第60話 騎士団長の息子は教師を始める

「えっと……こほん。では授業を始めよう」


翌日から、俺は週一のペースで子供達の教師を引き受けることになった。わざわざ我が家まで通ってくれるとのことなので自宅の訓練場に3人の生徒を集めて授業を始める。


「あ、あの……エクス先生」

「何かな?」

「わ、私あんまり魔法について自信ないのですが……」


そう言う少女は生徒の一人のマナカ。茶髪でそばかすのある少女の言葉に残りの二人も頷く。


「同感。無意識に出ちゃうのコントロール出来る気がしないよね」


緑色の髪の凛々しい少女、ライアは風を操りながらそう言う。


「というか、先生今までの先生より若いけど大丈夫なの?本当に強いの?」


赤毛のわんぱくそうな少年、ガリバーがそんなことを言うので俺は頷いて言った。


「そうだな。まあ、君たちよりは強いよ」

「本当なの?俺は結構強いよ」


しゅっしゅっとシャドウボクシングするガリバーに俺は苦笑しながら言った。


「ガリバーの魔法は確か瞬発力アップだったね。ライアは風魔法、マナカは催眠魔法だね」


瞬発力アップは身体強化の下位互換の魔法だけど、使い方によってはスピードだけなら身体強化を上回れる可能性もある。風魔法は本人にもコントロールしきれないほどに常に風を纏っているようだ。そして催眠魔法はある意味ヒロインとジャンルが近いが洗脳系統に近いようなものだろう。


「ガリバーには実践で使い方を教える方が良さそうだね。ライアは風魔法を制御するために今使える限界を知ろうか。そしてマナカは俺に対して催眠を使って練習するといいよ」

「で、でも……先生が催眠に掛かったらまずいですよ?」

「まあまあ、試しにやってみなさい」


その言葉に戸惑いつつもマナカは俺に対して催眠魔法を使う。妙なリズムの力が俺に入ろうとするが、身体強化を発動させると途端に消える。我ながらチートな力に呆れつつも目を瞑ってるマナカに笑っいった。


「目を開けてごらん」

「はい……あれ?」

「マナカどうかしたの?」

「先生に魔法確かに使ったはずなのに……その手応えがない」

「と、いうわけで俺には催眠魔法効かないから、バンバン使って試してみるといいよ」


その言葉に驚くマナカ。それを見てからライアを見るとライアは少しだけ戸惑いつつも言った。


「私は風魔法使えばいいの?コントロールできるようにしたいのに使えるようにしていいの?」

「まずは自分の限界を知ること。まあとりあえずやってみなさい。ここなら被害は出ないから」

「わ、わかったわ」

「そして最後にガリバーは俺と戦闘訓練だ。安心していいのは俺は魔法を使わないことだよ」

「余裕だね先生。そんなら……いくよ!」


そう言ってからガリバーは瞬発力アップでえらく速くにこちらに蹴りを放ってくる。子供とは思えないその速度に俺は特に焦らずそのまま蹴りを止める。


「なっ……嘘だろ!」

「ガリバー。速いのが君の特性なんだからもっと揺さぶってからじゃないと効果が薄いよ?」

「くっ……」


その言葉にガリバーは案外素直に跳躍で速度を保ってから突っ込んでくるようになった。まあ、速いし蹴りも悪くないけど来るとわかってる上に体格差とそれに身体能力の基礎的な部分でのスペックの違いで勝負にすらならない。大人げないが、簡単に負けてあげるほど優しい教師ではない。


「すご……ガリバーの攻撃を魔法無しで防いでる」

「そ、それよりライアちゃん。先生かなり余裕だよ。何度か私が催眠魔法使ってるのに尽く無効化されちゃう」

「マナカ。あんたも結構容赦ないよね」


そんな会話をする少女二人。確かにさっきから何度か催眠魔法使ってきてるが……マナカは意外とドSで先生驚いてるよ。そうして余裕で防いでいると、ガリバーが少しだけ泣きそうな表情になっているので苦笑してしまう。


「ガリバー。この程度で泣いてはいけないよ。世の中にはこんな理不尽よりもさらに酷いものが溢れてるからね」

「な、泣いてない!」

「そう?ならいいけど。それでどうする?このまま続ける?それとも辞める?」

「やる!絶対先生に一撃いれてやる!」


そうしてこの日から俺の教師としての生活は始まった。ガリバーには瞬発力アップの魔法を最大限使えるように組み手の稽古を。剣術とかでもいいけど、ガリバーの場合速いからやるならレイピアとかナイフとかの軽い得物がいいだろうと思いまずは組み手を教える。騎士団長の息子だけど騎士とは剣だけで成り立つ仕事ではない。得物がなくても戦えることが大切なのだ。そしてライアには風魔法を疲れるまで使ってもらって規模の把握と強弱の感覚を磨いてもらう。そして、マナカには常に俺へと催眠魔法を使わせて、コントロール方法を身につけてもらう。実際に催眠はされなくても感覚でコントロールできるようになるのが最低条件だろう。


結構クセが強い生徒に恵まれてしまったが、アリスとの時間を削りたくはないのでそれなりにしっかりとやって成果を出そうとする。まあ、子供達皆天才みたいだからあまり心配はしてないけどね。




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