五香の手帳:獄死蝶の理想について

 ・獄死蝶

 世界的に有名なテロ組織の一つ。活動場所は主に始点世界の北半球が中心。経済の発展した国を主なターゲットとし、小さい物なら一桁単位の殺人、大きい物なら国潰しと手広く行う別名『世界の癌』。


 中心幹部と呼ばれる重要人物が四人おり、それを中心として世界中に組織員やシンパがいる。


 ところでテロリズムの元の意味は恐怖政治であり、要は暴力で政府規模の何かに自分の要求を通すことを言う。


 獄死蝶の要求は主に『武力の拡充』に終始する。では武力を拡充させて最終的に何をする気なのかと言えば、これは断片的にシンパや構成員から語られていた。


 曰く『犯罪者の楽園の建造』。

 自分のことしか考えられない社会的な欠陥品が幸せになれる場所。いくら悪さをしても裁かれない悪の箱庭。曖昧な正しさや美徳を信じ切っている者が地獄を見る因果応報の逆転。


 おおよそのところはこんなところで、その他のことは一貫していなかったり支離滅裂だったりと判然としなかった。


 だが三丁目においては違うようで、涼風さんが色々と教えてくれた。この町では情報の売り買いが最大の産業なので、無料で耳に流れて来るおこぼれがいくらかあるらしい。


 基本的に中心幹部より下の構成員は雇われているだけ、脅されて従っているだけ、義理があるから付いて行っているだけの手駒であり、真に獄死蝶と言える者は中心幹部の四人だけらしい。


 この犯罪者の楽園というワードが指すものがただ単に『四人のための世界』であることは三丁目内では公然の秘密らしく、それぞれの理想もいくつかは判明している。


 さっき私たちを襲ったマリーシャの理想は『大統領の娘だろうが総理大臣の娘だろうが構わず犯せる桃源郷』。今私たちが追っているコクリカの理想は『実験動物として人間を乱獲しても一切罪に問われない科学天国』だとか。


 ……かなりバカげているが本当に目指しているらしい。これを語る涼風さんはかなり疲れた顔をしていた。これを聞かされて三白眼になるヤツを何人も見て来たのだろう。


 もしもこの地球上に(仮に一瞬だろうが時間の長短は関係なく)そんな場所を作る気ならば、必要になる武力は途方もないものになるだろう。

 例えばだ。そんなものが一体どこの世界にあると言うのだろう。


 いや、なくはない。仮にメルトアでも流石には相手にできないが、そんなもの人間の手に余る。今のところは戯言に過ぎないか。


◆◆◆


(五香自身はこの項目を然程重要視していなかったのか、書き込みが他のページに比べると少ない。別ページに獄死蝶の中心幹部のプロフィールが箇条書きにされているが、今回は割愛とさせていただく)

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