3-6

「ずいぶんと仲が良かったようですね」

 音羽ちゃんは俺に視線を合わせるように、その場にしゃがみ込む。

「……まぁ、ずっと面倒見てたからな」

 施設にきた当時の境遇を考えれば、仕方がないことだと思う。

 頼れる歳の近い相手が、俺くらいしかいなかっただけだ。

「それであいつ、他にもなにか?」

「主に桜葉さんの様子など、ですかね。この数年、どんな風に生活して、職場ではどんな感じなのかとか」

 根掘り葉掘り訊こうとしてるじゃないか。

 そんなことを知っても、意味なんてないだろうに。

「そのあたりも勿体ぶったら面白そうかなと思いましたが、だいぶピリピリしていたようなので、答えられる範囲で答えておきました」

 あいつがピリピリしていたのなら、その原因は明らかなのだが、音羽ちゃんは涼しい顔をしていた。

 むしろ、楽しんでいた節すらある。

 思っていたよりもこの子、くせ者かもしれない。

「ちなみに、どんな風に答えたんだ?」

「うーん、せっかくなのでそこはご想像にお任せします」

 なにがせっかくなのか、さっぱりわからない。

 さすがは女子高生。理解の及ばない存在だ。

「まぁ、なんだ。今日の行動については擁護しかねるけど、音羽ちゃんに妙なちょっかいは出さないと思うから、安心していいよ」

「えぇ、そういった心配はしていません。桜葉さんが心配していたとお伝えしたら、見ごたえのある表情をしていましたから」

「……そう」

 半ば呆れたような顔で音羽ちゃんを見る。

 なんだか彼女は、俺の反応もあわせて楽しんでいるように思えて仕方がない。

 気のせいであって欲しい。

「初めてお話ししましたけど、面と向かってみると、妙な迫力のある方ですね、上郷先輩って」

「目つきとか?」

「そうですね。でも、攻撃的な感じというより、意志の強さみたいなものを感じました」

 その感じ方は間違っていない。

 自分で自分を肯定する。肯定できる生き方をする。

 それが悠里の根底にある考え方だ。

「あの容姿にあんな意志の塊みたいなものが備わっていたら、周囲から浮いてしまうのも頷けます。あの方と同い年で比較されるのは、ある意味大変でしょうね」

「早熟だったのは確かだよ」

 そうでなければいけなかった、というのが正しいのだろうが。

「一つしか違わないと思えない先輩ではありますね。他の先輩方とは全く違う、大人びた印象を受けました」

 称賛するような口ぶりでありながら、その時のことを思い出すように口元が緩む。

「それなのに、ある特定の事柄に関してだけはどこか幼いようにも感じられて、不思議な人です」

 それがなんなのかは言うまでもないと、音羽ちゃんの視線が物語っていた。

 正直、わかりたくない。

 色々と悩ましい部分はあるが、音羽ちゃんの悠里に対する印象は意外と良さそうだ。

「まぁ、あいつは誤解されやすい部分もあるけど、本当に悪いやつじゃないから。良かったら仲良くしてやってくれると嬉しい」

 一人でも理解者が多い方が、悠里のためになるはずだ。

「えぇ、仲良くなれるような気はしています。でも、いいんですか?」

「問題はないと思うけど」

「私と上郷先輩が親しくなったら、遊びに来ちゃうかもしれませんよ?」

「……それは、悩ましいなぁ」

 もしそうなったらと考えたとき、出てくるものはため息だけだった。

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