第5話 学校の会談

「なあ、こんな話知っとる?」

「……どんな話だよ?」

「えーとな、トイレの花子さん言う女の子がおってなー」

「じゃ、僕帰るから。そろそろ塾の時間だし」

「う、嘘吐けー! キミ塾なんて通ってへんねやないか! なんでこうちょっとウィットに富んだ切り返しが出来へんねや、キミはー……まあ初っ端の軽いジョークはこの辺にしてな、この学校……『出る』らしいやん?」

「トイレなら階段の隣だ、個室に入るのを他の生徒に見られないようにしろ。それじゃあ再びアディオス」

「ちゃーうーやーろー! その切り返し絶妙やけどなんや違うー! エエからとにかく聞いてや聞いてや聞いてやぁあー!」


 誰だ、この単純馬鹿にいかにも興味を引きそうなことを教えた奴は。僕は溜息を吐いて抵抗を止める。

 転校してきてからと言うもの、奴は妙に僕に懐くしかしこうされていると心情的には絡まれているのと同じだ――いや、微妙に違うか。悪意が無いだけに尚更性質が悪い。

 僕が仕方なく本題を待つと、奴は嬉しそうに笑って僕を見た。ぐぐっ、と身体を近づけてくるのを手で制して、視線で早くしろと促す。


「聞いたんやけどな、秋の夕方、体育館のデジタル時計が真っ赤に照らされると、七時六分が六時六十六分って表示されて……そんでもってバスケのゴール下に昔殺された女生徒の姿がぼんやり浮かんで、こっちを向いて――って! なーなー、見たい見たいー!」

「見に行けば。あと一時間ちょい待って」

「一人じゃつまらんやん!」

「あのな、教えてやるけど、それ絶対嘘だから」

「なんでやねん! あ、さてはキミ怖いんやろー、行きたくないからそんな事言ってんやな! 姑息、卑怯、チキンハート! 男の子のくせにカッコ悪ーッ!」

「騙されてるお前の方がよっぽど格好悪い」

「へ?」


 丸められた眼に盛大な溜息を吐いて、僕は鞄を取り立ち上がる。


「七十年前に創立されて以来、この学校ってずっと男子校だから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SS連発 ぜろ @illness24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る