第82話 騎士団長の息子はプレデターを倒す

「いくよ」


先手は『プレデター』だった。手元で弄んでいたナイフを唐突にこちらに投げてくる。この視界でなおかつこちらの顔面を的確に狙った一撃を本来ならば慌てて避けるはずだが、俺はそれを手元から取り出したハンカチ越しに受け止める。直後に俺は前にダッシュして後ろに回りこんだ女の一撃をかわす。


「今のを避けられたのは初めてだよ。君本当に人間?」

「それを言うならお前もな。ナイフを囮にして背後まで一瞬で移動する。今の動き確実に殺すつもりできたな」

「あはは、普段ならここで相手は終わりなんだけど……君には全く効果がないみたいだ。魔法を使ってなくてその身体能力はかなりおかしいよね」


そうコロコロ笑うが、今の動きは明らかにおかしかった。おそらく身体強化ではなく、転移的な魔法を使ったのだろう。所謂、瞬間移動だろうか?それに投げたナイフには毒らしきものがついていたからこれも魔法なのだろう。


「まあ、いいよ。どうせなら楽しまなきゃね!」


その言葉と同時に女の姿が消える。俺は瞬時に後ろからくる攻撃を察知して余裕を持って避ける。瞬間移動とはいえ、この手の能力なら不意打ちに後ろに回り込むのがセオリーなので何の驚異にもならない。女もそれを悟ったのか、距離を取ってから微笑んで言った。


「接近戦では分が悪いようだね。なら、これはどうかな?」


そう言いながら女が片手を出すと、その周囲に何やら光が集まりだして、やがてそれは大きな爆発と共にこちらに目掛けて放たれた。完全に近所迷惑なそれを避けるか迷ってから俺はこの爆発による被害のことを考えてため息まじりに『ゼロ』を抜く。すると爆発はあっという間に消えてしまった。その光景を見てから唖然とするかと思いきや、女はくすりと笑って言った。


「やっぱり、何か切り札があるんだね」

「傍迷惑な技を使うな。後で面倒だろ?」

「どうせ避けると思ってたからね。しかしそれならこれも無理かな?」


その言葉と同時に不自然に雲が集まりだしてやがてそれは一筋の雷撃となって俺に降ってくる。しかし、魔法を無効化できる『ゼロ』があればその程度なら余裕で消せるので問題にはならない。完全に雷撃を打ち消すと、女はほくそ笑んで言った。


「僕の魔法を消すのはその剣かな?」

「だとしたらどうする?」

「奪って僕の物にしたいけど、残念ながらその余裕はなさそうだね。接近戦ではその人間離れした身体能力と冷静な判断で圧倒して、中、遠距離はその剣で魔法を無効化される。圧倒的に僕の不利だね」


どうやらかなり冷静のようだ。むしろ楽しんでいるようにも見える。


「僕の手持ちの魔法じゃ勝てないかな?これでもかなり奪ってきたんだけど、魔法を無効化される剣にそれを扱う化け物には相性が悪いや」

「降伏でもするか?」

「冗談。でも少しだけ困っているのは本当かな」


そう言いながらまたしてもナイフを投げてくるのでそれを受け止めると今度は目の前に現れて『ゼロ』を奪おうとするが、俺はその前に女の手首を掴むと捻りあげていた。


「いたた……普通、女の子にこんなことする?」

「他人から奪おうとしておいてよく言うな」

「やっぱりあの程度じゃ、意表をついたことにはならないか。それなら……」


今度は自身の身体を液体に代えて俺の拘束から逃れてから、女はまた今度は自身の肉体を粘土のように柔らかくしてから俺を包みこもうとするので、『ゼロ』で無効化をする。


「これもダメか。君本当に強すぎるね」

「今度は俺から行くか?」

「何かあるならどうぞ」

「そうか。なら遠慮なく」


俺は一歩で女に近づくと、そのまま地面に女を叩きつける。が、女は一瞬早く自身の肉体を液体に代えていたので逃がさないようにあたりをつけてから『ゼロ』で無効化する。やがて無効化された女がその場に現れて俺に拘束されると、不気味なほどの笑みを浮かべて言った。


「やっぱりダメだ。君には勝てなそうだね」

「なら、大人しく捕まるか?」

「ううん。折角だから最後に悪あがきをするよ」


そう言いながら女は手元からナイフを取り出すと、それを己の心臓に突き立てた。


「かっ……はっ……これがナイフの痛み……ふふ、いいね」


吐血しながら女は意識を失う。すると、なんらかの魔法が働いたのがわかったので、それを打ち消そうとする前に違和感に気づく。身体の反応が鈍いのだ。


「なるほど……自身の魂を相手に宿す類いのものか」

『正解だよ。成功してよかったよ』


内側から女の声が聞こえてくる。


『これで君を乗っ取れば僕は最強になれるね』

「あまり調子に乗るなよ」


俺はその異物に対して抵抗しながら身体強化の魔法を使う。すると、女の意識が徐々に消えていくのがわかる。外側からの圧倒的な力に魂が持たなかったのだろう。やがて女の一部だけが俺の元に残るのがわかった。完全に女の思念が消え去ったことがわかると同時に俺は女からかなり厄介なものを受け取ってしまったことがわかった。女の死体を見ても、全く生気はないので、これで一応は倒したことになるのだろう。なんとも言えない終わりだが、これで一応は一件落着になったのだろうと、その時は思ったのだった。








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