第53話 騎士団長の息子は呼び出される
アリスとの平和な日々は早々にまたしても邪魔をされる。もうかなり働いたんだから少しくらい羽を伸ばしてもいいでしょうと思う俺を呼び出したのは国王陛下だった。リンスが帰ってきたからそのついでに呼び出しとはマジで勘弁と思いつつ俺は城へと向かうのだった。
謁見の間にはすでに国王陛下とリンスがおり俺は仕方なく臣下の礼を取ると国王陛下は言った。
「呼び出したのは他でもない。貴殿の手柄を褒めようと思ってな」
「そのようなお言葉勿体ないです」
「ほほ、相変わらず嘘が上手い奴だな。だが、貴殿がリンスと共に上げた功績は計り知れない。我が国を蝕む予定の薬を排除してあまつさえその輸入ルートを早くに潰せたことは大きい。そして、友好の証としてサルバーレ王国の王女をリンスの嫁にできるのはなかなかに良い」
「全てリンス様の手柄にございます」
「面倒だから逃げようとするな。私としてもそろそろ貴様に表舞台に立って踊って欲しいのだよ」
あまりにも理不尽なことに思わずむっとしてしまいそうになるが、なんとか抑えて言った。
「では、私に何かしら報奨を下さるのですか?」
「ああ。望むものを言え」
「では、今すぐ帰らせてください。私にとってはそっとして下さることが何よりの褒美ですので」
「そうはいかぬのよ。貴殿がこれからリンスとこの国を作るのだ。その地盤を固める意味でも手柄は公にしたい。当然褒美もとらせないと格好がつかないからな」
その言葉に俺は内心でため息をついてから言った。
「でしたら、リンス様が学園を卒業するのと同時に王位をリンス様に渡してください」
「ちょっ……エクス。なにそれ?」
「ほほう。さしずめ私を早くに排除したいからの提案か。しかし一年で王位を継がせるとはなんとも酷な話よのう」
「大丈夫です。リンス様は天才ですから。それに私も卒業して騎士団に入ってから一気に騎士団長の座まで行くつもりですから」
「ふむ。そうか。騎士団か……ふふ、良いことを思いついたぞ」
その台詞は大抵こちらには悪いことなのだろうと思っていると国王陛下はニヤリと笑って言った。
「エクス・ロスト。貴殿に新たな騎士団の創設を言い渡す。団長は貴殿だ」
「慎んで辞退させていただきます」
「結論を急ぐな。無論お前には通常の騎士団に入りつつ、それとは別に組織を作って貰うが優先順位が高いのは新たな騎士団の方だ。少数精鋭でお前の好きなようにメンバーを集めよ。基本的には通常任務はなし。この組織は国内外問わず、国益と次の国王であるリンスの命令。そして貴殿の思うように動かせる一種の私兵と言うべきだろうか」
要するに独立部隊と。しかしそれはまた面倒なと思っていると国王陛下は言葉を続けた。
「そして、この部隊はこの国の切り札とも言うべき存在とする。貴殿がすでに喧嘩を売った『プロメテウス』に対抗するべく組織された組織だという認識を持つように」
「喧嘩を売ったのは私ではなく、この国でしょう。私は命令に従っただけですから」
「お前さんがどう思おうと結局お前がやったことには変わらない。だったらいっそのこと前向きに対策を練ろうとは思わないか?」
「いえ、全く」
そもそも俺はそういうクソ展開に付き合う暇はないのだけどもと思っていると陛下は気にした様子もなく言った。
「まあ、いずれにしてもこれは命令だ。従ってもらおう」
「褒美をくださるという話ではありませんでしたか?」
「新たな騎士団の創設は十分な褒美だろう?まあ、しかしそれで満足できないなら今後この国への貴殿の発言力。いや、ほとんど全権を事実上渡しても構わない」
「本気でいらないです」
「騎士団の創設は早いに越したことはない。卒業までに貴殿が、考える人員を集めよ。ロスト子爵には話を通しておこう。安心していいのは騎士団には普通に入団して騎士団長にもなっても構わないということだ」
どのみち俺はかなり色々厄介事を押し付けられたという認識でいいのだろうか。はぁ嫌だ嫌だ。面倒すぎる。なんで俺がそこまでしなきゃならないと思っているとリンスはそんな俺の内心を見透かしたように苦笑して言った。
「この話に乗ってくれたら、最高級のウェディングドレスを約束するよ」
「……少しだけ考えさせてくれ」
「というか、最高の職人を提供するよ。デザインとかはエクスが好きなように注文してもらって構わないし。アクセサリー類とかも顔が広い人を紹介するよ」
この世界のレベルがわからないからなんとも言えないけど、やり方によっては最高のウェディングドレスが作れる。それを考えるとやる気はそこそこ出てくるのだから、やはり俺はアリスのためという理由でしか動けないようだ。しばらく考えてから俺はため息混じりに言った。
「アリスとの時間邪魔するようなら抜けますのであしからず」
「うん。それでいいよ。ありがとうエクス」
「それなりの給金は期待してもいいんだよな?」
「うん。そもそも薬の一件で褒美は出す予定だからそこは大丈夫だよ」
リンスの言葉に俺はため息をついて結局頷くのだった。
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