第90話 騎士団長の息子は妖精さんに会う
唐突だが、俺はこないだ制圧した鉱山の近くの深い森まで足を運んでいた。タリオンの情報からもしかしたらと思って来たのだが、どうやらビンゴらしい。かなりの距離を進むと小さな泉が見えたのでそこに近づく。
『あ、人間だよ。お姉様』
『人間だ人間だ。お姉様どうしよう』
そんな囁き声が聞こえてくる。周囲には人気はないのでこれは人間ではないのだろう。では何か。答えは決まってる人間以外の存在。つまり……
「なるほど、やっぱり妖精か」
ファンタジー小説では必ず出てくる空想の存在だが、この世界にもいるらしい。まあ、色々とあるが俺は今日彼女らに会いに来たのだ。
「お前達の長に会いたいのだが……出て来てくれないか?」
『どうしましょうどうしましょう、お姉様』
『人間のはずなのに全く驚かない。どうしましょうお姉様』
「しばらく待とう。早めに頼む」
『その必要はありませんよ』
その言葉と共に泉が光り、そこから幻想的な少女が姿を表す。幼い外見には似つかわしくないほどに大人びた笑みでその少女は言った。
『珍しいお客様ですね。人間の身でここまで来れるとは』
「ちょっと聞きたいことがあったから来たんだが……いいか?」
『ええ、私達に危害を加えないなら構いませんよ』
「ということは、やっぱりお前たちには大した戦闘力はないんだな」
妖精と言えばそれなりに力を持ってそうなイメージだろうが、こうして人目を避けているのならきっとそれなりに訳があるだろうと思っていたので正解のようだ。
『我々はあなた方より長生きなだけの非力な存在。こうして加護を受けなければ生きてはいけませんので』
「加護というのは誰からだ?」
『あなた方が神と崇める存在。そしてあなた方が魔法と呼ぶ現象の原因の一部です』
「なるほどな」
やっぱりそうかと自己完結する。色々と調べたのだ。ドラゴンなどがいるからもしかしてと思って調べると古い書物で妖精のことを書いたものがあったのでもしやと思ってきたのだが、ビンゴだったみたいだ。
「なあ、ちなみにお前は何年生きてるんだ?」
『私はかれこれ400年ほどでしょうか』
「そのうちで、ここに人間が訪れた回数は?」
『あなた以外では一人だけですね』
まあ、人間が来るにはあまりにも遠すぎて難易度が高すぎるからだろうな。野生の動物はもとより見たこともない生き物も少なくないからだろう。だが、本題はこれではない。俺は大事なことを聞くことにした。
「この泉の水には特別な力がある。違うか?」
『……驚きました。ええ、その通り。この泉の水を1滴でも飲めば不老不死を手に入れられます』
「そして、俺の前にここに来た人間がそれを飲んだ。違うか?」
『ええ、そうですよ』
やはりか……『プロメテウス』のことを調べると昔はこちらにいた記録もあったのであるいはと思ったが、どうやらプロメテウスはどうにかここにたどり着いてから泉の水で不老不死を手に入れたようだ。魔法をいくつも使えるなんて普通に考えて常軌を逸してるのでそういう可能性を考えたが当たっていたようだ。
『あなたもこの泉の水を欲して来たのですか?』
「不老不死には興味はない。ここには確認に来ただけだ」
『確認ですか?』
「ああ、少しな」
『プロメテウス』をいつか倒すために情報を集めに来たのと、妖精という存在の危険性を確認しに来たが、必要なかったようだ。
「確認だが、本当にお前たちに害意はないんだな」
『人間と関わることを避けてるのです。私達のいるこの泉は人間からしたらどうやら凄く貴重な物のようですしね』
「貴重と言えば貴重かな」
妖精の言葉を鵜呑みにするのはどうかと思われそうだが、魔法を使っても全く反応がないのでおそらく本気なのだろう。それにこうして直に会ってわかったが、彼女達には全く心がなさそうだった。笑顔ではあるがどこか無機質なのだ。それにしてどうしたものか。
『あなたは本当にこの泉の水を欲して来たわけではないのですか?』
「だから、不老不死なんて興味ないよ。俺は普通に好きな人とゆっくり老いて同じ墓に眠りたいの」
アリスと共に死ぬためにはこんなわけわからない水を飲むわけにはいかない。アリスのいない孤独な時間なんて考えたくないからだ。
『そうですか、あなたは不思議ですね。人間とは死を何よりも拒む生き物と認識してましたが』
「死ぬのは怖くはないさ。俺が怖いのは大事な人と離れることだ。だからそのために生きて好きな人と最後は一緒にこの世を離れたいんだよ」
アリスのために生きて、アリスのために死にたい。だから俺はやることはハッキリしているのだ。この泉の水で不老不死になっても意味はない。アリスにも飲ませて永遠に二人で生きるのも悪くはないが、どうせならしわくちゃになって二人で墓に入る方がいい。凄く大雑把な言い方になるけど、人間として二人で生きていきたいんだ。化け物みたいな力があってもアリスと共に生きていきたい。だから頑張る。それだけだ。俺の言葉に妖精は少しだけ首を傾げていたが、まあ、わからなくてもいいさ。好きな人にわかって貰えればね。
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