第83話 騎士団長の息子はチートが増える
「しかし、まさか君が『プレデター』を倒すとはね」
用意していた騎士団に女の死体を渡すとどこからか嗅ぎ付けてきたリンスがそんなことを言いながらやってきた。
「殿下が夜遊びとは感心しないな」
「君に言われたくないよ。最近忙しそうにしてたからもしかしたらとは思ってたけどね」
「そうか」
何度か手を開いて閉じてを繰り返してから確信する。あの女の意識は完全に消えた。そして同時に俺はとんでもなく面倒なものを受け取ったことに。
「なあ、リンス」
「なんだい?」
「仮に俺が複数の魔法を使えるようになったらどう思う?」
「いよいよもって人類は終わりかな」
「そうか、なら今日が命日になるな」
ボッ!と炎を手のひらから出すとリンスはそれをしばらく唖然として見てから聞いた。
「……何があったの?」
「『プレデター』に身体を奪われそうになった。それを撃退したら、そしたら消えたあいつの意識と同時に入ってきた魔法を奪う魔法と、奪った魔法の全てが俺のものになった」
信じられないことだが、あの女の意識が消えてあの女が持っていた力は全て俺のものになってしまった。全ての魔法を把握できるしコントロールも出来そうだ。しかし全部で500を越えているとは想定外もいいところだ。細々とした魔法から大きなものまでかなり揃っているが、しかし即死魔法まであったのには驚いた。
これで俺を殺せたんじゃ……いや、無理か。魔法の発動と同時に『ゼロ』を発動させていただろうから無理か。しかし色々な魔法があるが、これを一人の人間が管理していたなら驚異だな。
こんなのいくつ体があっても足りないよ。どう考えても心を狂わせそうなのにあの女はこれを平然と使っていたのか。やはり早めに処理しておいて正解だったかもしれないな。
「ねえ、エクス大丈夫なの?」
「ん?なにがだ?」
「一度にそんなに力を得たことだよ。『プレデター』の被害者は相当な数いる。他国でもかなり問題視されていたんだ。それほどの魔法を一人で受け入れられるの?」
「ああ、問題ない」
少しだけ大変だったが、無意識に発動とかはしないだろう。それよりも問題なのはこれだけの魔法を持った人間とアリスとの間に産まれる子供についてだ。魔法は遺伝するものでもあるし、もしかしたら俺のこの全てが子供に行くかもしれない。それは避けねばならないが、まあ、いざとなったらなんとかなるにはなるか。
「それならいいけど……それにしてもまさかあの『プレデター』を倒すとはね」
「魔法を使える相手なら負けないさ」
「その自信が凄いよね」
実際『ゼロ』という剣がただ無効化するだけならそこまででもなかっただろう。この剣は魔法により起こった現象ごと無かったことにするようなので、魔法という力なら確実に消せるのだ。
しかし身体を乗っ取る魔法なんて一体どこから仕入れてきたのか……色々と謎は多い。
あの女が最後にこれを使ったのは俺の身体的なスペックが欲しかったからなのだろうが、奇しくもその全ての力が俺のものになってしまったのだ。というか、俺はこんな面倒なものを押し付けてきたあいつに凄く迷惑している。ただでさえ人外と言われていたのにさらに人から遠くなってしまったのだ。
「リンス。分かっているとは思うけどアリスには今夜のことは秘密だ」
「わかってるって。エクスが人から遠くなってしまったことを伝えてもね」
「婚約者の王女様にも言うなよ?」
「こんな不思議なことを話すわけないでしょ。そもそも他人に肉体を乗っ取られるって発想がないからね」
まあ、それもそうか。普通に考えてそんなおかしな話を信じるわけないか。魔法という理不尽も体質で片付く世の中なら尚更だ。だからこそ俺は新しく得た力を使わないようにしないといけない。これ以上力を見せるといよいよもって排除されかねないからな。別に他人から敵視されるだけなら構わない。俺だけの問題ならいいが、アリスが余計なことに巻き込まれるのだけは我慢できない。だからこそなるべく穏和に過ごしたいが……まあ、それは頑張ってみるしかないか。あの女のインパクトと残していったものは大きすぎるが、俺にはアリスだけなので結局変わらない。
可愛いアリスをしっかりと守る。あの女と戦って自分の愛が間違っていないことを知ってホッとしている。そうだ、俺はこれでいい。こうしてアリスを想っているだけで力が出てくるのだ。だからこそ俺はアリスのためだけに力を使う。これからもずっとアリスを守ってみせる。揺るがぬ意識がしっかりとある。
「ま、これでひとまず結婚式に集中できるかな?」
「そうだな。色々あるが、卒業と結婚式を目指さないとな」
「エクスが言うと違和感あるね。もはや並みの騎士以上の力と成果を上げているのに」
「うるさい。わかってるよ」
そうして俺はあの女との戦いから何も変わることなく日常へと戻っていく。受け取った力は大きすぎるが、それでもそんなことはどうでもよくて、俺は早くアリスに会いたいという気持ちが強かったのは言うまでもないだろう。
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