘルメットを装着するが、老狼は護衛に支えてもらいながら壁面にしがみ付くのがやっと。


「どうして? 開くはずないのに」

「強制的に開けたのでしょう」


 それをやった人物が開く隔壁の向こうに見えた。

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