第55話 騎士団長の息子は挨拶イベントをおこす
「アリス。俺の両親に会ってくれないか?」
貴重な二人きりの時間に俺は意を決してそう言うとポカンとしてからアリスは顔を赤くして聞いたきた。
「あ、あの……それは一体」
「両親にせっつかれてな。早くアリスに会わせろと」
「そ、そうでしたか。なら、是非行きます」
「ありがとうアリス」
そう微笑んでから俺は少しだけほっとする。両親への挨拶イベントなんて大変なものを断られることはないだろうとは思っていたけど、それでも実際に承諾するまで緊張はしてしまうものだ。なんだかんだでアリスの両親には結構な頻度で会っているが、アリスが俺の両親に会うのは子供の頃以来かなり久しぶりなので、少しだけ心配になる。
「多分、将来の話をされるけど大丈夫かな?」
「将来ですか?」
「うん。アリスがロスト子爵家へと嫁入り、いや、俺の嫁になることで、色々とアリスに伝えたいことがあるんだと思う。少なくとも母上はそういう気持ちみたいだね」
「大丈夫ですよ。エクスとの将来のことはずっと考えていたので覚悟は出来ています」
「嬉しいけど……ずっと考えていてくれんだね」
その言葉にアリスは今さらながら照れつつ言った。
「うぅ……そ、そうですよ?エクスとの将来について色々と考えてまいましたよ。エクスのお嫁さんになって色々することを考えてしまいます。だ、ダメですか?」
「いや、むしろ嬉しいよ」
そこまで考えていてくれたことに素直に嬉しいと思う。きっとアリスの中では理想の俺との新婚生活があるのだろう。乙女チックな妄想をするアリスというのもなかなかいいが、やはりその理想の新婚生活に出来るように努力はするべきだろう。ちなみに俺の中では一度はやって欲しいことに裸エプロンがあるが、可愛いエプロンなんてこの世界には存在しないので叶わぬ夢だ。いっそのこと作ろうか……ウェディングドレスと平行して作ってみるか?アリスなら何の疑いもなく着てくれそうなので、少しだけ欲望に負けそうになる。
「ねえ、アリス。例えば明日、俺とアリスが結婚することになったらどうする?」
「ど、どうって……その、嬉しいです」
「嬉しい?」
「エクスと早くに夫婦になれるのは凄く嬉しいです。もう少しだけ婚約者という立ち位置を楽しみたい気持ちもありますが、早くエクスのお嫁さんになりたいというのも本当なんです」
そんなことを純粋な瞳で言われては邪な気持ちなんて抑えられてしまう。やっぱりアリスは凄く純粋なのだと思う。まあ、それはそれとして、やはり一度はアリスにヤンデレ的なプレイをされてみたいものだ。両手両足を封じられて、二人きりの部屋で「ふふ、これでエクスは私だけのもの。これからはずっと一緒だよ」みたいなことを濁った瞳で言われればなお良しだろう。いや、アリスには絶対ヤンデレが似合うんだって。まあ、俺の糖度が高すぎるから薄くならざる得ないんだろけどね。
「ねえ、アリス。俺はアリスのことが大好きだよ」
「はい。私もエクスのこと大好きです」
「うん。知ってる」
「はい。知ってます」
二人でくすりと笑う。こうして相手に気持ちが通じてるのがわかると嬉しくなる。きっとアリス以外にはこんなに気持ちを通わせることはできないだろう。いや、したくない。というか、してたまるかという気持ちが強い。俺にとっての一番がアリスでアリスにとっての一番が俺でなくてはならない。いや、仮にアリスの気持ちが遠くなっても必ず取り戻す。俺の全てをかけて。そのためには日頃からアリスとのコミュニケーションを密に取る必要があるだろう。いや、必要なくてもアリスとのコミュニケーションと触れあいはなくてはならないもの。酸素と同じです。
「母上はともかく、父上には何を言われても微笑んでれば多分大丈夫だから」
「そうなのですか?」
「それに、父親とはいえアリスとあまり仲良くされるのは少しだけ面白くないからね。いや、本心を言えば家族だろうとアリスと仲良くしているのは嫉妬してしまうかな」
「そうですか……エクスも同じなんですね」
「同じ?」
首を傾げるとアリスは笑顔で言った。
「私もエクスがお母様と仲良くするのは複雑な気持ちになりますから。もやもやしたような……嫉妬と言うのでしょうか」
俺好みのアリスになりつつあるようです。家族にすら嫉妬をおぼえるこの可愛さ。やはりアリスは可愛い。そしてアリスのヤンデレという俺の夢に少しだけ近づいたような気がする。まだまだおぼろげながら片鱗を見せつつある。やっぱりヤンデレ、溺愛レベルの方が安心できるからね。愛されてる実感があるし。
「じゃあ、お互いにもっとイチャイチャしないとね」
そう言うと恥ずかしそうにしつつもアリスはこくりと頷くのだった。まだまだ羞恥が強いようだけど、やがてそれも越えていけるのだろう。その先にある全てを超越した愛こそ至高。なんてことはまあ言い過ぎだけどアリスが俺のことをもっと好きになるならこれ以上に嬉しいことはないだろうと思うのだった。
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