第七節 邪神の胎動 結び
邪神の胎動 結び
一九一八年 一一月 宮森の自室
◇
昨日、多野教授と共に帝居地下から引き
次に帝居地下へと出向くのは明日になる。
宮森の心はあの儀式での恐怖と嫌悪の所為で未だに
又、自分の見識不足と突如として芽生えた霊感の
彼は僅かなりとも落ち着こうと、煙草に火を付け……煙草を切らした事に気付いた。
⦅まだ買い置きの残りが有ったと思ったが……ないんなら仕方ない⦆
彼は仕方なく下宿を出て近所の煙草屋へと向かった。
何時ものように〘ゴールデンハット〙を一カートン購入し、人っ子一人見当たらない帰り道を戻る。
[註*ゴールデンハット=煙草の
「ねえ、お兄さん。
そこのゴールデンハット持ってるメガネのお兄さん」
子供の声で呼ばれた事に気付き、誰もいなかった筈だと思い乍らも宮森は道を振り返った。
そこには五、六歳ぐらいの幼い男児が立っており、じっと彼を見詰めている。
⦅誰もいない筈だと思ったのだが、落とし物でもしたかな⦆
「坊や、自分に何か用かい?」
男児との目線を合わせる為にその場でしゃがみ込むと、宮森は改めて男児の顔を見る。
――⁈
その瞬間、宮森は余りの衝撃に
忘れる事など出来ない。
思い出す迄もない。
⦅この子は、この顔……は、あの、宮司!⦆
「ゴールデンハットのお兄さん、タバコ好きでしょ。
マッチ持ってるからあげる♪」
宮司と同じ顔の男児から
こうして見る限りは普通の子供だ。
他人の
「あ、ありがとう……」
礼を言ったは良いが、対峙した男児から宮森は眼を逸らせない。
そして、
「ちょうげいしはまだ鳴らない。
「ちょ、一寸待ってくれ、坊やはもしかして神殿の
子供とは思えぬ
これまた子供とは思えぬ程の鋭い口調で切り出した。
「それ以上は口にしない方がいい。
部屋へ戻り次第、直ぐに
頼んだよお兄さん、じゃあねー♪」
喋っている間に元の子供らしい雰囲気に逆戻りした男児は、唖然とした表情の宮森の許を走り去って行った。
宮森の雁字搦めにされた心は未だそのままだったが、あの男児が
⦅あの男児、宮司が語った『ちょうげいしはまだ鳴らない』と云う言葉。
舞楽の退出楽曲である
まだ舞楽は終演していない。
それが意味する
あの忌まわしい儀式は、未だ続いていると云う事だ――。
◇
下宿の自室に戻った宮森。
彼は煙草を吸いたかった事すら忘れ、
⦅『部屋へ戻り次第、直ぐに
宮森は暫く
『オイ、何時まで迷ってんだ。
早く開けろ!』
⦅
宮森はびくりと身体を震わせ文机から
『お前がマッチ箱開けねーと、オニイチャンと会話させらんねーだろ!』
頭の中に直接声が響いて来る。
子供っぽい
⦅声から悪意は感じとれないが、このまま
だが、
え~い、
宮森は決心して
彼は悪臭に耐え乍ら、
『んおっ!
やっとこさ開けてくれたか~、やれやれだぜ……』
そこに居たのは、イボトビムシと竈馬を合体させた様な
儀式で視た時と比べると
『よしっ、ちゃっちゃと要件済ますぞ~。
うんしょっと!』
すると、体節上部より勢い良く『びゅるっ』と何かが顔を出す。
顔を出したのは、赤い目をして顎のない……宮司と同じカオだった。
カオが顔を出す様子を間近で視てしまった宮森は……。
「く、臭いッ……き、ぎもぢヴぁ…………!」
文机の上に盛大にぶちまけた――。
◇
邪神の胎動 結び 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます