第4話


『中山大志くん。今すぐ学園長室に来てください。』


翌日の放課後。突如としてそんなアナウンスが流れた。


「どうしたの大志。またなんかしたの?」


「またってなんだよ智久。学園長室に呼ばれるなんて今日がはじめてだよ。…昨日下校時間過ぎても部室にいたからそのことかな?」


VMW内では時間の流れがイマイチわかりづらいから、ついついやり過ぎてしまい下校時間になり、先生に怒られてしまった。そのことだろうか。昨日みっちり怒られたんだけどなぁ。


それだけで学園長室にまで呼ばれるとは思いにくいけれど。…というか学園長室ってどこにあるんだ?なんだかんだ行ったことは一度もない。一旦職員室で聞いてみるか。


「というわけでごめん智久。長くなるかもしれないから先帰っててよ。」


「仕方ないよ。VMWはまた今度に持ち越しだね。」


今日は珍しく野球部の練習が休みなので、智久たち野球部員とVMWをやる予定だった。久々に試合ができると思ったんだけどなぁ…。


とはいえ、学園長室に遅れて先生をさらに怒らせるわけにはいかない。智久に別れを告げ職員室へと急ぐ。廊下に出て小走りで進む。職員室は南棟の二階だからそこそこな距離だ。


…こういう急いでる時、ついついVMW内の強化された身体能力のつもりで階段を5段飛ばしとかしてしまいそうになる。実際にやると間違いなく骨折するんだろうけど。


「っとと!?」


なんてこと考えながら二段飛ばしで階段を降りていたところ、踊り場のところで下から上がってくる人とぶつかってしまった。女の子のようで尻もちをつき倒れてしまう。彼女はそのまま踊り場から転げ落ちそうになるもなんとか堪えてくれた。


「ご、ごめん!大丈夫?」


僕は出来た人間なのでしっかりと謝る。向こうも結構な勢いで階段を上がってきていたので、怪我が心配だ。


「あぁ、大丈夫。気を付けろよ。」


男勝りな話し方に似合わず、随分と可愛らしい声をしているなぁ。そのまま去るわけにもいかないので、彼女に手を差し伸ばす。


「ありがとな。」


にっこりと笑った彼女と目があう。なんだ、かなり可愛いじゃないか。気の強そうな目に整った鼻。真っ赤な唇に白い肌。背中辺りまで伸ばされた髪は前髪の一部分が白く染められている。メッシュってやつなのかな。


どこかで見たことあるような…。あれ、この子…


「もしかして優希さん?」


「んぁ?オレを知ってんのか?」


やはり優希さんだ。VMW部もう1人の部員の織田優希さん。入部時に一度だけ顔を合わせたことかある。あれ以降一度もあってないんだけど、あんまり可愛いもんだから一年近くたった今でも彼女のことを覚えていた。


「ほら、VMW部の!覚えてない?」


「…ナンパか?」


「違うよ!確かに『どっかで会ったことありますよね?』系はナンパの常套句だけども!」


「だよな。お前の顔面でナンパは無理だろうから。」


「そうだよ!…え、なんで今流れ作業のように僕の心を傷つけたの?」


残念ながら僕のことは覚えていないようだ。クラスが同じなわけでもないし仕方ないといえば仕方ない。


っと、とりあえず彼女を起こさなければ。もう一度手を伸ばす。彼女は笑顔で僕の手をとり、


「よいしょっとぉぉ!」


「へ?」


思い切り僕の腕を引く。突然のことだったため僕は何が起きたか理解できない。彼女は階段の踊り場のギリギリで倒れているわけで、その状況で手を引かれるということはそのまま––


