青き狼(12)
「乗れてますね」
ロレフの言に、マーガレットは自分の口元が緩んでいるのに気付いた。
「お前ほどではないだろう?」
「さあ。ですが僕の周りでも初めて乗って真っ直ぐ飛ばせられた奴は半分以下ですよ。事前に配布された
「アゼルナンならあれくらいの芸当はできると思うべきか?」
身体能力の違いが表出しているのではないかと問う。
問題になったのはそれだ。
彼ら
それもすぐに引っくりかえされた。反射神経と動体視力に優れたアゼルナン操るアストロウォーカーはGPFのパイロットを圧倒する性能を発揮する。
ハルゼトが包囲される寸前までのところで持ち返せたのは、新たに導入したターナ
戦列を考えなおす必要性に駆られたマーガレットは同じ能力を有するアゼルナンを
さらに段階は進んで新機軸人型機動兵器アームドスキンで反撃する段取りが組みあげられつつある。そこへ優秀なパイロットを発見したとあれば、顔がほころんだところで誰も責められまい。
「彼に離反の危険性は?」
副官ザリが耳打ちしてくる。
「無いね。見事な先祖返りだ。あれに帰るとこなんてないよ」
「可哀想だけど事実でしょうね」
ロレフも賛同する。
ザリの懸念は当然。せっかくの新型を持ち逃げされて分析されたのでは堪ったものではない。シュトロンのパイロットには鹵獲されるくらいなら撃破されろと言いたい。が、口が裂けても言えないので機体の重要性を説いて聞かせるしかないのだ。
「じゃ、テストしてみますか」
「やれ」
もう一基のシミュレータに向かうロレフの背を押した。
◇ ◇ ◇
(ターゲット以外の反応?)
警告音声とともに
何かしたのかとデードリッテのほうを見るが彼女も瞠目している。想定外の事態らしい。
(だとすればあいつか)
戦隊長の連れていた若いパイロットの顔が浮かぶ。
(試されているな。おそらくエース級)
そのつもりで対さねばならない。
「誰です? ここは独立系のはず!」
「僕ですよ。ロレフです」
やはりあの男だ。
「どうせやるなら本格的に行きましょう、ホールデン博士。そのほうが貴女も納得できる結果が得られるでしょう?」
「無茶言わないで。ブルーがσ・ルーンを着けたのは昨日です。敵うわけありません」
「別にいじめるんじゃないですよ。どれくらい乗れるのか確かめたいだけですから」
腕にすがった娘がふるふると首を振る。ここで簡単に撃破されて彼が自信を失うのを怖れているのだろう。
ブレアリウスはひとつ頷いて前を向く。負けたところで気にはならない。ここで逃げだして自分を買ってくれた彼女に恥をかかせたくないだけ。
「本気で行かせてもらう」
「もちろんさぁ」
照星は並走している。狙いの正確なビームが空間を切り裂いてきた。強く意識することとペダル操作を連動させるのを心掛ければ躱すのは難しくない。
(この機体の意味を解っていない?)
さもありなん、ロレフはデードリッテのレクチャーを直接受けたことはないのだろう。
(やりようはあるというもの)
相手がアストロウォーカーを忘れられないならこちらは捨てていく。
応射もそこそこに機体をまわす。接近すると
(さすがに危険性は察知するか)
彼の斬撃は虚空を裂いてロレフ機は離れていく。再びの狙撃をひねって躱した。
次の斬撃は
(こんなものか?)
しかし彼は怖ろしさを感じない。
(振り方がなってない)
ブンブンと振り回しているだけで斬撃に意味が感じられない。
ブレアリウスは幼少時をずっと隠れ住んでいなくてはならなかった。幸い、家には多くの模造剣や真剣が所蔵されており、一人で稽古する時間にも事足りている。書物を参考に剣の基本を習得していた。
「遅い!」
「だあっ!」
刃を絡ませて外に弾く。がら空きになった胴体に切っ先を滑り込ませると悲鳴をあげて大げさに躱す。追撃の手は砲口で封じられた。テンポの良い精密射撃に後退を余儀なくされる。
「了解了解。ここまでにしよう」
「分かった」
ランチャーを頭上に向けてクルクルとまわすロレフ機に、
「どういうことですか!」
彼女はマーガレットに食って掛かっている。
「ごめんごめん、ディディー。ちょっとした遊び心さ」
「冗談で済まされません! メグまでアゼルナンを下に見て潰そうとしてるのですか?」
「そんなんじゃないから。お詫びに何でも言うこと聞くよ」
言質をとると、シュトロンを一機彼に任せる約束と派遣艦隊に彼女を同乗させる約束を取りつけている。
「ふふ、さすが『アーフ』の名を持つだけのことはあるか」
デードリッテの見幕から逃げだしたマーガレットが肩をポンと叩いてくる。
それにブレアリウスは無言で応じた。
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