青き狼(13)

 ていよく星間G平和維P持軍F派遣艦隊に自席を確保したデードリッテは旗艦エントラルデンの艦橋ブリッジにいる。ブレアリウスを含む傭兵協会ソルジャーズ・ユニオンの三機編隊もマーガレットの要請で配置替えとなっていた。


(「ハルゼト軍近くに配置されにくくなるから、後ろから撃たれなくてすむ」ってエンリコさんが言ってたし、ちょうどよかった)

 意図せず狼の安全も確保できた。


 彼女の使うブース席は戦術参謀用の予備席。観測データが集約されるようになっている。かなりの自由度が与えられる仕様だった。


「タッチダウン反応! アゼルナ軍、出現します」

 フィールドドライブから復帰するときの時空震が重力場として検出される。

「総数百か。監視部隊からの報告通りだね。エントラルデンは防御フィールド内にターナミストを充填したまま移動。回りこんで出撃を開始する」

「正面をハルゼト軍艦隊六十に任せて移動する。進路二時の方向」

「二時了解!」

 操舵士ステアラーの復唱で旗艦を始めとしたGPF艦隊八十が動きはじめる。


 やはり主導は戦隊長が務めるようだ。事前の作戦などには司令官や参謀、各艦長も関与できるものの、機動兵器を放出後の艦隊は主戦力足りえない。

 新兵器と呼んでいいほどの効果を及ぼすターナミストが散布されると電波レーダーは無効化されてしまう。防御フィールドやリフレクタを押したてた砲撃戦は光学視認距離の間合いまで狭められた。


(こうして戦場が変わっていくんだ)

 デードリッテは今、端境期に立っていると自覚する。

(そしてこれからの主役はアームドスキンになっていく。シュトロンが最も活躍できる戦場に)

 彼女が設計に参加したマシンはそういうスペックを持っている。


 戦況を示すモニターパネル内で、アゼルナ軍はハルゼト軍へと舵を切っている。そこに表示されているGPF艦隊の姿がレーダーに映っていない所為だ。


「よし、全機出撃!」


 発艦して防御フィールド内に留まっていたアームドスキン及びアストロウォーカーが一斉に飛びだしていった。その中にはシュトロン127、ブレアリウスの機体も混じっている。


(頑張って!)


 デードリッテは青き瞳の優しい狼の健闘を祈った。


   ◇      ◇      ◇


(このターナミストってやつは諸刃の剣だ)

 ロレフは思う。


 電波レーダーの監視から逃れられるのは大きなリードになる。現実にアゼルナ軍はGPF艦隊を察知できず、急に現れたかに見える彼らの部隊に動揺し戦列を乱す。


(その代わり、こちらも電波信号による相互リンクに限界距離が生じてる。以前みたいに戦隊長が全体の指揮を執るのが難しくなった)


 指揮系統の維持に関して誰も代替案を示せないまま現在に至っている。現状、個々のパイロットが僚機の配置にも目を配りつつ展開。

 必要な変更があれば伝令機が飛ぶ。戦隊長の指令を信号化した電波を発しながら戦列を横断するのだ。


(無線もなかった太古の昔の歩兵戦術じゃあるまいに)

 古典的な手法に頼っている。

(ゴート宙区の人類ってのはこんなもん使ってどうやってたっての?)

 首をひねりたくなる。


 時代を巻き戻したかのような戦法。剣を振りまわして激突もできる機体。時の流れに唾を吐きかけるような現実に自分までもが巻きこまれようとしている。全くもってスマートではない。


(どうにも一歩引いて考えてしまうね)


 ロレフは意識せず撃ち合いに応じている。一度浮き足だって崩れかけた敵の戦列を立て直す隙を与えないように。あまり上手くいってない。


 すると視界の隅から一機が突出していく。脇を固めるように二機のアストロウォーカーも援護についていた。


(シュトロン127!)

 あの狼だ。


「あれが正解なんだよ」

「マーガレット戦隊長」

 気付けば指揮官が意外と近くまで出てきている。

「お上品にやってたらその機体が泣くさ」

「でも泥臭いのちょっと」

「時代に取り残されたくなければついていってみな」

 尻を蹴られれば行くしかない。


 ロレフは「了解」と返してアームドスキンのスラスターを噴かした。


   ◇      ◇      ◇


 デードリッテが言っていたのは本当だった。アームドスキンは非常に鋭敏に機体状態をブレアリウスに伝えてくる。見なくてもメイリーとエンリコがついてきてくれているのが分かった。

 逆に意識しすぎると、パイロットシートをくるむように作られた球体モニターの左右の膝下あたりにバックウインドウが滑ってきてしまう。加減が難しい。


「心配せず好きに行っていいよ。いつも通り、あんたのワントップフォーメーションだからね」

「だよだよぉ。早くおこぼれちょうだいってもんさ」

「頼む」


 短く答える。普段と同じ呼吸。ただし今回は機体が違う。意識しなければ僚機を危機に陥れるかもしれない。


(それじゃここにいる意味なんてない)

 彼を動かす理由を捨ててはいけない。


 いきなり距離を詰めてくるブレアリウスのシュトロンに砲火が集中する。力場盾リフレクタを掲げてそのまま前進した。

 半透過の黄色い力場の向こうには敵機の姿。普通ならすれ違いざまの砲撃の応酬を演じるところ。しかし彼は交錯すると同時に機体を真横に向ける。敵の砲口の奥に光を認めながら側転し斜め上へ。

 バズーカ型の大口径砲を横に振った敵機は予想位置にビームを放つが軌道は変わっている。頭部だけが彼を追うも、その時にはブレードを振りおろしていた。


(こいつは本当に感覚的に動いてくれる)


 斜めに分断した相手が変化した爆炎に沿うように進路をずらすと、別の一機が回りこんでくる。リフレクタを外しざまに一撃を放ってきた。

 普通なら回避機動をとるビームをリフレクタを斜めにして弾きそらす。その体勢のまま肘を胸の中央に叩き込んだ。崩れた敵をメイリーのビームが貫く。


(いける)


 ブレアリウスの意表を突いた戦い方に敵部隊は戦慄していた。

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