第29話 騎士団長の息子は悪役令嬢の義弟を壊す
「こちらになります」
案内されたのはミスティ公爵家の地下。アリスに会う前に用事を済まそうと俺はその牢に話しかけた。
「ゲイツ・ミスティ」
「……誰だ?」
「忘れたか、お前の恨みの対象エクス・ロストだ」
そう言うとドンと牢が軋むほどに突撃してきたアリスの義弟くん。暗い牢からギリギリ届かない手を突き出しながら義弟くんは叫んだ。
「エクス・ロスト!貴様……キサマァ!!!!」
「元気なことだ。そう思うだろ?リンス」
「ここまで悪意を向けられてそう平然とする君はやっぱり凄いね」
隣のリンスにそう言われるが、アリス以外から俺に対してどんな感情を向けられてもわりとどうでもよかったりする。それでアリスに害が及ぶならその前に防ぐが、まあ、そうじゃなければどうでもいい。それにこれから壊す相手にそんな感情は不要だろう。
「さて、私は君に事実を告げにきたが、覚悟はいいか?」
「エクス・ロストォ!!お前は許さない!絶対にだ!」
「君の許しはいらないが、率直に言えば君はもうミスティ公爵家には用済みなんだよ」
その言葉にさらに悪意が籠った瞳でこちらをみてくるが俺は冷静に言葉を続ける。
「知ってるか?ミスティ公爵、君の義理の父親は新しい養子を引き取ったことを」
「……!」
「知るはずないか。何しろこれから君は死ぬまでこの牢で過ごすからね」
「そんなわけ……ち、義父上がそんなこと言うわけないだろ!」
「確かに言いはしないな。そもそも君に会うことが二度とないと思ってるからね」
ミスティ公爵は義弟くんに微塵も興味はないのだろう。まあ、それはそうだ。血が繋がってない公爵家を継ぐだけの道具として義弟くんを見てるようだったからな。
「君だって知ってただろ?君はこの公爵家で愛されてなんていなかったって」
「……そんなこと」
「ないと言えないだろ?それはそうだ。普段散々使用人や家族に偉そうにしていたのに、魅了魔法に簡単にハマって公爵家の看板に泥を塗ろうとしていたのだから」
聞いた話と、俺が知ってる義弟くんの情報では彼はかなり傲慢な態度を取ってるような人間らしい。まあ、プライドが高いのはきっと孤独の裏返しなのだろうが、それを他人に向けたらそりゃ評判も悪くなるだろう。同情もなくはないが、アリスはそれを我慢していたことを考えると精神の弱さだと言いたくもなる。
「これから君は一生この牢で過ごすことになる。たった一人で孤独に死ぬんだ」
「ふ、ふざけるな!そんなこと……」
「信じないならそれでもいいさ。君はこれからも孤独だ」
「……!」
あんまりイジメたくはないが、これも仕事だと割りきって言った。
「ゲイツ・ミスティ。君には選択肢が二つある。このまま信じずに死ぬか、信じて死ぬかの二択だ。なんだったら俺が介錯をしてやってもいい」
そう言ってからチラリと剣を見せるとあからさまに怯えた表情をする義弟くん。段々と俺の言葉が事実だとわかってきたのだろう。俺はその怯えを逃さずに言った。
「公爵から許可は得てる。望むならその首を頂くこともできる」
「ひっ……!」
怯えながら後ずさる。そんな彼を見て心底憐れに思うがそんなことは表情には出さずに続ける。
「どうした?猶予はそうないぞ?このまま俺が去ればもっと苦しく死ぬことになるかもしれない。老衰か、食事に毒か……あとは飢餓か」
びくんと、最後の言葉に反応する。確かこの子は一時期前の家で食事を抜きというイジメを受けていたはずだから、飢餓に反応したのだろう。その時の苦しさを思い出してかガタガタ震える彼に俺は変わらない口調で言った。
「飢餓に反応したな。なら公爵にはそれを伝えておこうか」
「ま、まって……!」
「なんだ?」
「やだ……やだやだやだやだやだやだ!絶対にやだ!死にたくない!」
涙を流しながらそう駄々をこねる彼に俺は冷静に言った。
「これまでのツケだと思うしかないね。諦めてくれ」
「そんな……」
「でも、一つだけ助かる方法があるよ」
その言葉に反応する彼に俺は一転して優しく微笑みかけて言った。
「これまでのすべてを捨てて、私の奴隷になれ。そうすれば命は助かる」
「なる!なるから!だから助けてくれ――いや、ください」
地面に頭を擦りつけて土下座する彼に俺は若干罪悪感を抱きつつも笑って言った。
「そうか、ならこれからは私のことをエクス様と呼べ。そして俺の命令には絶対服従。いいな。あとアリスに手をだしたらその場で殺すから」
「はい!」
「ちなみにもしこの場だけ耐えてあとは大丈夫と安心したら甘いから。君を殺すことはいつでもできると覚えておくといいよ」
まあ、多分大丈夫だろうが、逃げるなら殺していいと他の者には伝えてある。どのみち行き場なんてないから無駄なことだろうが、これで若干胸糞悪い展開は終わったと考えていいだろう。あんまりこういう脅すみたいな展開は好きじゃないけどアリスを守るためならこの程度のことは平気でできる自分に呆れてしまうのだった。
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