第61話 騎士団長の息子は婚約者に渡す
「エクスが先生ですか?」
不思議そうな表情のアリスに頷いて言った。
「お祖父様からの頼みでね。子供達の魔法に関して週一でみてるんだ」
「そうなんですか……あの、ちなみに子供達って男の子ですか女の子ですか?」
「男の子一人に女の子二人だけど、気になる?」
その言葉にアリスはしばらく視線を泳がせてから小さく頷くと言った。
「自分でも最近変なんですが……エクスと会えない時間にエクスが他の女の子と会ってたらどうしようっていつも考えちゃうんです。エクスのことは信じてるのに変ですよね」
どうやらいい感じに独占欲が強くなってきているようだ。とはいえ会えない時間のフォローに関してもまだまだ改善の余地がありそうだと思えた。やはりなんとかして気軽に連絡できる手段が欲しいな。携帯、スマホみたいなツールが欲しいけど異世界ならではの魔力を使った電話みたいなものはこの世界では使えない。そもそも魔法自体が不安定なものなのであまり頼れるわけではない。いっそ念話とかの意志疎通系統の能力者をたがいに元に置いてやり取りをするか?いや、できればもっと気軽に出来るものがいい。そうなるとやはり電話をなんとしても使えるようにするべきだろうか。
「わかるよその気持ち。俺もアリスのことを信じてはいても心配になるから。だからそんな時のためにこれを渡そうと思って準備していたんだ」
俺は懐から二つのロケットペンダントを取り出して片方をアリスの首にかける。そしてもう片方を自分の首にかけると、首を傾げてロケットペンダントを見るアリスに言った。
「結構恥ずかしいんだけど、作ってみたんだ。中を開けてみてよ」
「はい。……あれ?これはエクスですか?」
そう、なんとも恥ずかしいことに自分の写真を入れたロケットペンダントを俺はアリスに渡していた。俺からすれば価値はゼロな上に下手したら退かれかねないことだがアリスはその写真を見て嬉しそうにしていたので第一段階はクリアだろう。
「いなくてもお互いを感じられるようにしたくてね」
「お互い……あの、そのエクスのペンダントの中身はもしかして……」
「うん。アリスの写真が入ってる」
その言葉に恥ずかしそうにするアリス。俺はそれに微笑んで言った。
「嫌なら止めるけど、こうしてアリスの写真が手元にあるだけで凄く元気になれるんだよ。寂しい時にもアリスが側にいるように思えるからね。ダメかな?」
「は、恥ずかしいですけど……私もエクスの写真を、このペンダントを持っていたいので大丈夫です。それにその……エクスがこうして私のためにやってくれたのは何よりも嬉しいです」
そう天使のように微笑むアリス。やはりアリスは素晴らしい。普通なら気持ち悪いと思えることでも普通に受け入れてくれる聖母。聖女様万歳。
「でも、またエクスにプレゼントされちゃいました。私もエクスに何かプレゼントしたいです」
「そうだね……じゃあ、お願いを一つ聞いてもらうというのはどうかな?」
「むぅ、エクスはまたそうやってはぐらかす。エクスのお願いは私を幸せにしちゃうから禁止です」
むぅと口を尖らせるアリス。可愛い、可愛すぎる!あざといと言われようが可愛いものは可愛いのだ。お持ち帰りしたい。テイクアウトプリーズ!なんて思いながらも少しだけ悩んでから笑って言った。
「困ったな。アリスからなら何を貰っても宝物になってしまうよ。強いて言うなら本当に一つだけ頼みたいことがあったんだけどね」
「頼みたいことですか?」
「うん。実はアリスに着て欲しい服があるんだ」
「服ですか?」
ただの服ではない。わざわざ東の国から仕入れてきた珍しい服だ。まあ、とはいえ異世界育ちの俺からしたらこの世界に存在していたことに驚きと感謝をするくらいだ。
「よくわかりませんが、エクスが望むなら私はなんでもしますよ」
笑顔でとんでもなく破壊力がある台詞を言うアリス。俺が鬼畜系主人公なら手込めにされても文句の言えない台詞に俺は微笑んで言った。
「ありがとうアリス」
「でも、お願いとプレゼントは別です。エクスには今度私からプレゼントさせて貰います」
「期待してるよ。そうそう、さっきのペンダントの内側に彫られた文字の反応も期待してるよ」
「文字?」
そう言ってからペンダントを開けて写真とは反対側の蓋の裏側を見てからアリスは頬を染めてしまう。そこには『エクスからアリスに永遠の愛を誓う』と書かれているのだ。この台詞に自分の写真入りとはなんともナルシストっぽくて死にたくなるが需要があるならいいさ。まあ、外していたらただのイタイ人だけど、アリスにとって今のところ俺はあまりマイナスの行動をしてないのでそれなりに効果はあるはずだ。
「あの……エクスの方にはなんて書いてあるのですか?」
「知りたい?」
「い、いえ。なんとなくわかりました」
俺の方には『アリスからエクスへの永遠の愛を求める』と書いてある。流石に許可なく写真を使ったのでその負い目でこうして謙虚に書いたが、場合によっては新調するだろう。そうしてアリスとの時間を過ごすことは何よりの幸せなのです。
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