「あぎゃぁぁぁぁぁ!」


文字通り階段を転がり落ちる。今まで出したことのないような悲鳴とともに、全身に鈍い衝撃が。彼女はというと階段の上からケラケラ笑っていた。


「あひゃひゃひゃ!オレにぶつかっておいてただで済むと思うなよ!」


「何するんだよ!怪我したらどうするつもりだ!」


「チッ…怪我してないのか。」


「全く、なんて女…今舌打ちした?」


キッと睨みつけると、彼女はチッチッチ、と舌を鳴らし人差し指を立てた手を横に揺らす。なんだその絶妙にむかつくポーズは。


「違うぜ。プールから上がるとき手を差し伸ばしてきた奴を思い切り引っ張って落とすみたいな青春イベントあるだろ?あれをやりたかっただけだ。」


「あ〜なるほど!なら仕方ないとはならないよ!!あれは落ちる先が水で安全だから『あはは、やりやがったな〜』みたいな雰囲気になるんだよ!階段でやったら色々意味合い変わるから!『殺りやがったな〜』になるから!」


「ツッコミが長い。マイナス2点だな。」


「…なんかすみません。」


色々とぶっ飛びすぎてるなこの子。先ほど述べたように僕は出来た人間だ。道を外しかけてる子がいたら説教しないと。ズンズンと彼女に歩み寄る。


「おっと、いいのか?オレに構って。だいぶ急いでる様子だったけど?」


そうだった。僕は学園長室に向かう途中。ただでさえ彼女のせいで遅れているんだ。これ以上遅れるわけにはいかない。


「…くそ!覚えてろよ!」


「あひゃひゃ!典型的な負け犬のセリフじゃねーか!」


「うるさいバーカ!ちょっとだけ白髪!えーっとえーっと、アホー!」


「あひゃひゃ!なんとでも言いやがれ!」


全く気に留めない彼女。くそぅ…なんとか一泡ふかせたい。


「…笑い方絶望的に汚い女!」


「…誰の笑い方が汚いってぇぇぇ!?」


「えぇ怒りの沸点どうなってんの!?って、なんで追いかけてくるんだー!!」


さっきの悪魔のような笑顔はどこへやら、一歩で階段を下り、僕に迫ってくる彼女。唐突に鬼ごっこが始まる。


僕は彼女に背を向け一気にトップスピード。足の速さにだけ自信がある僕だが、全く彼女との距離が離れない。


というか迫ってくる表情が怖すぎる。人を2、3人くらい殺してそうな顔してるもん彼女。


「…仕方ないっ!こうなったら!」


偶然開放されていた窓から勢いのまま外に飛び降りる。二階からというだけあってかなりの高さだ。


「んぎぃぃぃいってぇぇぇ!」


着地!両足にビリビリと振動。脳天まで貫くような痛みが襲うがそれもすぐに消える。


「っはぁっはぁ…流石にここまでは来れないだろ。」


先ほど飛び降りた窓の方を見る。追いかけてきた彼女は僕の方を一瞥し、一旦窓の奥へ消える。そして、


「しゃらくせぇぇぇ!」


僕と同じように助走をつけ飛び降りてきた。制服のスカートが風の抵抗によりふわりと舞い上がる。


「…ふむ。白か!って、危なぁぁぁぁ!?」


前方に一回転し緊急回避。直後に彼女が、先ほどまで僕がいたところに着地する。


「お、おまっ!?その勢いでぶつかったら普通に死ぬよ僕!」


「…どうせいつか死ぬんだし、今死んでもいいんじゃないか?人間だもの。」


「あいだみつをはそんな物騒なこと言わないよ!!」


再び彼女が追いかけてくる。鬼ごっこ再開。やばい。体力的にまずい。すでに呼吸は乱れ足がガクガクと震えてしまっている。


どこかに身を隠し体力を回復しなくては。再度校舎に入りどこか隠れる場所を探す。最後の力を振り絞り、彼女から距離を取る。その勢いのまま目についた部屋にダイブするように入室。


「っはぁ…はぁ…助かったか。」


『どこいきやがった!?見つけたらぐちゃぐちゃにミンチにして捨ててやる!』


「ミンチにするならせめて食べてあげてよ…。」


部屋の外からは怒気をはらんだ声で僕を探すあの女の子の声が聞こえる。しばらくここに潜ませてもらおう。


「…ん、ここは?」

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