第5話 急な来客
何故ティモに仁泉が……? 俺はバイト先での姿を仁泉に知られるのが恥ずかしかったので仁泉にはバイト先を教えてないし、仮に教えていたとしても仁泉が別れた後でこの店に来る理由が無い。何用ですか? 誰かに俺のバイト先聞き出したりしたの? あ、俺のバイト先知ってるの真野くらいだったわぴえん。
「えーっと……。一名様でよろしかったですか?」
定型分でそう尋ねると、仁泉は俺から目線を逸らしてコクリと頷いた。何が何だか訳のわからない俺はもうヤケクソ。いつもより五倍増しの営業スマイルで席へと案内した。
「ご注文お決まりになりましたらそちらのベルでお呼び下さい」
俺の言葉に仁泉は再び無言でコクリと頷く。これ本当どんな状況ですかいじめですか? 何で一人でこんなとこ来てんだよ……。混乱している俺は逃げるように厨房へと早歩きで戻った。
「なぁ真野」
「何ですか?」
「自分が振った相手に一週間後になって会いたい気持ちって理解できるか?」
「まぁ喧嘩別れとかならあり得ないですよね。自分が振られた側なら会いたい気持ちもわかりますけど」
真野の言う通り、仁泉が振られた側で俺に未練があればこうして会いに来ることも考えられるのだが、逆の立場で俺に会いに来る理由が分からなかった。ごめん自惚れたわ、俺に会いに来た訳じゃないかもしれないよな。ただお腹が空いていたから一人で飯を食べに来たって可能性も……ある訳ないだろ馬鹿。
「だよなぁ。今ここに仁泉が一人で来たんだよ」
「え、仁泉先輩が?」
「ほら、あそこ」
「……本当だ。確かに仁泉先輩ですね」
メニューを見て何を注文しようか悩んでいる姿も可愛くてたまらない。あんなに可愛い女子が俺の彼女だったなんて……。なんでメニューを見ながらあんなに赤面してるのかは分からんけど。
「あ、仁泉先輩がベル鳴らしましたよ。ほら、行かないと」
「お、おう。とりあえず行ってくる」
正直今は気まずいのであまり話したくはない。
しかし、仁泉は今、俺の彼女でもなければ友達でもなくティモの大切なお客さんだ。そう割り切って俺は急足で仁泉が座る席へと向かった。
「ご注文お伺いいたします」
「……なめらかプリン一つ」
「なめらかプリンがお一つですね」
「あと……」
「……?」
「お名前教えていただいてもいいですか?」
……名前? いや榊史桜だけど。え、まさか名前覚えてなかったの? 流石に名前は覚えられてると思ってたわ。仁泉にとっての俺はその程度の存在だったって事か……。それは流石にメンタルやられそうだわ……。
「さか……っ」
俺は自分の名前を言いかけたところでとある可能性に気がつき途中で口を止めた。
これもしかしてだけどもしかする? いや、まさかそんな訳……と言いたいところだがその可能性は捨てきれない。
「……さか?」
「僕たちどこかで会ったことあります?」
「--え⁉︎ べ、別に会った事は無いと思いますけど……」
そうか、会った事無いのか……。うん、分かった。これ俺が榊だって気がつかれてないわ。別人だと思っちゃってるわ。確かにこれだけ見た目違うと分からんわなぁ。カオス。あ、発音悪かったね、ケイオス。
「
咄嗟に俺と似た別人の名前を考えて仁泉に伝えた。俺が榊であると気付かれる訳にはいかないので全く別の名前を言いたかったが、さっき「さか」まで言いかけたので坂井と伝える他無かった。
「……坂井さん。私と……付き合ってください」
何この超展開ついていけないです。
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